公立大学法人大阪市立大学
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熱版スマートグリッド「サーマルグリッドシステム」実証開始

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました
◆8/12 毎日放送「VOICE」
◆8/13 日本経済新聞・読売新聞・毎日新聞
◆8/14 朝日新聞

熱版スマートグリッド「サーマルグリッドシステム※1」実証開始
~熱パケット搬送とサーマルルーティングによるカスケード利用~

 研究開発の概要

 公立大学法人大阪市立大学は、平成24年度より、環境省 地球温暖化対策技術開発・実証研究事業「既設熱源・電源を自立・分散型エネルギー化し鉄道網を利用した地域融通エネルギーシステムの開発※2」を受託事業の一環として、熱版のスマートグリッドと言える「サーマルグリッドシステム」の研究開発を行ってきました。
 本日、平成26年8月12日より「咲州地区スマートコミュニティ実証エリア」であるATC(アジア太平洋トレードセンター)と大阪府咲洲庁舎間に構築した「サーマルグリッドシステム」の実証を開始いたします。
 中尾 正喜(なかお まさき) 特命教授等のグループが研究開発したこのシステムは、各負荷(空間に必要な空調の冷温熱)と各熱源(熱を生み出す機器)間を自在に熱融通(サーマルルーティング)し、負荷の要求に応じた異なる温度の冷温水を運ぶ(熱パケット)こととあわせて、空調の高効率化を実現する画期的なシステムです。
 このシステムにより、一般的なビルで4割程度の省エネルギー化と、設備導入・運用のコスト負担を劇的に改善することが期待されます。

※1 国際特許 申請済・公開中
※2 研究代表:大阪市立大学、
   共同実施者:京都大学、大阪府立大学、
(社)咲洲・アジア スマートコミュニティ協議会、大阪市        

本研究開発の背景

 世界的な地球温暖化問題や国内の電力需給の逼迫など、持続可能な社会に向けエネルギー問題の解決は我が国のもっとも重要な社会課題の一つです。一般に、オフィスビル等でのエネルギー消費量の約4割は空調エネルギーと言われており、空調システムの高効率化・省エネ化は低炭素社会の実現には必要不可欠です。
 しかしながら、現状の空調システムは大部分の時間において極端な部分負荷で低効率運転されているのが実態です。これは、一般に空調システムが最大負荷(夏のピーク時)で設計されることと機器能力に余裕をもって選定されることに起因します。

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  図1 事務所ビルの冷熱負荷率※3     図2 熱源の負荷率とCOP※4

 このような課題の解決方法として、熱源機の台数分割や部分負荷効率の高い熱源機の開発が進められていますが、初期投資が大きくなるため適用は限られています。また、大都市部において複数ビル間の熱融通が導入されつつありますが、温水のニーズのある施設・建物にガスコジェネレーション発電システムの排熱を送るなど熱融通配管の用途は限定されています。さらに、熱源によって生み出された冷温水を多段で利用するカスケード方式も導入され始めていますが、カスケード利用の為の配管のルートが固定されており、効果は限定的です。

※3 業務用建築物の冷温熱負荷時系列データベース(首都圏版)空気調和・衛生工学会
    The time-series data base of the nonresidential buildings cooling and heating load
※4 COP=冷凍能力/冷凍機入力電力、図2のグラフはターボ冷凍機(水冷式-高効率)RS-XX3-303H (10)-230
   (国土交通省、LCEMツールVer.3.03より作成)

本研究開発の内容

 このような既存の空調システムの課題を解決するシステムとして「サーマルグリッドシステム」を研究開発しました。
 この「サーマルグリッドシステム」は次の要素から構成されています。
①「サーマルルーター」
 複数ビル間の熱の融通ルートを各ビルの熱源や負荷の状況に応じて切替える。
②「サーマルセレクター」
 建物内カスケード利用(多段利用)のための冷温水ルートを切替える。
③「サーマルループ」
 複数ビル間で熱の融通を行う。
④「最適化制御システム※5
 サーマルルーターとサーマルセレクターによる温水ルート切替えの最適化制御システム

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           図3 サーマルグリッドシステムの構成図

 「サーマルグリッドシステム」により、図4のように複数建物間で冷温水を多段で利用するカスケード方式が可能となり、熱源機の負荷率の向上や搬送動力の低減が図れます。

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          図4 冷温水を多段で利用するカスケード方式

 「サーマルグリッドシステム」では冷温水ルートの切替えにより、水温の異なる冷温水が同一管路を連続的に流れます。この冷温水の流れの単位を「熱パケット」と呼んでいます。この「熱パケット」は複数ビル(熱源と負荷側機器(調和機)から構成される)間の熱の融通による取引単位となり、これは従来の地域熱供給事業にはない全く新しい概念です。
※5 大阪府立大学と共同で開発を進めている。

