公立大学法人大阪市立大学
Facebook Twitter Instagram YouTube
パーソナルツール
新着情報

尿酸値が正常範囲内であっても 腎臓に悪影響の可能性!?

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
170601-21.JPG
◆6/1 共同通信
◆6/2 読売新聞、神戸新聞
     日本経済新聞(夕)
◆6/5 大阪日日新聞
◆6/6 医療NEWS QLifePro
◆6/19 化学工業日報
※その他地方紙多数掲載

概要

 医学研究科 代謝内分泌病態内科学・腎臓病態内科学の上殿 英記(うえどの ひでき)大学院生、津田 昌宏(つだ あきひろ)講師、石村 栄治(いしむら えいじ)特任教授らのグループは、ヒトの腎臓の機能と血流量を正確に測定する方法と微細血管抵抗計算式※1を用いて、尿酸と腎臓の微細動脈血管抵抗値※2との関連について研究しました。その結果、血清尿酸値が正常範囲内であっても、軽度の高値あるいは低値の状態で、腎臓の輸入細動脈血管抵抗値※2の上昇がみられること、また、腎臓への血流や機能が低下することを世界で初めて明らかにしました。
 近年、高尿酸血症は痛風を引き起こすだけでなく、高血圧症、糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病や腎機能障害と関連すると言われています。また、低尿酸血症では急性腎不全が引き起こされることや、血管内皮障害を引き起こすことが知られています。その原因は、尿酸値の上昇や低下に伴い、過酸化ラジカル※3や酸化ストレスが増加することで微細動脈の血管障害が引き起こされるためだと考えられていますが、未だ解明されていない部分も多く、実際にヒトの腎臓において本当に微細血管障害がみられるのかは分かっていませんでした。
 本研究成果は、これまで想定されていた血清尿酸値の範囲内(高尿酸血症7.0mg/dL以上、低尿酸血症2.0mg/dL以下)ではなく、より狭い範囲内において尿酸値を正常に保つことが、腎臓を保護するうえで非常に重要であることを明瞭に示したもので、日常内科診療において大変重要な新しい知見と考えられます。
 本研究成果は、平成29年6月1日(木)19時30分(日本時間)に米国生理学会誌「American Journal of Physiology-Renal Physiology」電子版に掲載されました。

※1 微細血管抵抗計算式
Gomezの式と呼ばれ、血圧、腎血漿流量等から微細血管抵抗の値を求める計算式。

※2 微細動脈血管抵抗・輸入細動脈血管抵抗
腎臓には老廃物を濾過するために腹部大動脈から分岐した血管から非常にたくさんの血液が送り込まれており、分岐した血管は枝分かれを繰り返し、非常に細い血管(輸入細動脈)として腎糸球体(血液を濾過する構造物)に入る。これらの細い血管は内腔の圧(腎微細動脈血管抵抗)を微調整することで腎臓への血流を保っている。これらの機能が破綻すると、腎臓への血流が落ち腎臓の機能が低下する。

※3 過酸化ラジカル
活性酸素の一種であり人体に必要であるが、毒性が強く体内の細胞に障害を与えるためその有害性が指摘されている。癌や生活習慣病、老化の原因になると言われている。

【発表雑誌】
American Journal of Physiology - Renal Physiology
URL:http://ajprenal.physiology.org/

【論文名】
U-shaped relationship between serum uric acid levels and intrarenal
hemodynamic parameters in healthy subjects
「血清尿酸値の軽度の上昇や軽度の低下で、腎微細動脈の血流異常がもたらされる
-血清尿酸値の厳密な管理が必要-」

【著者】
Hideki Uedono, Akihiro Tsuda, Eiji Ishimura, Shinya Nakatani, Masafumi Kurajoh, Katsuhito Mori, Junji Uchida, Masanori Emoto, Tatsuya Nakatani, Masaaki Inaba

