C型肝炎治療で皮膚病も良くなった!
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆1/15 Medical press
◆1/17 MPR
◆1/18 医療NEWS
◆1/31 Infectious Disease Advisor
◆2/7 Medical Tribune
概要
大阪市立大学大学院医学研究科 肝胆膵病態内科学の榎本 大(えのもと まさる)准教授らのグループは、C型慢性肝炎に対し直接作用型抗ウイルス剤で治療した症例で、合併していた慢性皮膚疾患である乾癬(かんせん)の症状までもが軽快したことを報告しました。
現在、C型肝炎ウイルスに感染している患者のうち、100%近くが直接作用型抗ウイルス剤の服用でウイルスを排除することが可能となっており、治療にはこれらの飲み薬を用いることが多くなっています。本症例では、C型肝炎の治療として直接作用型抗ウイルス剤を服用したところ、C型肝炎ウイルスの消失のみならず、それまで約10年間患っていた乾癬の症状の改善が見受けられました。今後多くの症例で効果を検証していきます。
本症例報告は1月16日(火)午前7時(日本時間)に『Annals of Internal Medicine』に掲載されました。
【発表雑誌】Annals of Internal Medicine
【論文名】Remission of Psoriasis after Treatment of Chronic Hepatitis C with Direct-Acting Antivirals
【著者】Masaru Enomoto, Chiharu Tateishi, Daisuke Tsuruta, Akihiro Tamori, Norifumi Kawada
【掲載URL】http://annals.org/aim/article/doi/10.7326/L17-0613
研究の背景
C型肝炎ウイルス感染者は日本で約150万人とされており、感染から10~20年以上を経て肝硬変や肝臓がんに進展することがあります。実際、日本の肝臓がんの原因の約65%をC型肝炎が占めているのが現状です。またC型肝炎ウイルスの肝外病変として、血液疾患、腎疾患、皮膚疾患などを引き起こす可能性があると知られています。
乾癬は慢性の皮膚疾患であり、日本での罹患率は約0.1%といわれています。主な症状は、赤い発疹とその上に鱗屑(りんせつ)と呼ばれる皮膚表面の角質細胞が剥がれ落ちた白い発疹の出現です。原因は明らかにされていませんが、何らかの免疫異常が関与すると考えられています。そのため乾癬の治療には、塗り薬や光線療法に加えて、重症例には免疫抑制療法が行なわれることがあります。
C型肝炎の治療には長年、インターフェロン※1が用いられてきました。しかしながら、インターフェロンは免疫を介して働くため、乾癬のような免疫異常が関与する疾患を悪化させる可能性があり、合併症を有するC型肝炎の治療は困難でした。一方、C型肝炎の患者に免疫抑制療法を行う場合は、ウイルスを再活性化させる可能性があるので注意が必要です。ところが平成26年からはインターフェロンを使わず、直接作用型抗ウイルス剤と呼ばれる飲み薬による治療で、100%近くの患者がC型肝炎ウイルスを排除できるようになりました。直接作用型抗ウイルス剤を用いた治療は副作用も少ないため、高齢者や合併症を有する患者へのC型肝炎の治療が容易になりました。
※1 インターフェロン…生体内で病原体(特にウイルス)や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌するサイトカインと呼ばれる蛋白質の一種。ウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、免疫系および炎症の調節などにはたらく。
研究の内容
報告した症例対象は10年以上前から乾癬を患っている80代男性です。平成27年から本学医学部附属病院皮膚科にて塗り薬の治療と週1回の光線療法を継続していましたが、改善はみられませんでした。乾癬だけでなく、C型肝炎も患っていたことから、12週間の直接作用型抗ウイルス剤の治療を行いました。すると速やかにウイルス量は低下し、その結果、肝機能が改善し、治療終了後もウイルスは再燃せず完全排除が確認されました。加えて乾癬の皮膚病変も著明に改善し、塗り薬の必要量の激減および光線療法の中止が可能となり、患者のQOL向上にも大きく寄与しました。以前より、乾癬患者にはC型肝炎ウイルス感染率が高いことから、乾癬の発症または悪化にC型肝炎が関与する可能性は指摘されていましたが、実際に直接作用型抗ウイルス剤でC型肝炎ウイルスを排除した結果、乾癬の症状が軽快した報告は世界で初めてです。
今後の展開について
本学医学部附属病院には、毎年100名以上の新規乾癬患者が紹介されます。今後の展開として、以下の研究に取り組むことでC型肝炎と乾癬または類似の免疫疾患の関係性の解明を進めたいと考えています。
1)日本の乾癬患者におけるC型肝炎ウイルス感染率を明らかにする。
2) 乾癬を合併したC型肝炎患者に対して、直接作用型抗ウイルス剤を用いてウイルスを排除することで、どれくらいの確率で乾癬が軽快するのかを明らかにする。
3) 直接作用型抗ウイルス剤によるC型肝炎治療の前後で、乾癬の発症に関与すると考えられる免疫マーカー※2がどのように変化するか明らかにする。
※2 免疫マーカー…乾癬の発症には、TNF-α, IFN-γ, IL-12/23, IL-17などのサイトカインと呼ばれる蛋白質が関与すると考えられている。