ネットワーク機器の省電力化を実現するハードウェアアーキテクチャとトラフィック予測技術を開発
大阪市立大学大学院工学研究科 阿多信吾教授らの研究グループは、ルネサス エレクトロニクス株式会社(以下ルネサス)、株式会社日立情報通信エンジニアリング(以下日立情報通信エンジニアリング)、国立大学法人大阪大学と共同で、ネットワーク回線の使用状況に連動した省電力化を達成する新しいネットワーク機器向けハードウェアアーキテクチャと、高い省電力効果を実現するためのトラフィック量予測技術の研究開発を行いました。評価ボードによる実証実験の結果、従来と比較し最大約70% の電流削減効果を確認しました。
研究の背景
近年のネットワークの急速な普及とネットワーク需要の拡大によって、ネットワーク機器の消費電力は著しく増加しています。一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の2009年度グリーンIT推進会議 調査分析委員会報告書によれば、ルータ・スイッチなどのネットワーク機器の2025年ころの国内エネルギー消費は約690億KWh/年と予測されており、これらの省電力化が重要な課題となっています。一方、これらのネットワーク機器は、これまで信頼性の観点から常時最大限の性能を提供できるよう曜日・時刻を問わず常に 100% の稼働状態で動作し続けており、特に休日・夜間などの通信需要が低い時間帯などでは電力消費の点で無駄が生じていました。
研究の概要
研究グループでは、ネットワークの信頼性を損なうことなく、かつ通信需要が低い時間帯において消費電力を効果的に削減するために、ネットワーク回線の使用状況に応じて処理能力を段階的に調整可能なハードウェアアーキテクチャの研究開発に取り組んできました。ネットワーク機器のコンポーネント※1をスライス化※2し、時々刻々と変化する使用状況に応じて必要十分な処理を提供できるようスライス制御を行うことで省電力を実現します。通信の信頼性を維持しつつ高い省電力効果を達成するためには、これまでのネットワーク利用状況から将来の利用状況の予測(以下、トラフィック予測)を行う必要があります。研究グループでは、マイクロ秒単位で動作するスライス化ハードウェアに対し、細粒度のトラフィック予測式を新たに導出し、さらにスライス化による通信品質への影響を最小限にするための最適化を行いました。また、省電力効果の有効性を確かめるため、大学キャンパスで取得した実際のネットワークトラフィックを元に検証を行ったところ、特に利用率の低い深夜時間帯において大幅な省電力化が達成されていることを確認しました。
さらに、以上の理論検証の結果をもとに、ルネサスおよび日立情報通信エンジニアリングが試作開発したルータ向け評価ボードによる実証実験を行い、最大で約70%の電力削減効果があることを確認しました。
今後の展開
本研究成果によるハードウェアアーキテクチャは、特に夜間や休日など、通信需要が低い時間帯において高い省電力効果を有するだけでなく、時々刻々と変化する通信量にダイナミックに対応した省電力化が実現でき、ネットワーク機器の省電力化に大きく貢献することが期待されます。今後も、引き続き共同研究により早期の実用化に向け取り組んでまいります。
なお、本研究の成果は2010年度~2011年度総務省ICTグリーンイノベーション推進事業(PREDICT)、および2012年度総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)によるものです。
用語解説
※1 コンポーネント:ネットワーク機器を構成する個別の要素(ハードウェア)を指します。ここでは、検索 LSI、バッファリング回路、スイッチング回路などを対象としています。
※2 スライス化:単独のコンポーネントを一つのハードウェア回路として考えるのではなく、複数の同等機能を持つ回路(スライス)を並列に構成し、同時に動作させることで単一のハードウェアと同等の処理能力を達成する技術。図のように毎秒40ギガビットの処理能力を持つコンポーネントを毎秒10ギガビットの処理能力の4つのスライスに分割し、並列動作させることで毎秒40ギガビットの処理能力を実現します。本研究では、入力されるトラフィック量に応じて必要となるスライスのみを稼働させ、それ以外のスライスへの電力供給を停止することで、省電力化を実現しています。
関連webサイト
研究発表に関するお問い合わせ先
大学院工学研究科 電子情報系専攻 教授 阿多 信吾(あた しんご)
E-Mail: atainfo.eng.osaka-cu.ac.jp