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熱愛中にドーパミン神経が活性化する脳領域を解明

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆5/18 日刊工業新聞、日経テレコン21※ 

 本学 健康科学イノベーションセンターの渡辺恭良 所長、医学研究科システム神経科学・脳神経外科学所属のメンバーおよび理研、ロンドン大学等による共同研究グループは、恋人の写真を見た時に活性化するドーパミン神経*1が、前頭葉の内側眼窩前頭野(ないそくがんかぜんとうや)*2および内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや)*3の2つの領域に局在し、特に内側眼窩前頭野のドーパミン神経がその時の気持ちの高まりの強さに関わっていることを、陽電子放射断層画像法(PET)*4を使って明らかにしました。

 熱愛中のカップルに恋人の写真を見せると、大脳の特定領域が活性化することが共同研究グループのロンドン大学 セミア・ゼキ教授らによる機能的MRI法(fMRI)*5を用いた先行研究で報告されています。また、一夫一婦制のモデル動物であるハタネズミを用いた実験からは、神経伝達物質ドーパミンがつがいを作る行動に重要な役割を果たすことが示されています。しかし、ヒトにおいてドーパミンと恋愛の関係を明らかにした研究はこれまでなく、恋をしているとき脳で何が起きているのかは解明されていませんでした。
 共同研究グループは、異性と熱愛中である10名を対象に、恋人の写真と、恋人と同性の友人の写真を見せた時の脳内のドーパミン放出の違いをPETで測定しました。その結果、恋人の写真を見た時には、大脳皮質の内側眼窩前頭野および内側前頭前野でドーパミン神経が活性化していることを明らかにしました。また、恋人の写真を見たときの気持ちの高まりの強さと内側眼窩前頭野でのドーパミン神経の活性化レベルは正の相関がありました。これは、主観的な恋愛感情と、客観的に測定可能なドーパミン神経の活動とが相関していることを示します。内側眼窩前頭野は報酬系*1に関わる領域であることから、ヒトの恋愛感情は報酬系と同じ神経基盤を共有している可能性を示唆します。

詳しくはプレスリリースをご覧ください。

※本研究成果はスイスのオンライン科学雑誌『Frontiers in Human Neuroscience』(4月9日付け)に掲載されました。
 http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnhum.2015.00191/abstract

補足説明

*1 ドーパミン神経、報酬系
中枢神経に存在する神経伝達物質の一つドーパミンを放出する神経細胞。ドーパミン受容体を持つ神経細胞に作用する。運動制御に関わるほか、欲求が満たされることや、他者にほめられることを行動・学習の動機につなげる報酬系に関わっている。

*2 内側眼窩前頭野(ないそくがんかぜんとうや)
前頭葉(大脳の前側領域)の中で、眼の裏側に位置する部分。

*3 内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや)
前頭葉の最前部(額の裏側)である前頭前野の中で、眼の上側に位置する部分。

*4 陽電子放射断層画像法(PET)
PETはPositron Emission Tomographyの略。陽電子を放出する放射性同位体を薬などの分子に組み込んで個体に投与し、体内で崩壊して放出されるγ線を測定してその分子の体内分布を見る方法。PETで投与する分子をPETプローブ、あるいはPET分子プローブと呼ぶ。

*5 機能的MRI法(fMRI)
MRI(磁気共鳴画像法)の一種で、脳内の酸素濃度に依存して変化する信号(BOLD信号)を捉え画像化することで、脳血流や脳神経活動の変化を同定する手法。1990年代初頭に日本の小川誠二博士がBOLD信号変化の現象を発見して以来、非侵襲的にヒトの脳機能を解明するツールとして利用が拡大した。