2012(平成24)年度 入学式 式辞
平成24年4月5日
桜花爛漫、本日の晴れやかな日に、平成24年度大阪市立大学入学式に出席された学部学生1,517名、大学院学生760名の2,277名の皆様、ご入学おめでとうございます。本学は皆様の入学を心よりの喜びをもってお迎えいたしたいと思います。そして、この日を長年にわたり、物心両面に亘り支え、心待ちにしてこられたご家族の皆さま、本当にご入学おめでとうございます。
ご多忙にもかかわらず関係各位のご臨席を賜り、このように平成24年度の入学式を挙行できますことは、本学にとりまして誇らしく大きな喜びであります。教職員ならびに在学生とともに、皆様が本学の構成員となられたことを心より歓迎いたしたいと思います。
この皆様の栄えある門出にあたり、私から一言お祝いを申し上げたいと存じます。
昨年の3月11日に東日本大震災が起こりました。1年前の出来事で、現在も避難生活を余儀なくされておられる方々も多くおられ、その記憶もまだまだ新しいものであります。また、原発事故に伴う放射能汚染については現在も大きな課題であり、除染に努力が傾けられています。
私たち、関西に住む者として、神戸の大震災を経験し、今日の復興を経験してきております。この経験からも、震災のより早い復興を願うとともに、皆様とともに継続的に支援をしていきたいと思います。
さて、本日の皆様の入学の日にあたり、本学の歴史についてお話をしておきたいと思います。
大阪市立大学は今年で創立132年を迎える長い歴史と伝統を持ち、市立の大学としては我が国で最も歴史が古く、公立大学として規模の最も大きな大学です。また、大阪市内に位置する唯一の総合大学でもあります。
その淵源は大阪商業講習所の開所に遡ることができます。1880年(明治13年)、明治維新からわずか10年余りの時代に、当時の「大阪財界のリーダー」であり、大阪商工会議所、大阪株式取引所(現代の大阪証券取引所)などを設立し、私財をなげうって多大の貢献があった五代友厚が「我が国の商業の中心として栄えている大阪に商法学校をという世論」を支持し、商業講習所創立の中心的役割を果たしました。
その後、大阪市の誕生によって市に移管され、1928年(昭和3年)に大阪商科大学に昇格いたしました。
大学に昇格したこの当時、市長・関一は開設にあたって「市立商科大学の前途に望む」と題する一文を草し、商大設立の意義と理念を述べました。そこには3つの意義が記されています。第1に、大学を大都市に必要な精神文化の中心的機関と位置づけたこと、第2に、そのためには市民の力を基礎として市民生活に密着した大学、すなわち、国立大学の「コッピー」ではない大学であること、第3に、「大都市・大阪を背景とした学問の創造」を大学の任務としたことです。
関一によって示された大阪商科大学の理念は、現在でも輝きを失うことなく、現在の本学の理念として継承され、教育・研究・社会貢献のあり方を方向づけております。
戦後、学制改革により、1949年(昭和24年)に新制大阪市立大学となり、昭和30年には、大阪市立医科大学を併合して、現在の8学部、大学院10研究科をもつに至っています。初代の学長であった恒藤恭は「理論と実際との有機的な連結を重視する学風をかたちづくって行く」と述べ、種々の分野において社会の実用に役に立つ研究成果を挙げ、社会の職域において真に有能なはたらきを得る人間を養成することと述べています。
すでに、本学は9万有余の人材を世に送り出すとともに、広く学術の振興、産業の発展、市民の教育に重要な役割を果たしてきています。文字どおり公立大学の雄であり、名実ともに充実した都市型総合大学として、発展してきました。
本学は、平成18年に法人化をし、すでに6年を過ぎ、この4月から、第2期中期目標、中期計画の1年目に入りました。この6年間の第二期中期目標において、わが国で数少ない公立の総合大学として132年の歴史と伝統を有し、大学の普遍的使命である真理の探究はもとより、都市を学問創造の場と捉え、都市の諸問題に取り組み、特に都市科学分野の研究とシンクタンク機能を充実するなど、大阪・関西の活性化になくてはならない存在としており、都市や地域に貢献することが掲げられています。さらに、「総合大学の魅力である多様性を、強みを最大限に発揮し、高度の専門性とグローバルで幅広い視野を有し、都市大阪の成長や地域の発展に貢献する多様で有為な人材を育成」するという目標を掲げています。
一方で、本学の設立団体である大阪市において、市と府の再編が検討され、新しい大都市制度を構築する改革に着手しており、「大阪府市統合本部」が設置され、共通するさまざまな施策について、経営形態の見直しが進められております。大学につきましても公立大学法人大阪府立大学との経営統合に向けた検討が行われております。
大阪府立大学とともにそれぞれの伝統や個性を活かしながら、切磋琢磨する法人が設立されれば、大阪・関西にとってより大きな知的拠点となり、その発展に貢献できることとなります。本学として、これを機に、めざす方向性に沿い、ともにアジアをリードする大学として新たな姿を示していきたいと考えております。
本学の昨年のいくつかのトピックスを述べたいと思います。
11月21日発売の日経グローカル誌の全国の大学の地域貢献度ランキングでは、本学は全国9位でした。同誌では、「大阪市北船場地区の街の活性化イベントや文楽や神社の祭事を発信し、新しいコミュニティーの形成につなげている」と評価されています。
12月10日発売の週刊ダイヤモンド誌の就職に強い大学ランキングでは全国12位で、公務員や人気100社就職率が高いと評価されました。
また、昨年の12月26日の米国科学誌サイエンスが選んだ2011年のブレイクスルー10大業績に、日本から2つ選ばれました。
