公立大学法人大阪市立大学
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アルツハイマー病の老人斑説を否定!マウス実験で確認

2010年04月07日掲載

研究・産学

戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の一環として、大阪市立大学大学院医学研究科の富山貴美准教授、森啓教授らの研究グループは、姫路獨協大学、兵庫医療大学、米国ノースウェスタン大学との共同研究により、アルツハイマー病の新しい動物モデルを作製することに成功しました。従来はアミロイド病変である「老人斑」が病気の原因と考えられていましたが、今回新たに作製された老人斑が無いマウスでも、病気が発症・進行し、老人斑以外の異常脳病理変化が現れることで、老人斑無用説が提唱されました。この研究成果は、Journal of Neuroscience誌4月7日号に掲載されます。

アルツハイマー病は、脳に、アミロイドβの巨大な線維状凝集体(「アミロイド線維」)からなる老人斑と呼ばれるシミができます。老人斑ができると、神経細胞内に「神経原線維変化」と呼ばれる「タウ蛋白質」の凝集体ができるとともに、神経細胞の機能維持や脳内の清掃をつかさどるグリア細胞が活性化され、炎症反応が起こって、やがて神経細胞が死に始めます。これらの観察結果から、アルツハイマー病は、アミロイドβが脳内で凝集し沈着すること、すなわち老人斑ができることが原因であると考えられていました(「アミロイド仮説」)。しかし、この仮説には、患者の認知機能の低下と老人斑の数が一致しないという矛盾がありました。

最近の研究により、アミロイドβは、アミロイド線維を作る前に、数個~数十個の分子が会合した小さな集合体(「オリゴマー」)を形成し、これが脳内を泳ぎ回って神経細胞のシナプスに作用し、その機能を邪魔することで認知機能の低下が起こると考えられるようになってきました(「オリゴマー仮説」)。この新しい考えは、アルツハイマー病の脳ではオリゴマーが増えているという観察結果とも合わせて、アミロイド仮説の問題点を解決するものとして、現在多くの研究者に支持されています。しかし、アルツハイマー病の発症に、オリゴマーだけでなく老人斑が共犯として働く可能性が根強く残されていました。

本学医学研究科脳神経科学の富山貴美准教授、森啓教授らは、彼らがアルツハイマー病患者で見つけた、オリゴマーだけを形成しアミロイド線維は形成しない変異型アミロイドβ(「E693Δ」変異)を持つ新しいトランスジェニックマウスを作製しました。この新しいモデルマウスは老人斑が無くてもアルツハイマー病を発症し進行することが分かりました。つまり、新しいモデルマウスでは、8カ月齢頃より神経細胞内にオリゴマーが蓄積し、それとともにシナプスの機能が低下し、記憶障害に基づく行動異常が現れました。さらに高齢化してくると、記憶の中枢である「海馬」と呼ばれる部位で、神経原線維変化の前段階である異常リン酸化タウやグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)の活性化や神経細胞の消失も確認できました。念のためにマウス寿命に近い24カ月齢のモデルマウスを調べたところ、老人斑は全く存在していませんでした。

アルツハイマー病でみられる異常脳病理変化の多くがオリゴマーだけで引き起こされることを明らかにした富山准教授らは、新世代の認知症薬のターゲットとして、老人斑ではなく、アミロイドβオリゴマーに特化した治療戦略の重要性を提唱しています。その際、今回の新しいモデルマウスはアルツハイマー病治療薬開発のための有力なツールとなると期待されます。今回の研究成果は、100年の歴史をもつアルツハイマー病研究のターニングポイントになると考えられます。