公立大学法人大阪市立大学
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レオナルド・ダ・ヴィンチの推測が検証された! 量子乱流のユニークな構造を発見

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆4/16 大学ジャーナル
◆4/19 日刊工業新聞

本研究のポイント

・不可能とされていた量子乱流の大規模数値計算に成功!
・極低温の流体では量子乱流が実現する!
・数百年の謎である乱流の解明に大きく迫る成果

図1 量子乱流(青い線)の発達に伴い、常流動の
速度分布が変形する(左図から右図へ)
図1 量子乱流(青い線)の発達に伴い、常流動の 速度分布が変形する(左図から右図へ)

 
 大阪市立大学大学院理学研究科の湯井 悟志(ゆい さとし)大学院生、坪田 誠(つぼた まこと)教授らの研究グループは、慶應義塾大学法学部の小林 宏充(こばやし ひろみち)教授との共同研究において、極低温※1状態で発生する量子乱流※2の発達に伴い、常流体の速度分布が大きく変形する(図1左図から右図への変化)ことを発見しました。本研究成果は物理学分野で影響力の高い『Physical Review Letters』誌にオンライン掲載されました。
※1 極低温…絶対零度(-273度)に極めて近い低温

※2 量子乱流…超流動の量子渦が作る乱流

概要

図2 ダ・ヴィンチが描いた乱流
図2 ダ・ヴィンチが描いた乱流

 自然界には、さまざまな気体や液体の流れがあり、その多くは、流れが複雑に乱れた「乱流」です。乱流の発生メカニズムや特徴については、理学や工学など、多くの分野で膨大な研究が行われてきましたが、まだ十分な解明はなされていません。
 約500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは乱流のスケッチ(図2)を描き、“渦”こそが乱流を理解する重要な鍵であると指摘しました。しかしこの渦は、定義も存在も不明瞭で、ダ・ヴィンチの提案は十分には確認されていないのが現状です。
 低温物理学の分野では、物質が極低温になることで生じる現象として、金属では電気抵抗がゼロになる“超伝導”が、流体では液体の粘性がゼロになる“超流動”が報告されています。液体ヘリウムにおいて観測される超流動現象は、量子力学に支配された現象であることが知られています。20世紀を代表する理論物理学者ランダウは、この超流動現象を理解するために、粘性がなくなった超流体と粘性を持つ常流体が混在した「二流体モデル」※3を提案しました。二流体モデルは、低温物理学のさまざまな現象の解明に大きな貢献をもたらしました。一方、量子渦の変形・輸送で表現される超流体と水のように空間を隙間なく満たす常流体は性質があまりに異なり、複雑なため、実験結果を説明する計算はしばらく不可能と考えられてきました。
 本研究グループは、複雑でしばらくは不可能と考えられていた、超流体が量子乱流を作る状態における二流体モデルの大規模数値計算を実現することができました。“乱流”は物理学における解明困難な最終問題の一つとされており、その解明の突破口と期待されているのが“量子乱流”の研究です。本研究は量子乱流の発達に伴い、常流動の速度分布が特異な変形を受けることを世界で初めて示しました。本研究成果により、さらに複雑な流体および乱流挙動の実証が期待でき、ひいては乱流現象の解明につながります。
※3 二流体モデル…1941年にランダウ(1920-1968)が提唱。1962年にノーベル物理学賞を受賞したモデル

研究内容

 超流体の運動を担う量子渦を数式で表した方程式と、常流体の流れを表す方程式(ナヴィエ・ストークス方程式)を連立させて、大規模な数値計算を行いました。それにより、量子渦が成長し毛玉状の量子乱流を作ると、常流体の速度分布が大変形を起こす(図1)ことを見出しました。低温物理学の分野において、超流体と常流体の運動方程式を連立させた解析は、ランダウが1941年に二流体モデルを提唱して以来の研究です。これにより、2015年にアメリカの実験グループが行った特徴的な流体挙動の可視化実験を、初めて説明することができました。量子渦は、身の回りにあふれる普通の流体中の普通の渦よりも、むしろ安定で明確に定義できる存在であり、「乱流は渦からなる」という500年前のダ・ヴィンチのアイデアを検証することができました。

今後の展開について

 本研究成果は、砂を含んだ水の流れのような混相流現象※4の理解にも波及します。また、超流動を冷媒として用いたさまざまな冷却技術の発展に繋がります。
 低温物理学の分野では、二流体が関与するさまざまな実験が行われていますが、本計算手法を活用することで、実験では計測困難な諸量を詳細に把握できるようになり、二流体現象の理解・解明が進展します。二流体がともに乱流になると何が起こるか、ひいては、自然界の最終問題の一つと言われる乱流の解明にも迫ることができます。
※4 混相流現象…固体の相と液体の相、液体の相と気体の相といった複数の相が混在した流れを指す

資金情報

 本研究は、科研費(17K05548、16H00807、JP16J10973)、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1511006)、2017年度慶應義塾大学学事振興資金の対象研究です。

掲載誌情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Three-Dimensional Coupled Dynamics of Two-Fluid Model in Superfluid 4He:Deformed Velocity Profile of Normal Fluid in Thermal Counterflow
著 者:Satoshi Yui1, Makoto Tsubota1, Hiromichi Kobayashi21 Osaka City University, 2 Keio University)
論文掲載URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.155301