大阪市立大学大学院工学研究科の研究グループ(細田誠教授ほか)は一般的な電子機器中においてもカオス磁力線が広汎に存在することを世界で初めて発見し、論文が米国物理学会のフィジカル・レビューEのオンライン版に12月21日付で掲載されました。また、フィジカル・レビュー・フォーカス(http://focus.aps.org/)にも同日掲載されました。
磁石やコイルの磁力線は図1のように単純な形をしています。(小学校の実験のように、砂鉄を撒いた紙に磁石を当てると見えます。)このような簡単な磁力線しか存在しないと一般的には考えられてきましたが、ある条件下では非常に複雑な磁力線=カオス磁力線が発生することが、これまでの核融合プラズマや太陽プラズマの研究などで分かっています。
今回、上記のような宇宙的規模の極限環境下ではなく、一般的な電子機器中においてもカオス磁力線が広汎に存在することを世界で初めて発見しました。
細田教授を中心とする研究グループの研究によれば、簡単な形状の電線を3次元的に交差させ、そこにある程度の強さの電流を流すだけで図2のようなカオス磁力線が発生します。現代の高度技術社会における電子機器内の電線(配線)の間隔やそこに流れる電流値を現実的な値を用いてシミュレーションした結果、ほとんどの電子機器においてカオス磁力線が発生していることが確かめられました(図3)。また、多くの集積回路内部にもカオスが発生しており、それを使用した製品内部にはカオスが隠れています。すなわち、パソコン、携帯電話、テレビ、情報家電などが身の回りに存在する現代技術社会においては、カオスもユビキタス(遍在)であり、これをユビキタス・カオスと呼ぶこともできるでしょう。
磁力線は電子の運動に影響を与えます。例えば、テレビのブラウン管は電子ビームの縦方向スキャンにコイルによる磁界を利用しています。電子の流れを利用している現在の電子機器内においては、今のところ、カオス磁力線の強さはあまり大きくないために、電子機器の動作に対する影響は少ないと考えられます。しかし、より配線間隔の接近する将来の集積回路などでは影響が出てくる可能性があります。電線(配線=一種のコイル)に近いほど磁界が強くなるためです。
上記のように、これまではあまり影響がなかったために、発見されなかった、いわば、隠れたカオスですが、現代世界のほとんどの電子機器や集積回路内に存在しています。
この研究成果は、将来の集積回路の開発において、考慮せねばならない要件として浮上してくるかもしれません。また、現在研究が進行中の、電子のスピンという磁気特性を利用したスピントロニクスという将来的な電子技術に対しても複雑な影響を与える可能性があります。
10アンペアー以上の電流が流れる捻れた電線においてもカオス磁力線が発生します(図4)。現代社会においては10アンペアーという電流はそれほどまれではなく、一般家庭の電気の供給線や建物内の給電配線でも存在します。
また、平行電線がたまたま捻れていてもカオスが発生します。したがって、このケースでも磁力線カオスは各家庭や会社のビルにあり、ユビキタスであるといえます。
図1 磁石やコイルの磁力線の例

図2 磁力線カオスの例
青で表示された電線に流れる電流により、黒で表示された複雑な磁力線が生じている。磁力線は途中までしか書かれていないが、この後、無限に複雑な軌道を描きながら、青い電線の周りを周回する。
図3 プリント配線基板(Print Circuit Board: PCB)や集積回路内配線において発生するカオス磁力線の例

図4 ねじれた電線(給電線など)において発生するカオス磁力線
