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世界初!難治性スキルス胃癌の病態を解明 新規治療法の開発に成功

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
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◆10/11 NHK「ニュースほっと関西」、
     産経WEST、共同通信47NEWS
◆10/12 日本経済新聞、産経新聞、
     大阪日日新聞
◆10/14 読売新聞(夕)、大学ジャーナル
◆10/18 J-CASTヘルスケア
 
その他、地方紙等多数掲載

概要

 医学研究科 腫瘍外科学・難治がんTRセンター 副センター長の八代 正和(やしろ まさかず)准教授および血液腫瘍制御学の日野 雅之(ひの まさゆき)教授らのグループは、予後が極めて悪いことで知られているスキルス胃癌の難治性の原因を世界で初めて解明し、その機序に基づいた新しい治療法の開発に成功しました。
 がん患者を治療によってどのくらい救えたかを示す「5年相対生存率」が62.1%となり、前回の調査に比べて向上したという報告書を今年7月に国立がん研究センターが公表しました。このように医学の進歩により癌の治療成績は向上してきています。しかし一方で、依然予後不良な「難治性の癌」が少なからず存在することも事実です。難治癌は増殖転移が速いため手術治療が困難であり、新しい治療法開発が急務とされています。
 本研究により、スキルス胃癌細胞が正常骨髄細胞を癌組織へ誘導し、さらに癌細胞周囲に集合した骨髄由来正常細胞が癌細胞の強さを増加させ、この一連の過程がスキルス胃癌難治性の原因であることを明らかにしました。さらに、スキルス胃癌細胞が産生する骨髄細胞誘導物質にシグナル阻害剤**を投与することで骨髄細胞の癌への集積が抑制され、スキルス胃癌の増殖や転移を減少させ、治療することに成功しました。本発明により、日本で死亡率の高い胃癌の中でも極めて難治性のスキルス胃癌の特効薬開発が期待されます。
 本研究成果は、平成28年10月11日(火)午前4時、日本時間では同日の午後5時に米国の病理学会誌「American Journal of Pathology」電子版に公開されました。

*スキルス胃癌細胞が産生する骨髄細胞誘導物質
C-X-C chemokine ligand 1 (CXCL1)というケモカインファミリーに属するタンパク質である。骨髄間質細胞をスキルス性胃癌の間質に誘導するシグナル伝達の一役を担っている。

**シグナル阻害剤
CXCL1の受容体であるC-X-C chemokine receptor 2 (CXCR2)のシグナル伝達を阻害する低分子化合物物質SB225002である。分子標的阻害剤である。

【発表雑誌】
American Journal of Pathology

【論文名】
CXCL1-CXCR2 Signalling Stimulates the Recruitment of Bone Marrow-derived Mesenchymal Cells into Diffuse-type Gastric Cancer Stroma
「CXCL1/CXCR2シグナルは骨髄細胞をスキルス胃癌組織に誘導する」

【著者】
Hiroaki Kasashima, Masakazu Yashiro, Hirohisa Nakamae, Kisyu Kitayama,
Go Masuda, Haruhito Kinoshita, Tatsunari Fukuoka, Tsuyoshi Hasegawa,
Takahiko Nakane, Masayuki Hino, Kosei Hirakawa, Masaichi Ohira

【掲載URL】
http://ajp.amjpathol.org/inpress

研究の背景

 近年の診断技術と術前術後管理の発達により胃癌の死亡率は減少しています。しかしながら胃癌は依然として癌死因の主たるものであり、新しい治療法開発が求められています。なかでも難治性のスキルス胃癌は胃癌全体の約10%を占め、年間数千人が発症しています。スキルス胃癌は急速に増殖進展し高頻度に転移します。現在の癌治療法ではスキルス胃癌に対して治療効果が不十分で、スキルス胃癌に有効な治療薬の開発が急務となっています。
 正常組織において間質細胞として線維芽細胞、内皮細胞、免疫細胞などがあり、種々の臓器を支持する細胞です。癌では、これらの間質細胞は単なる支持組織としての役割だけでなく癌細胞の増殖進展に影響している可能性が示唆されてきました。本研究グループは、スキルス胃癌細胞の増殖転移に正常間質細胞が関与していることを明らかにしてきましたが、この正常間質細胞がどのようにして癌組織に誘導されているのか、またどこからやってきているのか不明でした。従って、スキルス胃癌の正常間質細胞誘導シグナルが解明できれば、そのシグナルを標的として難治癌治療に有効な薬が開発できると期待していました。

