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単純な金属を磁気センサーに応用できる 新メカニズムの発見(共同研究成果発表)

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350倍もの磁気抵抗効果を実現し、新たなデバイス作成への道筋を明らかに

首都大学東京(以下、「首都大」)、京都大学(以下、「京大」)、大阪市立大学(以下、「大阪市大」)、大阪大学(以下、「阪大」)、広島大学(以下、「広大」)の研究チームは、非磁性の単純金属※1であるパラジウム※2-コバルト※3酸化物の磁場による電気抵抗の変化(磁気抵抗効果※4)を測定し、巨大な磁気抵抗効果が現れることを発見しました。磁場がゼロのときと比べ、磁場中では電気抵抗が最大で350倍にまで増加しました。大きな磁気抵抗効果を示す例として、コンピューターのハードディスクなどからの情報の読み出しに使われている磁性体多層膜が知られており、その原理の発見は2007年のノーベル物理学賞にも選ばれました。本成果で発見された新しい磁気抵抗効果は、この磁性体多層膜での抵抗変化にも匹敵する大きさです。パラジウム-コバルト酸化物は、伝導電子を豊富に持ち磁気的な性質は持たないなど、多くの意味で「普通」の導電体ですが、このような単純な金属で数百倍もの巨大な磁気抵抗効果が現れるのは驚くべきことです。また、この磁気抵抗効果の起源をコンピューターシミュレーションにより明らかにすることにも成功しました。その結果、単純な金属でも幾つかの条件を満たせば巨大な磁気抵抗効果を示しうるという、これまで見落とされてきた事実が明らかになりました。


この発見は電気伝導現象の基礎学術研究の上で大変興味深い成果です。それだけでなく、この発見は、単純金属でも磁気センサーに応用できる可能性を初めて示したものであると言えます。
この成果は、アメリカ物理学会が発行する英文誌Physical Review Lettersの111巻5号(2013年8月2日発行)に掲載予定です。また、編集者の推薦論文(Editors' Suggestion)に選ばれ、アメリカ物理学会が注目論文を紹介するPhysics誌に解説記事が掲載されます。(今回の共同研究成果には、本学の理学研究科の吉野治一准教授と村田惠三教授が関わられました。 )

論文掲載誌:Physical Review Letters 111巻5号     (現地時間2013年8月2日発行)
電子版:http://prl.aps.org/toc/PRL/v111/i5      (現地時間2013年8月1日公開予定)
論文番号:056601
DOI:10.1103/PhysRevLett.111.056601
Online公開日時:8/1の11:30(アメリカ東部時間)、日本時間では8/2の0:30

<用語解説>
※1. 単純金属
ここでは、物質の化学組成ではなく電気的性質に着目して、電流をよく流す物質を「金属」と呼んでいます。特に、伝導電子の状態が簡単なものを単純金属と呼びます。例えば、金・銀・銅やナトリウムなどは典型的な単純金属です。PdCoO2もシンプルで2次元的な電子状態を持つ単純金属に分類できます。
※2. パラジウム(Pd)
原子番号46の元素。元素周期表でプラチナ(白金)の上に位置しており、プラチナと似た性質を持っています。宝飾品や触媒に利用されているほか、多量の水素を吸収することでも知られています。PdCoO2では、パラジウムの電子が電気伝導性を担っています。
※3. コバルト(Co)
原子番号27の元素。元素周期表では鉄とニッケルに挟まれた位置にあり、これらの元素と同様、磁気的な性質をもちやすい傾向にある元素です。実際、単体では、鉄やニッケルと同様、コバルトも磁石につく性質(強磁性)をもちます。しかし、PdCoO2内ではコバルト原子はプラス3価のイオンになって酸素の八面体に囲まれており、磁気的な性質は消えてしまっています。
※4. 磁気抵抗効果(Magnetoresistance)
磁場によって物質の電気抵抗が変化すること。主に、物質の磁気的な性質と伝導電子の相互作用によって生じます。また、伝導電子が磁場から受ける力(ローレンツ力)によっても磁気抵抗効果は生じますが、ローレンツ力による磁気抵抗効果は弱いものしか知られていませんでした。