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胃癌の腹膜転移予測に有用な術中診断法を開発 腹膜転移リスク患者に 術中予防的治療の臨床試験を開始

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆マイナビニュース※
◆朝日新聞
◆産経WEST※
◆読売新聞

概要

170727-21.jpg 大阪市立大学医学研究科 癌分子病態制御学・腫瘍外科学・難治がんTRセンター副センター長の八代正和(やしろ まさかず)准教授、三木 友一朗(みき ゆういちろう)博士課程大学院生・医師、腫瘍外科学の大平 雅一(おおひら まさいち)教授および診断病理学の大澤 政彦(おおさわ まさひこ)教授らのグループは、胃がん患者に高頻度で再発する腹膜転移を対象とする術中診断法を開発しました。この手法は、がんの切除手術中に腹膜転移の可能性が高いかどうかを病理診断することで、結果が陽性の場合には当該手術中に抗がん剤を投与したり、腹腔内大量洗浄を行うなどの術中再発防止策をとることを可能とするものです。これにより、腹膜へのがんの再発について高い予防効果が期待できます。大阪市立大学医学部附属病院では、2017年4月よりこの診断法を用いた臨床試験を開始しています。
この研究成果は、2017年7月21日に国際学術誌Surgical Oncology にオンライン掲載(仮掲載:校正前)されました。

雑誌名:Surgical Oncology
論文名:Examination of cancer cells exposed to gastric serosa by serosal stamp cytology plus RT-PCR is useful for the identification of gastric cancer patients at high risk of peritoneal recurrence
著 者:Yuichiro Miki, Masakazu Yashiro, Kanae Ando, Tomohisa Okuno, Kishu Kitayama, Go Masuda, Tatsuro Tamura, Katsunobu Sakurai, Takahiro Toyokawa, Naoshi Kubo, Hiroaki Tanaka, Kazuya Muguruma, Masahiko Osawa, Kosei Hirakawa, Masaichi Ohira
掲載URL: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960740417302025

研究の背景

 胃癌の術後転移再発で最も頻度が高いのは腹膜転移で、胃癌患者の生命予後に関わる重要な転移形式です。胃癌の年間死亡者数は約5万人で、そのおよそ半数の死亡原因が腹膜転移によるものです。いったん再発が起こるとそれを完全に治すことは難しく、腹膜転移患者の平均余命は1年程度です。このことから腹膜転移は胃癌対策の重要課題とされてきましたが、いまだ有効な予防法や治療法がないのが実状です。たとえ胃癌の根治的手術を受けたとしても、5%の胃癌患者が腹膜転移再発し、特に漿膜浸潤胃癌においては18%の患者が腹膜転移再発することから、胃癌術後腹膜転移再発対策には腹膜転移リスク患者を同定して予防的治療を行うことが重要です。しかしながら、高感度にリスク患者を同定する検査法がありませんでした。現在臨床で腹膜再発リスク判定に用いられている腹腔洗浄細胞診断法は、腹膜転移再発の正診率が約50%にすぎません。腹膜再発リスク患者の診断感度をあげる検査法が求められていました。

 腹膜転移は、胃癌細胞が胃の外側に向かって浸潤し、胃漿膜面に露出した癌細胞が腹腔内に撒き散って腹膜に定着・増殖する過程です(図1)。漿膜面に癌細胞が露出している状況は腹膜播種転移形成のまさに直前の状態です。今回、この漿膜面に癌細胞が露出している状況を漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅を用いて診断することに成功し、その診断結果と術後再発との関連性を明らかにしました。さらに本検査により、術中に腹膜再発リスク患者の高感度判定が可能となったため、現在2017年4月より大阪市立大学医学部附属病院において、胃癌手術中の判定に基づいて術中に腹膜再発予防的治療を行う臨床試験を開始しています。

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胃粘膜上皮で発生した癌細胞が胃漿膜面(胃の外側)に向かって浸潤し、漿膜露出した癌細胞が腹腔内に撒き散って腹膜に定着・増殖する過程が腹膜転移。漿膜面に癌細胞が露出している状況は腹膜播種転移形成のまさに直前の状態。この漿膜面に癌細胞が露出している状況を漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅を用いて診断することで腹膜播種する直前の癌細胞を同定できるため、腹膜転移リスク患者の転移前の早期診断法といえる。