研究の内容

 今回の研究により、以下の内容が明らかとなりました。

  1. スキルス胃癌細胞の産生するケモカインCXCL1が正常骨髄細胞を癌組織内に誘導していることが分かりました。そこから、この骨髄由来間質細胞が間質細胞としてスキルス胃癌の進展を促進していると考えられました。すなわち、スキルス胃癌細胞に含まれるCXCL1が骨髄間葉系細胞のCXCR2シグナルを活性化して運動を促進させ、癌組織に誘導していることを突き止めました(図1)。
  2. CXCL1あるいはCXCR2を阻害することで骨髄間葉系細胞の誘導を抑制できることを突き止め、CXCL1/CXCR2が骨髄由来細胞誘導シグナルであることを世界で初めて明らかにしました。この機序をもとに、CXCR2阻害剤を投与することで、スキルス胃癌腫瘍サイズやリンパ節転移を有意に抑制し、スキルス性胃癌を効果的に治療し得ることをマウスモデルで見出すことができました(図2)。
  3. 以上のことよりCXCL1/CXCR2が骨髄由来細胞誘導シグナルであり、治療薬として有効であることが明らかになりました(図3)。

 このシグナルは胃癌のみならず膵癌においても認められることを確認しており、CXCR2阻害剤は難治癌の新規治療薬として有効であると考えられます。現在は癌細胞を標的とした治療法が主流ですが、本発明は癌組織内の間質細胞誘導を標的とする点で、国内外にない新規性の高い難治癌治療法開発といえます。

図1:スキルス胃癌細胞産生物質の解析161011-1.png
スキルス胃癌細胞培養液を骨髄細胞に添加することにより、骨髄細胞の運動能や浸潤能が有意に促進された(a,b)。CXCL1/CXCR2シグナル阻害により骨髄細胞の運動能や浸潤能が抑制された(c)。これらの結果により、スキルス胃癌細胞由来のサイトカインCXCL1が骨髄間質細胞の走化性を促進することが証明された。

図2:スキルス胃癌に対するCXCR2阻害剤の治療効果
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スキルス胃癌マウスにおいて、CXCR2阻害剤(SB225002)を投与すると無治療に比し腫瘍サイズやリンパ節転移数が有意に少なく(a,b)、さらに生存率が有意(p=0.039)に高かった(c)。胃癌組織の細胞分析をしたところ、無治療のスキルス胃癌は多くの骨髄細胞が誘導されていたが、CXCR2阻害剤を投与したスキルス胃癌には骨髄細胞がほとんど認められなかった(d)。CXCR2阻害剤投与によりスキルス胃癌細胞の増殖能が有意に低下した(e)。これらの結果により、CXCL1/CXCR2シグナル阻害剤がスキルス胃癌治療薬として有効であることが証明された。 

図3:スキルス胃癌における骨髄細胞誘導機序
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スキルス胃癌細胞はCXCL1を介して正常骨髄間質細胞のCXCR2に作用し、骨髄細胞を癌組織に誘導する。
癌組織に入った骨髄細胞は癌細胞の増殖や浸潤を促進する。つまり、スキルス胃癌細胞は正常骨髄細胞を呼び込み、自分に有利になるように味方にしていることが考えられる。

期待される効果

 スキルス胃癌の難治性の原因シグナルが解明されました。このCXCL1/CXCR2シグナルを標的にした治療薬が臨床開発されると、胃癌の治療成績が飛躍的に向上することが期待できます。さらに、このCXCL1/CXCR2シグナルはスキルス胃癌のみならず、膵癌など他の難治癌においても認められることを確認しています。従って、今回発見したCXCL1/CXCR2を標的とした治療法は多くの難治癌に対する新しい治療法として期待できます。

今後の展開について ※本研究は特許出願中です。

 現時点では動物モデルを用いての非臨床試験の段階ですが、産学連携のもと新薬を開発し、できるだけ早く臨床試験を開始したいと考えています。