(研究分野:化学工学・生物化学工学)
工学研究科 教授 大嶋 寛
2010.01.20

化学工学・生物化学工学
創作料理。特に奥様をお客様に見立てた家庭料理の腕前は、玄人はだし(自称)だとのことです。
これまでに取組んできた研究テーマは、「医薬品等の晶析技術」、「酵素利用技術」、「微生物による有用物質の生産(バイオリアクター)」、「バイオマスの有効利用技術(バイオ燃料等)」及び「苔による水銀・カドミウム・鉛・ヒ素等の有害物質除去技術」などです。
現在は、このうちの晶析技術及びバイオリマスの有効利用に力を注いでおります。
特に、医薬品等における晶析技術は、薬剤の効能が薬自体の物性だけではなく、それを服用する人間の体内での溶解能、溶解時間等に薬の粒度や結晶構造が大きく影響し、医薬における晶析技術のウエートが大であることから、社会の要望に応える立場からも力を注いでいる研究テーマです。
ところで、特許権切れのジェネリック薬品が市場に安価に出回り始め、これによって薬品業界に新しい戦略が求められている等のお話を聞かれたことはありませんか。莫大な投資をして開発した薬品の物質特許が権利切れになり、薬品企業が独占できなくなる問題です。この物質特許切れの薬品の独占を、晶析特許によって維持できることから、薬品業界も晶析技術に注視しています。ですから、今の研究をこの問題に役立てることができれば、産学連携に一役買うことにもなります。
バイオリマスの有効利用については、現在叫ばれている環境保全の立場からも社会に貢献すべく研究に勤しんでおります。
しかし、「苔による有害物質除去技術」につきましては、研究の過程で直ぐには解決できない課題もあり、あまり進んでいません。
研究開発には、それなりの費用を要します。大学では一般的に、その費用を科研費や文科省や経産省等の事業助成金(競争的資金)及び企業との共同研究や受託研究費等で賄っています。科研費や各省庁の事業助成金にはそれなりに限界があります。これを、企業との共同研究や受託研究より捻出できるようになれば、つまり、研究成果の一つとして発案された発明を企業と共に特許出願して、企業はそれを独占することで利益を享受し、大学は企業の享受する利益の一部を不実施補償料や他企業への特許権実施許諾料として収得し、これを新たな研究費用に還元するサイクルが構築できれば、或いは、研究の成果を基として次の新たな共同研究に継続するサイクルを構築することができれば、産学官連携はそれなりに有効なものと思われます。
残念ながら、このサイクルは、現在のところ、一部の事例を除き、殆どの大学においてうまく回っていないように思われます。その一因として、企業側の独自の知財戦略が起因しているように思えます。例えば、企業が、防衛特許として発明を実施せずに塩漬けにしたり、また、企業間でのクロスライセンスを目的として特許を保有することなどがその一例です。防衛特許は、大学が望むサイクルを展開できないだけでなく、発明の実施が凍結されることで大学の行った研究成果を社会に役立てることが阻害されることにも繋がります。
クロスライセンスについては、企業は、企業理念の異なる大学との実施料交渉などの煩わしさを嫌い、大学との特許共有を避けて単独保有をする傾向にあるように感じています。
大学はこのような企業戦略を十分に考慮しながら、大学としての企業に対する知財戦略を考える必要があるのではないかと思慮します。
本学の産学官連携に係る部署の方々には、競争的資金申請の手続や研究シーズに係る企業とのマッチング、研究成果の特許化等、いろいろお世話になっています。研究者側としても、研究シーズの紹介を目的にイベントを企画された際には、できる限りの協力をさせて頂いております。イベント等において企業とのマッチングを図ることの難しさや苦労は大変なものだと推察します。欲を申しあげるようですが、イベント後の企業等とのフォローアップの拡充を図って頂けますと、更なる効果がみられるのではないかと期待しています。
企業との特許権の共有についても、企業の考えに押し流されるのではなく、本学としての考えを持つ必要があるのではないかと思慮します。大企業相手が難しいならば、中小企業を対象にする等の知財戦略を講じることも必要かと考えます。
今、大阪市も、市内企業の知財意識を盛り立て収益基盤の一つに知財を活用する政策を進めようとしています。本学も、この政策に積極的に参画し、大阪市の関連部局や商工会、或いは市の工業研究所や環境科学研究所等の諸機関と協働を図ることも、産学官連携の一助になるのではないかと考えます。
研究に対する洞察力は勿論ですが、知的財産に関する見識も広くて驚きました。特に、専門の医薬品における権利切れ物質特許の対策に晶析特許を用いる等の慧眼には、逆に知財戦略の教えを乞うこともあり、有意義なお話を伺うことができました。
新産業創生研究センター 堀部秀雄