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アルツハイマー病の新しい治療薬となる抗体を開発

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。(※はWeb版)
◆1/9 時事通信社※、産経ニュース※、共同通信※、
     NHK「ニューステラス関西」、「関西845」、「ニュースウォッチ9」、
        「BSニュース」
     関西テレビ「ニュースJAPAN」
◆1/10 日本経済新聞、読売新聞、毎日新聞
◆1/12 中国新聞網(chinanews)※
◆1/15 日刊工業新聞
◆2/5 朝日新聞
※その他、地方紙等多数掲載

概要

 医学研究科 脳神経科学の富山貴美(とみやまたかみ)准教授らのグループは、アルツハイマー病の新しい治療薬となる抗体を開発しました。アルツハイマー病の脳には、アミロイドβというペプチドが細胞外にたまってできる「老人斑」と、タウというタンパク質が過剰にリン酸化され細胞内にたまってできる「神経原線維変化」という2つの病理変化が現れます。これまでは主にアミロイドβを標的とする薬が開発されてきましたが、臨床試験で有効性が確認されたものはまだありません。今回の研究は、過剰にリン酸化されたタウに結合してこれを除去する新しい抗体を開発したというものです。アルツハイマー病の治療は今後、アミロイドβを標的とする薬とタウを標的とする薬の併用療法が主流になってくるものと思われます。今回開発された抗体は、タウを標的とする薬の有力なプロトタイプになると期待されます。
 本研究の成果は、日本時間 平成27年1月9日(金)午後3時に米国神経学協会(American Neurological Association)のオープンアクセスジャーナル Annals of Clinical and Translational Neurology にオンライン掲載されました。

【発表雑誌】Annals of Clinical and Translational Neurology
【論 文 名】 Passive immunotherapy of tauopathy targeting pSer413-tau:
      a pilot study in mice
      「pSer413-タウを標的とするタウオパチーの受動免疫療法:
      マウスでの予備研究」
【著  者】Tomohiro Umeda, Hiroshi Eguchi, Yuichi Kunori, Yoichi Matsumoto,
      Taizo Taniguchi, Hiroshi Mori, Takami Tomiyama
【掲載URL】http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/(ISSN)2328-9503

研究の背景

 アルツハイマー病の脳には、アミロイドβ(Aβ)というペプチドが細胞外にたまってできる「老人斑」と、タウというタンパク質が過剰にリン酸化され細胞内にたまってできる「神経原線維変化」という2つの病理変化が現れます。これまでの研究から、まずAβが凝集して脳に沈着し、次に過剰リン酸化されたタウが凝集・蓄積した後、神経細胞が死に始め、最後に認知症が発症することがわかっています(図1)。老人斑はアルツハイマー病発症の実に20年以上も前から脳に現れ始めることが最近の研究(アミロイドイメージング)で明らかとなっています。

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老人斑はアルツハイマー病発症の20年以上も前から形成され始める。MCI, 軽度認知障害;AD, アルツハイマー病。

 凝集したAβはタウのリン酸化やシナプスの機能障害を引き起こすことから、アルツハイマー病の原因はAβの凝集・沈着であるという考え(アミロイド仮説)が生まれました。この考えに基づいて、Aβの産生を抑えたり、脳からの除去を促進したりする薬が精力的に開発されてきました。しかし、ヒトでの臨床試験では有効性が確認されず、その多くが開発中止となっています。この理由として考えられるのは、発症した後にいくらAβを除去しても、すでに多くの神経細胞が死んでしまった後ではもはや手遅れであるということです。そこで最近では、老人斑が検出された時点(発症の20~10年前)でAβ標的の投与を開始するprevention study(予防研究)が世界で始まっています。
 一方、治療の標的を別のタンパク質に変える動きも出てきています。その代表がタウで、神経原線維変化はアルツハイマー病の神経細胞死や認知機能障害と密接に結びついていることが知られています。タウ標的薬の臨床試験はまだあまり進んでいませんが、将来は、単独使用に加えて、Aβ標的薬との併用が主流になっていくものと思われます。欧米では現在、認知機能の低下が始まってから(発症の10年前)の予防および治療を目的に、Aβ標的薬とタウ標的薬のcombination study(併用研究)が計画・進行中です。

