乱れの中に秩序を求めて

(研究分野: 低温物理学 )
理学研究科・教授 坪田 誠
2007.01.16

「量子流体力学の研究と新しい超流動乱流の発見」に対して第24回大阪科学賞が授与されました。受賞されました理学研究科坪田 誠先生にお話をうかがいました。

プロフィール

1987年
京都大学大学院理学研究科 博士課程修了 京都大学理学博士
1987年
高知大学農学部 助手
1990年
東北大学流体科学研究所 助教授
1997年
大阪市立大学理学部 助教授
2004年
大阪市立大学大学院理学研究科 教授

専 門

低温物理学理論

大阪科学賞受賞おめでとうございます。まず、受賞対象には非常にむつかしい名前が付いていますが、簡単にお教え願えませんか?

一口で言えば、乱流の解析に糸口を見つけたということでしょうか。日常生活で見られる空気や水の流れはほぼ全てが乱流です。乱流の中に、できては消え、消えてはできる渦、この複雑な現象の解明は科学の未解決問題のひとつとして研究者の間でも重要なテーマとなっています。しかし、この未解決問題は産業界にとっても重要な課題です。たとえば、飛行機、自動車、車両などの設計は乱流を考慮に入れないと完成しません。現在、乱流はコンピュータを使った数値計算によりシミュレーション出来ますが、大型計算機を使ってもかなりの時間がかかりますし、それにより乱流の本質が解明されるわけではありません。私の量子流体力学の研究成果が乱流解析に一石を投じることになった訳です。

量子流体力学と乱流とはどういう関係があるのですか?―

私は、液体ヘリウムの超流動の研究をしています。極低温において、液体へリムは粘性を失って壁面をつたって外へ流れ出たり、原子1個がやっと通れる程の狭い隙間を通って流れ出ることが出来ます。これが超流動現象です。超流動ヘリウムを入れた容器を回転すると乱流が発生します。超流動状態では、「量子力学」が支配する世界があり、ある決まった大きさの「量子渦」が発生します。超流動流体で発生する乱流は、この単純な「量子渦」から成ることは約五十年前にわかっていました.水や空気が作る「古典乱流」に対し超流動流体のつくる乱流を「量子乱流」と呼んでいますが、ごく最近まで「古典乱流」と「量子乱流」の関係はよくわかっていませんでした.私は,「古典乱流」の最も重要なエネルギー分布則が「量子乱流」でも成立することを示し,「量子乱流」が「古典乱流」よりも簡単な乱流の雛形になることを明らかにしました.このような視点から,「古典乱流」の解析が一挙に進むのではないかと期待されているのです。

先生のご講演の副題に「もう一つのダ・ビンチ・コード」がよく使われておりますが、どういう意味なのでしょうか?

全世界で4000万部売れている超ベストセラー小説「ダ・ビンチ・コード」が映画化され、大きな話題となりました。レオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」の絵の中に隠されたメッセージがあるというのがストーリーの展開ですが、その彼が約500年も前に流れと乱流に関する重要なメッセージを残しています。水の流れているところに障害物を置いた時や放出口から流れ出た水がつくる渦のパターンを詳細にノートに記しているのです。これが「もうひとつのダ・ヴィンチ・コード」です。乱流は、量子乱流の中にこそ具現化していることがわかってきましたので、ダ・ヴィンチの暗号も、最新の量子流体力学の研究成果を基にして、そう遠くない時期に解明されるものと思います。

最後に、先生のご研究と産業との関わりについてお伺い致します。

 先に言いましたように、流体の流れのほとんどは乱流であり、流れの予測もできませんし、制御もできません。自動車や航空機の空力設計には、スーパーコンピュータによる乱流の数値シミュレーションが行われていますが、お金と時間がかかります。乱流理論が完成すれば、簡単に解析ができ、配管設計や気象予報などへの応用もひらけるでしょう。産業のかなりの分野にインパクトを与えることは間違いありません。

最後に、本学の産学官連携活動に対する注文、期待等、お伺いします。

 「医薬品・食品効能評価センター」は、臨床試験を支援する組織で、産学官連携の対象であるシーズを持っているわけではありませんが、市大の研究成果が実用化するお手伝いができればと考えています。例えば、本学のCOEである疲労研究の成果を用いて抗疲労食品などの開発に参画できれば、センター設立の目的の1つが達成できたことになりますので、是非とも実現することを願っています。

 

インタビューを終えて

お会いした第1印象は、学究の徒としての厳しさと人としての優しさ、その両方を感じさせる先生でした。量子力学といえば、電子、原子核、素粒子の世界だと思っていた私は、液体ヘリウムの中に量子の世界があると説明された先生の言葉にまず驚きました。そして量子渦が500年来の謎であった乱流の解明にブレークスルーとなる研究であるということに再度の驚きを感じたものです。大阪市立大学の低温物理学は脈々とつづき、そしてすばらしい研究者を輩出している研究分野です。今後も研究が進展し大きな成果を上げられるとともに、優秀な研究者を続々と世に出して頂きたいと願っています。

産学連携コーディネーター 三刀基郷