その一つは、小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトで、もう一つが本学理学部の神谷信夫教授らの研究成果である光合成たんぱく質の構造解析の研究成果でした。大変な名誉で、誇りに思います。さらに、本学での「光合成を用いた次世代エネルギー研究」やそのプロジェクトが大阪市の強力な支援による新たな研究施設として「人工光合成拠点」が建設されることになり、すでに多くの企業の共同研究の参画希望があるとのことで、今後のさらなる発展を期待しているところです。
また、昨年の10月に学生サポートセンターが開館いたしました。皆さまの学業に関する事務的なことはここですべてできるように、工夫されているところですが、さらに教職員の知恵を寄せ集めて、さらに使いよい、サービスの行き届いたセンターにしたいと考えています。
新理系学舎の建設及び整備は昨年の1月に竣工し、平成27年2月に完成予定で、総面積14,575平米、3つの建物からなり、地下1階から地上4階ないし7階の研究棟が予定されています。
また、JR杉本駅東出口が3月11日に新設され、開かずの踏切を通らずとも学内に入ることができるようになりました。この20年来の我々の願いがかなったところです。大学では、この改札から直接に大学に入れるように、新たな西門をこの6月に設け、学内に新たな通学路を現在建設中です。この通学路を、本学におられましたノーベル賞学者、南部陽一郎先生のお名前を冠した「南部ストリート」と命名したいと考えており、先生のご了解をいただいたところです。ちょうど、西門から理学部学舎へ向かう通学路で、大変にその名にふさわしい命名になるのではないかと思っております。
以上のように、本学の大きな歴史の流れと現在の、そして今後の大学の方向性をお話させていただきました。皆さまは、本当に重要な歴史の起点に立っておられるといっても過言ではないと思います。
本日の、皆様のよきこの日の機会に、一言、言葉を送らせていただこうと思います。
1,000年も持続し、繁栄した古代ローマ帝国を大著としてあらわしている著者、塩野七生さんによる「ローマから日本が見える」という著書があります。現在のわが国の切迫した状況は、古代ローマの歴史から学ぶことが多くあるのではないかとの問いかけであります。その中で、大変に興味深い一節があるので、紹介したいと思います。
指導者に求められる資質は、次の5つであるといいます。
知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御能力、持続する意志。
実はこれは、イタリアの普通高校で使用されている歴史教科書から、引用されています。我が国では、「判断力、決断力、実行力」をあげられることが多いが、ここでは全く触れられていない。著者は、その理由として、人の上に立とうとする以上、これら3つの資質「判断力、決断力、実行力」は当然持ち合わせているべきことで、その上に「知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御能力、持続する意志」の5つの資質が求められるのだというわけです。それがイタリアの高校生に普通に教えられているというところにヨーロッパの人材育成の深みを感じていると塩野さんはいうのです。
私は、少し異論があります。
「判断力、決断力、実行力」はリーダーにとっての資質としての最終的な表現型を意味しているのではないかと思います。「判断力、決断力、実行力」を身に修めるため、あるいはそのような人材の育成にどのような教育や努力、鍛錬が必要であるのかは、やや抽象的に感じるからです。
そう考えますと、リーダーの資質「知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御能力、持続する意志」には具体性があります。知力の強化、大いに勉強し、幅広い知識とともに、その活用能力の練磨。説得力の能力アップ、コミュニケーション能力やプレゼンテーション力、エビデンスをもとにした論理能力、相手の心理や周囲の環境を読む力など多方面のトレーニングが思い浮かびます。肉体上の耐久力、指導者は得てして健康を度外視して仕事をすることが美点のように取り上げられますが、ここでは、より永続的に体力を維持ないし体力増進するための健康管理能力が求められます。自己制御能力、リーダー個人の欲望や偏見を適正化できる能力。持続する意志、朝令暮改にならないよう、確固たる信念の形成、そのトレーニングなど具体的な自己訓練ないしは能力開発が可能な項目ではないかといえます。
私は、このような資質を鍛錬することで、結果として「判断力、決断力、実行力」能力が発揮できるのではないかと考えます。これらは別のものではないと考えます。その意味で、「抽象的な目標」でなく、高校生に指導者になるための「具体的な目標」を提示していることが、長い歴史のなかで、多民族が混ざり合い、しのぎを削ってきたヨーロッパ人の人材養成の知恵なのだと思います。
もっとも、塩野さんから見ても、古代地中海世界の何千年間においてこれら5点がすべて100点満点をとれるリーダーは、カエサル(シーザー)とギリシアのペリクレスくらいだというのですから、かなり高度の資質を求められているのかも知れません。この5つの資質「知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御能力、持続する意志」の大切さを知り、これらを、あるいはこれらのうちのどれかを大学時代に磨きをかけようと努力されることは大いに結構な目標だと思います。「知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御能力、持続する意志」です。
ご入学のこの日に際し、有意義で可能性の広がる学生生活、研究生活を、本日よりスタートされますことを祈念し、わたくしどもの心からの歓迎の意を表して、皆様への祝辞とさせていただきます。
本日は、本当におめでとうございます。