研究の内容

 今回の研究は、過剰にリン酸化されたタウに結合してこれを除去する新しい抗体を開発したというものです。研究グループは、タウ分子内のどのリン酸化が病気の進行とより強く相関しているかをモデルマウスの脳で調べました。その結果、これまであまり調べられていなかった413番目のアミノ酸(セリン)のリン酸化が重要であることを突き止め、これに選択的に結合するモノクローナル抗体を作製しました(図2)。
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pSer413に対する抗体Ta1505(赤)と、コントロールとしてpSer396に対する抗体Ta4とTa9(青)を作製した。タウは最長のもので441アミノ酸からなり、アルツハイマー病の脳では分子内の40か所以上がリン酸化されている。P, リン酸化。タウ分子内の黒い領域は微小管結合部位。ピンク、黄色、緑の領域はタウのエクソン2, 3, 10でコードされる領域。これらエクソンの選択的スプライシングにより、ヒトでは6種類のアイソフォームが合成される(今回の研究には関係なし)。

 この抗体(Ta1505)をモデルマウスに1週間に1回、1回1 mgを計5回、1カ月間腹腔内投与すると、脳の過剰リン酸化されたタウが減少し、神経細胞間のシナプスが回復して、マウスの記憶障害も改善しました(図3)。さらに、神経原線維変化や神経細胞死も抑制されました(図4)。これらの効果は、コントロールとして作製した別のリン酸化部位(396番目のセリン)に結合する抗体(Ta4とTa9)の効果よりも強いものでした。さらに、この抗体は正常なタウには反応せず、アルツハイマー病の脳に蓄積する異常タウにのみ反応することもわかりました。以上の研究結果は、リン酸化された413番目のセリンがタウの免疫療法において有望な標的となること、今回作製された抗体がタウ標的薬の有力なプロトタイプ(原型)となることを示しています。

 150109_Alz3.jpgpSer413に対する抗体Ta1505はモデルマウスの記憶障害を正常マウスと同レベルまで回復させたが、pSer396に対する抗体Ta4は効果が弱かった。Escape latency, プール内に置かれたプラットホーム(足場)にたどり着くまでの時間; NonTg, 正常マウス; Tau784, モデルマウス, control IgG, タウを認識しない全く別のマウスモノクローナル抗体。毎日5回の試行を行い、その平均値を1日目から5日目(または4日目)までプロットした。正常マウスはプラットホームの位置を記憶し、日ごとにそこにたどり着くまでの時間が短くなる。モデルマウスは記憶機能が低下しているので、試行を重ねてもなかなか時間が短くならない。

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pSer413に対する抗体Ta1505は神経原線維変化の形成を有意に抑制したが、pSer396に対する抗体Ta4は効果がなかった。上, ガリアス銀染色による神経原線維変化の検出(写真は嗅内皮質); 下, 一定面積における神経原線維変化の数を定量したもの。

期待される効果

 免疫療法には、抗原をワクチンとして接種し体内で抗体を作らせる能動免疫と、体外で作った抗体を投与する受動免疫があります。Aβワクチンの臨床試験やタウワクチンの動物試験では、その副作用が問題となりました。抗体はワクチンに比べ費用はかかりますが、副作用は比較的少ないと考えられています。今回開発された抗体は他の抗体と比べて高い治療効果を示すことから、受動免疫の有望なプロトタイプとなると考えられます。また、アルツハイマー病に限らず、異常タウが蓄積する様々な神経変性疾患(タウオパチーと総称されます)、例えばピック病や大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺などの予防・治療にも使えると期待されます。

今後の展開について

 今回開発されたモノクローナル抗体はマウス由来なので、ヒトで使用するには、まずこの抗体を遺伝子工学的手法を用いてヒト化する必要があります。その上で臨床試験に臨むことになりますが、臨床試験は大手製薬企業との共同開発を目指しています。