■「サーマルグリッドシステム」を構成する実証設備

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本研究により期待される効果

■CO2排出量の大幅な削減140812-zu6.jpg
 この「サーマルグリッドシステム」の実証試験設備によりCO2排出量の削減効果を検証します。なお、ATC、咲洲庁舎、コスモスクエア駅、インテックス大阪に導入し、約46%のCO2排出量の削減効果があると試算しています。
この「サーマルグリッドシステム」が普及することで、空調エネルギー消費量の削減によるランニングコストの削減、CO2排出量の削減が可能となります。また、複数建物の一部の熱源設備を高性能化するだけで良いため、更新費用を抑え「まち全体」の低炭素化が実現されるものと期待されます。

本事業の位置づけと背景

 大阪市は、臨海部に位置する咲洲地区において、エネルギーの有効利用と、エネルギー関連技術の開発による新産業の創出及び海外展開を目標とした「咲洲地区スマートコミュニティ実証事業計画」を平成23年度に策定後、本計画に基づき実証事業を進めています。この計画の中で本学は、熱のインフラ構築に関わる開発・実証を、平成24年度から実施してきました。東日本大震災以降、夏季の電力需給が逼迫し、その主因は空調利用であるため、空調用ピーク電力を減らす事が必要です。これまでは、空調設定温度を高めに設定し必要最小限の稼働にすること等で対応してきましたが、労働生産性の低下等の副作用も生じています。

本実証事業の社会的意義

 各地で電力主体のスマートグリッドの実証が行われていますが、熱のグリッド利用はなされておらず、社会導入が進んでいません。また熱利用をスマートグリッド化する試みは、世界的にも見当たりません。
 大阪市立大学ならびに大阪市は、国内他地域のスマートコミュニティ実証のようなメーカー主導のプロダクトアウト型の取組みとは異なり、課題解決のためのコミュニティデザインから取組み、大学主導の研究開発を産学官連携で実施してきました。また、産学官連携機関として大阪市立大学大学院工学研究科に「都市エネルギー研究開発センター」を創設しました。その結果、約3年という短期間で、高度な技術開発を社会実装できるレベルまで高め、事業化の実現見込みを得るに至っています。産学官一体となった咲洲地区スマートコミュニティ計画の独自性のある取組みにより、大学発の次世代型社会インフラシステムを実フィールドに構築する、初めての事例となります。

社会課題への貢献

  1. 冷暖房消費エネルギーを約4割低減:今回構築した実証対象部分で、新たなルーティング管路、制御を導入するだけで、快適な室内環境を維持した上で、既存の 熱源設備を活用したまま、負荷率が向上し搬送流量が減少します。さらに、地域内の高効率熱源機器を地域全体で利用する効果等もあわせて、建物、空調設備条 件により変わりますが冷暖房消費エネルギーを約4割低減できます。
  2. 新たな市場の創出:「サーマルグリッドシステム」の要素技術として開発中のスマートバルブや分散制御、軽量断熱配管等は、「サーマルグリッドシステム」以外にも展開可能であり、新たな市場の創出が見込まれます。
  3. 地域冷暖房事業との接続効果:国内で普及が進まない地域冷暖房事業とも接続が可能であり、導入によって地域冷暖房設備の低負荷時の低効率運転を回避できるため、事業の収益性を大幅に向上させることも可能となります。
  4. 災害に対する強靭さ(事業継続性):サーマルグリッドシステムが普及すると、熱源設備の故障時には近隣施設から重要施設への冷暖房優先供給が可能となり、災害に対する強靭さが高まります。

今後の展開

 本技術開発は、8月からの実証によりシステムの完成度を高めて参ります。海外の注目度も高く、本年1月にデンマークの産学官連携団体CCC(コペンハーゲンクリーンテッククラスター)が本学を訪問したことを契機に、DTU(デンマーク工科大学)と大学間連携を図っていきます。また、シンガポール経済団体の視察受け入れ(11月)も予定されています。
 連携している民間団体のSSCA(咲洲・アジア スマートコミュニティー協議会)は、実証成果を活用することにより、平成28年度にインテックス大阪で「サーマルグリッドシステム」の実用化と熱供給事業開始をめざしています。11月にはログスター社(デンマーク、熱導管メーカー)とSSCA参画企業の契約を基に、軽量断熱配管を共同研究することや、ドイツでの発表、シーメンス社との開発協議(9月)も予定しています。

【参考】
 大阪市環境局 報道発表資料