研究の背景

 日本では高尿酸血症の患者さんは約500万人存在※4するといわれています。食生活の欧米化により、生活習慣病は年々増加傾向にあり、以前から管理の重要性が認識されていました。また近年、これまで内科的にはあまり重要視されてこなかった高尿酸血症が、痛風を引き起こすだけでなく、他の生活習慣病にも密接に関連していることや、腎機能障害の危険因子であるということが明らかとなり、血清尿酸値を正常に保つことの重要性も注目されてきました。日本では慢性腎臓病の患者さんは1330万人、慢性腎臓病が悪化した透析患者は約32万人存在※5しており、慢性腎臓病は新たな国民病と言っても過言ではありません。しかし、慢性腎臓病は一旦発症すると正常に戻すことはとても困難なため、慢性腎臓病の予防・早期発見は急務となっています。そこで私たちは、生活習慣病や腎機能障害や血清尿酸値の異常が指摘されていない健康な方を対象に、腎機能と尿酸の関連について検討を行いました。

※4 痛風と核酸代謝/ 30巻, 1号, 1-5頁/ 発行年 2006年
※5 一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会 2015

研究の内容

対象

腎移植ドナー候補者48名(男性19名、女性29名)、蛋白尿陰性、糸球体濾過率(GFR)が60ml/min/1.73m2以上、腎機能が正常で高尿酸血症やその他の生活習慣病のない健康な方。全員、移植ドナーとなりうるかどうか、腎臓の精密な機能精査を受けるために本学附属病院に入院された方です。

方法

170601-22.png腎臓の機能および血流量は最も正確に評価でき、また保険診療で測定することができるイヌリンクリアランス(Cin)及びパラアミノ馬尿酸クリアランス(Cpah)で評価しました。1%イヌリンと0.5%パラアミノ馬尿酸を溶かした生理食塩水を点滴し、イヌリンとパラアミノ馬尿酸の血中濃度を一定にした後に(点滴開始45分後)、完全排尿。その後、定常状態になっている90分の間の血液と尿のイヌリンとパラアミノ馬尿酸の濃度を測定し、計算式(クリアランス)を用いることで、腎機能を正確に評価できます(図1)。
輸入細動脈を含む微細動脈の血管抵抗値は、上記の方法で測定したイヌリンクリアランス、パラアミノ馬尿酸クリアランス、ならびに血圧と血中の総蛋白濃度を計算式(Gomezの式)に入れて計算し、腎臓の微細動脈の抵抗値を計算しました。

結果

尿酸と腎機能(糸球体濾過率:GFR)や腎血流量(腎血漿流量:RPF)は逆U字関係を認めました(図2)。これは尿酸値が軽度に高くても、また逆に軽度に低くても、腎機能や腎血流量の低下と関連することを意味します。また、尿酸は輸入細動脈血管抵抗とU字関係を認めました(図3)。これは、尿酸値が高くても、またその値が逆に低くても、輸入細動脈の血管抵抗の上昇と関連することを意味します。年齢、性別、体格指数(BMI)、収縮期血圧で補正しても、尿酸値が3.5 mg/dL未満あるいは6.0 mg/dL以上であっても、糸球体濾過率の低下や輸入細動脈の血管抵抗値の上昇と関連していることが分かりました。

図2 「血清尿酸値と糸球体濾過率ならびに腎血漿流量の関連」
170601-23.png

図3「血清尿酸値と輸入細動脈血管抵抗、糸球体内圧との関連」
170601-24.png

本研究により明らかとなったこと

  1. 尿酸は正常値の範囲内であっても、軽度の高値あるいは軽度の低値の状態であれば腎臓の微細動脈の血管抵抗値を上昇させ、腎機能の低下と関連する。
  2. 尿酸値が正常値より低い場合でも腎機能や腎血流が低下するため、低ければ低いほど良いというわけではない。

これらの結果により尿酸値に対する従来の認識を改め、今後、尿酸値を適正に管理することの重要性を意識するきっかけになることを期待しています。

今後の展開について

現在、尿酸低下薬の薬物治療を行う事により、腎臓の機能や微細動脈血管抵抗値がどのように変化するかを研究中です。適正に尿酸値コントロールを行うことで、腎不全などの腎臓病や尿酸値に起因した生活習慣病が予防できるようになることを目標に、引き続き研究を進めてまいります。