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インターフェロン卒業生へ: 肝がんにならないために―定期検査で“肝星細胞の活性化”を警戒しよう!―

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆3/16 QLifePro 医療ニュース
◆3/19 日刊工業新聞

本研究成果のポイント

・症例豊富な大阪市大において、治療前後の発がん・非発がん生検データを比較考察
・インターフェロンによるウイルス排除後にがんを発症したケースでは、肝星細胞が活性化し、肝線維化が進むことを世界で初めて報告
・治療終了後、自覚症状がなくても定期的な検査を続ける必要性、重要性を科学的に示唆

概要

 大阪市立大学大学院医学研究科 肝胆膵病態内科学の元山 宏行(もとやま ひろゆき)病院講師らのグループは、インターフェロン1の投与を主とするC型肝炎治療が終了しウイルスが排除された状態にもかかわらず発がんした肝臓では、活性化状態にある星細胞(ほしさいぼう)2により線維化が進んでいることを明らかにしました。
 本研究成果より、活性化した星細胞を制御することで線維化の改善が期待できること、そして発がんメカニズムの解明にもつながる可能性が示唆されました。現在、広く導入されている飲み薬によるC型肝炎治療後においても同様の可能性があり、ウイルス排除治療終了後、6カ月ごとの定期検査の必要性が強く示唆されます。
 本研究成果は日本時間3月14日午前3時(米国東部時間:3月13日午後2時)に科学誌PLOS ONEに掲載されました。
※1 インターフェロン…生体内で病原体や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌するサイトカインと呼ばれるタンパク質の一種。ウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、免疫系および炎症の調節などの働きをする。
※2 星細胞(肝星細胞)…肝星細胞は肝類洞壁に存在し、多様な肝病態と深く関係している。活性化すると蓄えていたビタミンAを放出し、肝臓内で線維(コラーゲン)を産生する。

研究背景

 日本におけるC型肝炎ウイルス(HCV)感染者は現在、約150万人とされており、HCV感染後、ウイルスが排除されずに感染が持続すると10~20年以上を経て肝硬変や肝がんに進展することがあります。
 C型肝炎の治療には長年、インターフェロンが用いられてきました。ウイルスを排除することで、肝線維化改善や発がん抑制といった効果が得られると報告されています。しかしながら、ウイルスが排除された後も肝発がんのリスクは完全にはなくならず、ウイルス排除後5年・10年の発がん率は、それぞれ 2.3~8.8%、3.1~11.1%と報告されています※3。ウイルス排除後の肝発がんの大きな要因は肝線維化であることが報告されていましたが、その理由は明らかにされておらず、ウイルス排除後の肝発がんのメカニズムや病理組織学的解析が求められていました。
※3 Hiramatsu N. Hepatol Res. 2015; 45: 152-61.

研究内容

 本学医学部附属病院にてインターフェロン治療によってウイルス排除が得られた654例(1992年から2014年)のうち、治療前後に肝生検を実施した非発がん群23例と外科的切除をした発がん群11例の、治療前後の組織像を比較検討しました。
 その結果、肝組織像において、炎症は両群とも改善しているのに対し、線維化については発がん群では非発がん群に比べて改善が乏しいことがわかりました。加えて、年率の線維改善率も発がん群では有意に低いことが明らかとなりました。(図1)

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 次に、肝組織内の線維(コラーゲン)量と活性化星細胞について調べました。活性化星細胞マーカーとしてサイトグロビン(CYGB)とα-Smooth Muscle Actin(α-SMA)を使用し、免疫染色を行い比較検討しました。
 コラーゲン量はSirius red (SR)染色で赤くなったところで示され、活性化した星細胞はサイトグロビン(CYGB)およびα-SMAの量で示されます。非発がん群では治療前に観察されていた活性化星細胞(CYGBおよびα-SMA)は著しい減少が見られ、活性化していない星細胞が多く観察されました。一方、発がん群では線維量およびα-SMA量ともに改善が乏しい結果でした。(図2および図3)

図2 非発がん群のコラーゲン量とαSMAの変化、<br />およびCYGBとαSMAの発現<br />赤:CYGB 緑:αSMA 青:核
図2 非発がん群のコラーゲン量とαSMAの変化、
およびCYGBとαSMAの発現
赤:CYGB 緑:αSMA 青:核
図3 発がん群のコラーゲン量とαSMAの変化、<br />およびCYGBとαSMAの発現<br />赤:CYGB 緑:αSMA 青:核
図3 発がん群のコラーゲン量とαSMAの変化、
およびCYGBとαSMAの発現
赤:CYGB 緑:αSMA 青:核

 

 最後に、画像解析ソフトを用いて肝生検および肝切除時の肝線維量とCYGBおよびα-SMA陽性細胞数を定量化しました(図4)。結果、非発がん例では発がん例と比べ、SR染色では肝線維化が顕著に改善しており、活性化星細胞数(=CYGBおよびα-SMA陽性細胞)は治療後には明らかに減少しているとわかりました。α-SMA染色では有意差はないものの、いずれも改善傾向でした。以上により星細胞には線維化改善を妨げ、発がんを助長する可能性があると示唆されました。

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今後の展開について

 活性化した星細胞を制御することにより線維化の改善が期待でき、発がんメカニズムを明らかにできる可能性があります。
 現在主流となっている直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)の内服治療は、適用範囲が肝硬変までと広く、また100%に迫る確率でウイルスを排除することが可能となっていますが、インターフェロン治療後と同様に線維化が改善せず、がん化する可能性があります。今後はこの飲み薬による治療でウイルス排除が認められた後の状態においても同様の検証を行う予定です。
 肝線維化は自覚症状がなく、肝硬変が深刻な段階になるまで気づかない患者さんが多くいます。肝炎治療が終了しても肝発がんのリスクが消えるわけではありません。肝炎治療卒業生へ向けて、引き続き、定期検査の重要性を訴え、受診を促していきます。

資金情報

本研究の一部はJSPS科研費(JP15K09019、JP17H04124)の助成を受けて行われたものです。

参 考

・「一般財団法人 日本肝臓病対策支援財団」http://jldf.jp/
・「肝炎.net」 http://www.kanen-net.info/resource/1517686034000/kanennet/index.html

論文情報

雑誌名:PLOS ONE
論文名:“Stagnation of histopathological improvement is a predictor of hepatocellular carcinoma development after hepatitis C virus eradication”
著者:Hiroyuki Motoyama, Akihiro Tamori, Shoji Kubo, Sawako Uchida-Kobayashi, Shigekazu Takemura, Shogo Tanaka, Satoko Ohfuji, Yuga Teranishi, Ritsuzo Kozuka, Etsushi Kawamura, Atsushi Hagihara, Hiroyasu Morikawa, Masaru Enomoto, Yoshiki Murakami, Norifumi Kawada
掲載URL:http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0194163