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がん増殖抑制物質(プロスタグランジンD2)合成促進酵素を用いた 新たな胃がん治療法を発見

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。(※はWeb版)
◆12/25 共同通信※、西日本新聞※、中日新聞※、京都新聞社※、
     河北新聞※、北海道新聞※、徳島新聞※
◆12/26 日本経済新聞、読売新聞、毎日新聞、財経新聞※
◆12/27 産経ニュース※

概要

 医学研究科 腫瘍外科学の平川弘聖(ひらかわ こうせい)教授、八代正和(やしろ まさかず)准教授らのグループは、がん抑制物質の一つであるプロスタグランジンD2の合成を促進する酵素の投与により動物実験レベルで胃がん治療に成功しました。がん細胞自身からのがん抑制因子産生を促す治療法は、今までにない新しいがん治療法です。また、PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性受容体γ)という分子が、プロスタグランジンD合成酵素のがん治療効果を判別することも明らかにしました。胃がんは日本で年間約5万人が亡くなる死亡率第2位のがんですが、今回の成功により特効薬の開発が期待できます。
 なお、本研究成果は国際学術誌「インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー」電子版に、2014年12月16日(米国東部時間)先行公開されました。
  *プロスタグランジン:生体膜構成成分のアラキドン酸から合成される脂質系の生理活性物質。

【発表雑誌】
 International Journal of Cancer

【論文名】
 Prostaglandin D Synthase is a Potential Novel Therapeutic Agent for the    Treatment of Gastric Carcinomas Expressing PPARγ
「プロスタグランジンD合成酵素はPPARγを高発現する胃がんの新規治療剤である」

【論文執筆者名】
 Tatsunari Fukuoka, Masakazu Yashiro, Haruhito Kinoshita, Tamami Morisaki,  Tsuyoshi Hasegawa, Toshiki Hirakawa, Naoki Aomatsu, Hiroshi Takeda,     Takayuki Maruyama, Kosei Hirakawa

研究の背景

  アスピリンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)は、抗がん作用があることが知られており、がんの治療や予防薬として期待されていますが、がん抑制効果が不十分であることや副作用のため、がん治療薬としては認可されていません。NSAIDが抗がん作用を持つ理由として、がん増殖を促進するプロスタグランジン(PG)の合成阻害が考えられています。しかし、PGは数種類あり多様な生理活性を示し、腫瘍細胞に対しても作用が様々で、なかでもPGE2は腫瘍増殖を亢進し、PGD2は逆に抗腫瘍効果を示します。NSAIDはこれら全てのPGを阻害するため、結果として腫瘍効果が一定せず、十分な抗がん作用が発揮できませんでした。
 PGD2はがん細胞増殖抑制物質として有望な分子ですが、生理活性が不安定で半減期も短いため、臨床応用が困難とされてきました。またPGD2のがん抑制効果を予測するマーカーが同定されていない点も問題でした。今回、PGD合成促進酵素を用いることでPGD2の抗腫瘍効果が発揮され、さらに治療効果の指標となるバイオマーカーが同定されたことで、これらの問題点が解決されました。

研究の内容

 胃がんは、診断技術や治療法の発達により死亡率は減少してきているものの、依然として主たるがん死因であり、実用的な治療法の開発が求められています。PGD2は抗腫瘍効果を示す物質ですが、生体内では不安定なため開発が困難とされてきました。我々は、PGD合成酵素が胃がん細胞の内因性PGD2を増加させ、胃がん増殖を抑制することを見出しました。さらに、このPGD合成酵素を胃がんマウスに投与すると、非投与のマウスに比べ腫瘍サイズが有意に抑制されることを発見しました(図1)。また、PGD合成酵素を投与した腫瘍はがん細胞の増殖活性を示すKi-67発現が低下していました(図2)。
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図1説明:
PGD合成酵素を投与したマウスの胃がん腫瘍(○)は、非投与群(●)に比べ、サイズが大きくならず増殖が抑制されている。
 

 

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図2説明:
がん細胞の増殖活性の指標であるKi-67発現が、PGD合成酵素投与により低下している。



 加えて、PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性受容体γ)発現が多い胃がん細胞に対して、PGD合成酵素が増殖抑制効果を示すことをも見出しました。すなわち、PGD合成酵素投与により、がん細胞の内因性PGD2を増加させ、PPARγを介してがん細胞自身が抑制されることを発見しました(図3)。このように、がん細胞自身からのがん抑制因子産生を促す方法は、今までにない新しいがん治療法です。

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図3説明:
PGD合成酵素投与によりがん細胞内のPGD2合成が促進され、増加したPGD2は一旦細胞外に放出された後PGJ2に変換し細胞内に再び取り込まれ、PPARγを介して核内のc-MycやCyclinD1を抑制することで細胞増殖を抑制する。

 

期待される効果

 現在、臨床現場では胃がん分子標的治療薬としてハーセプチンがありますが、胃がん症例の2割程度の適応にすぎないため、さらなる新しい胃がん分子標的治療薬が切望されています。今回発見したPGD合成酵素は、新しい胃がん分子標的治療薬として期待されます。また、PGD合成酵素はPPARγの発現量が多い消化器がんに対して優れた治療効果を示すので、がん細胞のPPARγを予め測定しておくことによってPGD合成酵素の投与が有効ながん患者を選別し、より確実ながん治療を行うことが期待されます。
 さらに我々は、PGD合成酵素の抗腫瘍作用は、胃がん細胞のみならず、膵がん細胞や食道がん細胞にも有効であることを確認しています。膵がんや食道がんは予後不良な難治性のがんであり、本治療法は難治がんに対する新しい治療としても期待できます。 

今後の展開について

本研究は、文部科学省科学研究費助成を受け、小野薬品工業との共同研究を進めています。

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