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上腹部症状(みぞおちの痛みやもたれ)と 脳内セロトニントランスポーターの機能変調の関連を証明

プレスリリースはこちら

150806.JPGこの研究発表は下記のメディアで紹介されました。
 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>

◆8/7 毎日新聞
◆8/10 医療NEWS QLifePro
◆8/14 NHK「おはよう関西」
     日刊工業新聞
◆8/17 m3.com
◆9/13 夕刊フジ

概要

 医学研究科 消化器内科学 富永和作(とみなが かずなり)准教授らの研究グループは、国立研究開発法人理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターとの共同研究において、機能性ディスペプシア※1患者において脳内セロトニントランスポーター結合能に差異が認められ、その結合能とディスペプシア(痛みやもたれ)症状とに相関性があることを明らかにしました。本研究の成果は、2015年7月29日付(現地時間)に生命科学分野の学術専門誌Life Sciencesオンライン版に掲載されました。
 ※1:機能性ディスペプシアとは、上部消化管である胃・十二指腸に明らかな粘膜傷害(粘膜のキズ)は認められ
         ないが、6か月以上前から連続的あるいは断続的に持続する上腹部症状を有する疾患を指す

【発表雑誌】
 Life Sciences(Elsevier社・スイス)

【論 文 名】
 Regional brain disorders of serotonin neurotransmission are associated with functional dyspepsia
「機能性ディスペプシアにおける脳内セロトニン神経伝達機能変調との関連性」

【著  者】
 Kazunari Tominaga, Chikako Tsumoto, Suzuka Ataka, Kei Mizuno,
 Kayo Takahashi, Hirokazu Yamagami, Tetsuya Tanigawa, Joji Kawabe,
 Toshio Watanabe, Yasuhiro Fujiwara, Susumu Shiomi,
 Yasuyoshi Watanabe, Tetsuo Arakawa

【掲載URL】
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0024320515003860?np=y

研究の背景

 機能性ディスペプシアの発症要因には消化管の生理機能異常が関与することが推察され、胃酸分泌機能や消化管運動機能についての病態解析研究や治療介入試験がなされてきました。また、患者背景に心理社会的要因が強く関与するとの見地から、抑うつや不安に繋がる身体的・精神的ストレス、自律神経系との関連性も示されてきました。しかし、これら個別の評価のみでは発症原因を説明することが困難な慢性疾患であるとも認識されています。
 近年、核医学におけるPET検査を用いて、種々の疾患における脳内での機能変調を評価する試みがなされています。うつ病患者において、神経伝達物質の一つであるセロトニンに着目し、局所のセロトニン含量に影響する脳内セロトニントランスポーターの機能変化を示した報告※2もその一つです。また、セロトニンの90%は消化管に存在し、消化管運動機能にも密接に関与しています。これらのことから、消化管のみならず中枢神経系である脳内でのセロトニン伝達機能の変化が、中枢性・末梢性伝達経路に影響する可能性が示唆されています。                                
 機能性ディスペプシア患者では、慢性的にディスペプシア症状が持続し、その原因として約半数に消化管運動機能異常を認めること、心理的側面では、抑うつ的であり不安状態に関してもパニック障害患者に匹敵するほどであると言われています。過去に、機能性ディスペプシアに関して、セロトニントランスポーターの遺伝子多型に関連した報告はありましたが、中枢での変化やディスペプシア症状との相関性を示したものはありませんでした。           
 ※2:Ichimiya T, et al. Biol. Psychiatry, 2002.

研究の内容

 今回の研究は、9名の機能性ディスペプシア患者、8名の健常者を用いて、ディスペプシア・抑うつ・不安症状について質問紙にて調査し、PET検査を用いて脳内各領域におけるセロトニントランスポーターの結合能について、定量性解析を行いました。その結果、中脳、視床の領域において、結合能の有意な亢進が認められ、尾状核、被核、扁桃体、海馬では亢進は認められませんでした(図1)。
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         図1.脳内各領域におけるセロトニントランスポーター結合能

 次に、中脳、視床、海馬における結合能と各種症状との相関性解析を行ったところ、中脳においては消化器症状合計と腹痛、視床においては消化器症状合計、腹痛、もたれとの間に正の相関性が認められました。また海馬においては、腹痛と不安症状とに相関性を認めました(図2)。
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          図2.セロトニントランスポーター結合能とディスペプシア症状との相関性

 機能性ディスペプシアは、ディスペプシア症状つまり消化器系症状を有している患者を指しますが、上部消化管である胃・十二指腸に粘膜傷害(粘膜のキズ)は認められないため、発症要因の解明は困難でした。また脳と消化管を一連の臓器とした同時評価も困難であり、症状に対する質問紙や消化管運動機能での評価が病態分析の中心であり、その手法を用いて薬剤介入が行われてきました。しかしながら、日常の中で難治化する患者さんも多く、有効とされる薬剤での治療効果も約50%程度であるとの報告が趨勢です。
 今回の研究から、機能性ディスペプシア患者における機能障害の中に、中枢と末梢を橋渡しする中脳・視床において、両者の共通の神経伝達物質であるセロトニンの調節を司るセロトニントランスポーターの変調があることが判明しました。この結果は、既存薬での効果が高まらないことや、病態生理として知覚過敏性の関与は高く位置づけられているにも関わらずその解析が進んでいないことなどを踏まえると、意義のある結果と言えます。中脳・視床は、消化管から伝わる中枢への痛み刺激に対して増幅作用がある領域であり、その一方で中枢から消化管への神経伝達系においてはセロトニン神経系の起始核とされており、従って、中脳・視床でのセロトニン調節機構の変調は、ディスペプシア症状の増幅(過敏性)や下行性の痛み刺激の抑制不全や末梢運動機能障害に繋がる可能性が想定されます。
 このことから、機能性ディスペプシア患者において、中枢領域も重要な治療ターゲットの一つであることが浮かび上がってきました。つまり、機能性ディスペプシア患者に対しては、既存の消化器病薬以外にも、中枢あるいは神経伝達系に作用する薬剤など、新たな治療戦略開発に繋がる可能性が示唆されたと言えます。

期待される効果

  現在、日本において機能性ディスペプシアに対して保険承認が得られているのは、アコチアミドのみです。この薬剤は、コリンエステラーゼ阻害作用を有し、消化管において平滑筋収縮運動を来す際の最終刺激産物であるアセチルコリンの代謝を阻害することにより、運動機能亢進を促す薬剤です。しかし、この薬剤のみで対応しきれないくらいの患者数が日常臨床では存在し、候補薬剤の少なさから、患者管理・治療に苦慮しているのが現状です。その結果、患者さんの心理的不安も増幅され、その結果として消化器症状の誘発へと繋がり、負のスパイラル現象が惹起されていることは間違いないかと思います。そのような中、中枢あるいは神経伝達に関連する薬剤が、一つでも二つでも効果的であることが判明し保険適応承認されれば、今後、難治性機能性ディスペプシア患者の治療手段の拡大が期待されます。

今後の展開について

 今回の症例対象研究、探索研究で明らかになった中脳・視床でのセロトニントランスポーター結合能亢進の意義を確証するために、選択的セロトニン再取り込み阻害薬や脳内でのセロトニン受容体に対するアゴニスト※3を用いた臨床試験を計画し、症状改善効果を目指していく予定です。
 ※3:生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬

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