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光感覚の進化を解明するカギとなる双子遺伝子を魚類松果体で発見

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆9/23 産経WEST


概要

 理学研究科の寺北明久(てらきた あきひさ)教授と小柳光正(こやなぎ みつまさ)准教授らの研究グループは、魚類の松果体にある「光の波長(色)識別」と「生体リズムホルモンであるメラトニン分泌の光調節」にかかわる異なる2つの光受容タンパク質が、約3億年前に魚類の進化過程で起きた『ゲノムの二倍化』の後に分化した「双子」の関係であることを発見しました。
 動物の光受容は、視覚(図Ⅰ)に関するものと、そうでないのもの=非視覚(図Ⅱ)に分類されます。今回の発見は、非視覚の光受容において、もっとも重要な分子である光受容タンパク質が遺伝子重複によって増え、進化の過程で異なる機能を獲得したことを初めて明らかにしました。ヒトを含めて動物が非視覚の光受容に関わる光受容タンパク質をたくさん持っている謎を解くカギとなる発見です。

            動物における光受容のイメージ図
 
    図Ⅰ)視覚(色、形の認識)           図Ⅱ)非視覚(生体リズム調整 など)150915-1.png

 本内容は2015年9月15日(British Summer Time)に、イギリスの生物学専門誌であるBMC Biology(オンライン版)に掲載されました。
 
【雑誌名】
 BMC Biology

【論文名】
 Diversification of non-visual photopigment parapinopsin in spectral sensitivity for diverse pineal functions(非視覚の光受容タンパク質パラピノプシンの波長感受性における多様化は多様な松果体機能をもたらした)

【著 者】
 Mitsumasa Koyanagi; Seiji Wada; Emi Kawano-Yamashita; Yuichiro Hara;
 Shigehiro Kuraku; Shigeaki Kosaka; Koichi Kawakami; Satoshi Tamotsu;
 Hisao Tsukamoto; Yoshinori Shichida; Akihisa Terakita

【掲載URL】
 http://www.biomedcentral.com/1741-7007/13/73

本研究の概略

 ヒトを含め動物は、複数の光受容タンパク質を持っています。ヒトの視覚に関わる光受容タンパク質の進化については、今から3000万年前に、赤色感受性の光受容タンパク質の遺伝子が遺伝子重複により増加した後、遺伝子変異により緑色感受性光受容タンパク質の遺伝子となったことが分かっています。一方、非視覚に関わる光受容タンパク質については、その遺伝子がどのような機能と関わっているのか、ほとんど分かっていません。
 そこで、我々は魚類などの下等脊椎動物の松果体が、メラトニン分泌の光制御に加えて光の明暗や光の色を識別していることに注目し、モデル生物である小型魚のゼブラフィッシュにおいて、松果体のどの光受容タンパク質がメラトニン分泌の光制御に関係しているのかを調べました。分子生物学的手法、遺伝子導入個体の利用、組織化学的解析により、松果体に特異的に存在する新規光受容タンパク質の1つが、メラトニン分泌の光制御を担っていることを発見しました。この光受容タンパク質は、既に私たちのグループが同定していた松果体にある光の色識別に関わる光受容タンパク質遺伝子(パラピノプシン1、PP1)と「双子」の関係にあったため、PP2と名付けました。
 PP1とPP2について、さまざまな魚類のゲノムを調べたところ、ガーという古代魚は1つのパラピノプシンしか持たないことがわかり、遺伝子の並びなどの解析と合わせて、これら2つの遺伝子はおよそ3億年前に魚類で起きた『ゲノムの二倍化』により「双子」として誕生したことが分かりました。さらに、それらの遺伝子からできるタンパク質を解析したところ、PP1が紫外(UV)光感受性であるのに対して、PP2は青色感受性であることを見出しました。すなわち、もともと全く同じだった双子の光受容タンパク質の1つは、進化の過程で異なる色の光を受容できるように変化し、それぞれが色識別とメラトニン分泌の光制御という全く異なる生理機能に関わるようになったことが明らかになりました。

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       パラピノプシン遺伝子の多様化
約3億年前に魚類で起きたゲノムの二倍化により「双子」として誕生したPP1とPP2は、異なる色特性をもつに至り、それぞれが色感覚とメラトニン分泌の光制御という全く異なる生理機能に関わるようになった。
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     松果体におけるPP1とPP2の分布

PP1発現細胞にGFP、PP2発現細胞にRFPが発現するように作製した遺伝子導入ゼブラフィッシュの松果体切片像。PP1とPP2は松果体内で異なる細胞に発現していることがわかる。

本研究の波及効果

 ヒトは9つの光受容タンパク質の遺伝子を持ち、そのうち5つは非視覚の機能に働いていると推測されています。進化の過程で遺伝子の数が増えることにより多様化してきた非視覚に関わる光受容タンパク質は、異なる色の光をキャッチするなど、それぞれ異なる分子特性を持っています。しかし、それらの違いがどのような機能の違いを生んでいるのかは未だによく分かっていません。今回の発見は、光受容タンパク質がキャッチする光の色がUV光から青色光に変わったことが、メラトニン分泌の光制御という機能にとって重要であることを示しており、非視覚の光受容タンパク質の分子の性質と機能との関連を示す初めての例と言えます。

本研究について

 本研究は理化学研究所、国立遺伝学研究所、奈良女子大学、京都大学の協力と下記の科研費による資金援助を得て実施されました。

◆『単離細胞を用いた非視覚型ロドプシン類の機能多様性に関する分子生理学的解析』
  2011年度~2014年度
◆『ロドプシン類の多様性とその協調的機能発現の分子生理学的解析』
  2007年度~2010年度
◆『松果体で行われる色弁別の生理的役割の解明』
  2010年度~2013年度
◆『視覚以外で機能するロドプシン類の分子レベルおよび神経レベルの機能解析』
  2008年度~2009年度