公立大学法人大阪市立大学
Facebook Twitter Instagram YouTube
パーソナルツール
新着情報

マイクロRNAを使った新しい肝線維化治療方法を開発


プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆8/2 共同通信47NEWS、朝日新聞デジタル
◆8/3 日本経済新聞
◆8/9 J-CASTヘルスケア
◆8/14 大阪日日新聞

概要

 医学研究科 肝胆膵病態内科学の伊丹 沙織(いたみ さおり)研究員、村上 善基(むらかみ よしき)准教授らのグループは、マイクロRNAと呼ばれる遺伝子を投与することで、慢性肝疾患の特徴である肝線維化の治療・予防を行う方法を開発しました。
 今までは、“肝線維化の原因となるウイルス性肝炎やアルコール性肝炎を治療することで間接的に肝線維化の改善を期待する”という方法しかなく、肝線維化を直接的に治療・予防する方法はありませんでした。
 本研究の成果は平成28年8月2日(火)午前9時(米国東部時間)、日本時間では同日午後22時に米国のオンライン科学誌Molecular Therapyに掲載されました。

【発表雑誌】
 
Molecular Therapy

【論文名】
 MiR-29a assists in preventing the activation of human stellate cells and
 promotes recovery from liver fibrosis in mice
 「マイクロRNA-29aは肝星細胞の活性化の抑制、治癒促進を助ける」

【著者】
 Yoshinari Matsumoto1,2,3,6, Saori Itami1,6, Masahiko Kuroda4,
 Katsutoshi Yoshizato5, Norifumi Kawada1, and Yoshiki Murakami1

 1. Department of Hepatology, Graduate School of Medicine, Osaka City University,
   Osaka 545-8585, Japan.
 
 2. Department of Medical Nutrition, Graduate School of Human Life Science,
   Osaka City University, Osaka 558-8585, Japan

 3. Current affiliation: Department of Nutrition Management, Osaka University Medical Hospital,
   Osaka 565-0871, Japan

 4. Department of Molecular Pathology, Tokyo Medical University, Tokyo 160-8402, Japan

 5. Phoenixbio Co. Ltd, Hiroshima 739-0046, Japan

 6. These authors contributed equally to this work.

【掲載URL】
 http://www.nature.com/mt/journal/vaop/ncurrent/abs/mt2016127a.html

研究の背景

 ヒトにはマイクロRNAと呼ばれる小さなRNAが約2800種存在しています。マイクロRNAは多くの遺伝子を調節することが知られており、マイクロRNAの増減と疾患との関連についての研究から、慢性肝疾患の増悪や改善にもマイクロRNAが関与することが示されてきました。そこで私たちは、肝線維化の重症度が上がるにつれて発現が減少する「マイクロRNA-29a」を補充することで、肝線維化が改善されることを突き止めました。また、あらかじめ「マイクロRNA-29a」を投与することで、肝線維化に関係する肝星細胞の活性化が抑制されることを示し、肝線維化の予防策として「マイクロRNA-29a」の利用価値が高いことを明らかにしました。

研究の内容

 肝線維化は慢性炎症の後に肝臓の組織に現れる変化で、線維化が増悪し肝機能が低下した状態が肝硬変です。肝硬変になると、肝機能の低下に伴い肝不全に至ることや、肝臓がんの発生率が高くなることが知られています。肝硬変は慢性肝疾患の終末像と言われており、日本における肝硬変患者数は約50万人、肝硬変が原因で死亡する人は年間約1.7万人と推定されています。
 肝硬変の主な原因はC型肝炎ウイルスの感染ですが、近年非常に奏功率の高い抗ウイルス薬が開発され、C型慢性肝炎が原因の肝硬変、肝がんへの進展は減ることが期待されています。しかし、これらの薬剤は状態の悪い肝硬変(非代償性肝硬変)患者では使用することが出来ません。また、B型慢性肝炎による肝線維化や最近増加傾向にある非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による肝線維化では、原因疾患を治療し線維化の改善を待つという間接的な治療方法しかありませんでした。
 今回の研究で行った、肝線維化の進行に伴って減少するマイクロRNA-29aを補充する肝線維化治療方法では、実験モデルマウスにおいて肝線維化の改善効果がみられました。細胞実験でもあらかじめマイクロRNA-29aを投与しておくと、TGF-βによる肝星細胞の活性化が抑制されることが分かりました。また、マイクロRNA-29aの投与によって肝細胞に炎症を起こすような急性毒性も見られませんでした。

160802-21.png
図 マイクロRNA-29aを投与したときのマウス肝組織の改善度

A. マイクロRNAの投与スケジュール
四塩化炭素を5週間投与して肝臓に炎症を起こし、肝線維化モデルマウスを作成する。
肝線維化を誘導したマウスに、マイクロRNAを2週間(週に2回)、静脈から投与する。
(「経過観察」、「溶媒のみ」、「機能しないマイクロRNA」、「マイクロRNA-29a」の4グループ)

B. マイクロRNA投与2週間後の肝生検組織像
上段はHE染色、下段は線維染色(シリウスレッド染色)。「経過観察」、「溶媒のみ」、「機能しないマイクロRNA」を投与した3グループでは、四塩化炭素投与によって 誘導された線維が残ったままである。(矢印:下段の赤色染色部分が線維を示す。)
「マイクロRNA-29a」を投与したグループでは他の3グループに比べ誘導された線維が減少している。 マイクロRNA-29aを投与したグループも、他のグループも急性毒性を示すような炎症細胞の増加は見られない。

C. シリウスレッドで染色された線維の面積を割合で示したもの。# P<0.05にて有意差を認める。
「マイクロRNA-29a投与」グループで有意に線維が減少している。

期待される効果

  1. 肝硬変に近い慢性肝炎患者に対し、マイクロRNA-29aを投与し肝硬変になることを予防し、発がんリスクを下げる。
  2. 重度肝硬変で従来の薬剤が使用出来ない患者に投与し肝線維化を改善させ、肝機能を改善させる。

今後の展開

 競争的研究費を獲得し平成30年度を目標に医師主導治験として、大阪市立大学医学部附属病院等で治療を行い、平成32年度に高度先進医療として認可されることを目指しています。