研究内容および成果

 胃癌手術中に、捺印細胞診や遺伝子増幅により胃漿膜面露出癌細胞を同定する方法を開発しました。これは腹膜転移する直前の胃癌細胞を同定する腹膜再発予測診断法です。転移の前段階で腹膜転移リスク判定できるため予防治療の必要な患者さんを選別でき、またその患者さんの手術中に転移対策を講じることが出来るメリットの大きい診断技術です。具体的には、胃癌手術標本を用いて、胃癌の漿膜面をスライドガラスで捺印しパパニコロー染色を行い癌細胞の存在を診断する方法(捺印細胞診)、および漿膜面を擦過した検体のCEAmRNAおよびCK20mRNAの遺伝子発現を解析する方法(RT-PCR法)を行い(図2)、これらの方法が胃癌患者の術後再発転移予測に有用か検討しました。その結果、平均観察期間2年11ヶ月における腹膜播種再発の感度は、臨床的に用いられている腹腔洗浄細胞診断法が25%であるのに対し、今回の漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅法の感度は58.8%でした。さらに腹腔洗浄細胞診断法と漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅法の評価を組み合わせることにより、腹膜播種再発の感度が70.6%と腹膜播種転移の予測精度がさらに高くなることを見出しました(表1)。その胃癌の具体例を顕微鏡組織像で示します(図3)。

 またさらに、無再発生存に関する単変量および多変量解析により、漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅法は独立した予後予測因子であること、およびこの検査が陽性の胃癌患者は陰性の患者と比べ胃癌術後再発の危険性が6.4倍あることがわかりました(表2)。漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅法と無再発生存率の関連をみてみますと、検査陽性患者は有意に再発を起こしやすく、その差は特に病期3の患者に顕著に認められました(図4)。

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漿膜に癌細胞が露出していない症例は(左)捺印細胞診や遺伝子増幅検査陰性であり、漿膜に癌細胞が露出していた例は(右)捺印細胞診や遺伝子増幅検査が陽性であった。

表1.腹腔洗浄細胞診、捺印細胞診および、CEA・CK20のmRNA発現と再発感度(平均観察期間:2年11ヶ月)

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    感度=検査陽性症例数 /再発症例数 × 100%

表2.無再発生存に関する単変量および多変量解析

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漿膜捺印細胞診および漿膜擦過細胞遺伝子増幅検査陽性患者(青の線)は無再発率が40%程度の患者であるのに対し、検査陰性患者(赤の線)は無再発率が80%を超える。両者の差は特に病期3の患者に顕著にみられる。

本診断技術の臨床的意義

 今回の胃漿膜面露出癌細胞の捺印擦過細胞診断技術の意義は、手術中に胃癌患者の術後再発を高感度に予測できることです。胃癌のみならず膵癌、卵巣癌など腹膜転移再発が高頻度な癌腫にも適応可能です。特に注目すべきは、手術中にリスク患者を判定出来るため、手術中にしか出来ない腹膜再発予防治療を行えることです。具体的には、この診断法に基づいた腹膜再発予防対策治療を本大学附属病院および大阪市立総合医療センターにて下記の臨床試験として開始しています。


平成29年度 進行胃癌第Ⅱ相臨床試験
臨床試験名:「胃壁捺印細胞診または腹腔洗浄細胞診陽性症例を対象とした術中腹腔内大量洗浄の意義に関する第Ⅱ相試験」
施行病院:大阪市立大学医学部附属病院、大阪市立総合医療センター
内容:胃癌に対してD2リンパ節郭清(標準手術)を伴う胃切除術を施行した症例のうち術中腹水洗浄細胞診または胃壁捺印細胞診陽性症例を対象として、腹腔内大量洗浄を施行する事で無再発生存期間を延長させうるかの臨床試験
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本研究について

 本研究は科研費(課題番号23390329「低酸素微小環境における胃癌細胞の悪性形質獲得の機序解明と治療標的分子の探索」ならびに課題番号26293307「スキルス胃癌の難治性克服: 癌幹細胞のオートファジーと分子標的治療開発」)の対象研究です。なお、この研究で開発された検査に関する技術は特許出願されています(特願2016-182130)。