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有機×無機の新視点! 卵由来のタンパク質と光エネルギーを利用した高効率な水素製造に成功!

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ポイント

・安価で入手しやすい鶏卵由来のリゾチーム結晶と、無尽蔵の光エネルギーを使って水素が製造できる光触媒システムを構築!
・高効率で水素を製造!(水素の収率76%→85%)
・リゾチーム結晶の内部間隙に機能性分子とナノ粒子を集積化することで、合理的な触媒システムの設計が可能に!

概要

 大阪市立大学 大学院工学研究科の山田 裕介教授、田部 博康特任助教らの研究グループは、東京工業大学 生命理工学院の上野 隆史教授、安部 聡助教らの研究グループと共同で、ナノサイズの細孔をもつタンパク質(多孔性タンパク質結晶)の内部に、太陽光エネルギーを吸収する光増感剤分子と水素発生反応に対し触媒活性をもつ金属微粒子を近接させ集積化することで、光エネルギーを利用して水素製造ができるシステムの構築に成功しました。この成果を利用することで、従来の光触媒系に比べて高い効率での光エネルギーの有効利用が可能になると期待されます。
 本研究成果は、2018年2月2日(金)に国際学術誌『Applied Catalysis B: Environmental』の電子版に掲載されました。

雑誌名:Applied Catalysis B: Environmental
論文名:“Photocatalytic hydrogen evolution systems constructed in cross-linked porous protein crystals”
(架橋化多孔性タンパク質結晶を利用した水素製造光触媒システムの構築)
著 者: H. Tabe, H. Takahashi, T. Shimoi, S. Abe, T. Ueno, Y. Yamada
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926337318300626

研究の背景

 現在、石油や天然ガスといった化石燃料由来の枯渇性の物質がエネルギー源として世界中で利用されていますが、将来的には水素を燃料として利用することが期待されています。水素はエネルギー効率が高く、利用時にCO2などの温室効果ガスを排出しない特徴を有しています。このことから、水素は究極のクリーンエネルギーと期待されており、既に燃料電池や水素蓄電装置の研究開発、燃料電池車や水素ステーションの実証実験が世界各国で進められています。
 しかしながら、現在、世界中で利用されている水素の大部分は、化石燃料から製造されており、製造段階で二酸化炭素が発生していること、また外部から多くのエネルギーを供給しなければならないという問題があります。
 そこで注目されているのが、太陽光などの自然エネルギーを用いて水から水素を製造する方法です。太陽光は地球上のあらゆる場所に到達し、枯渇の心配もありません。太陽光を利用した水素製造のためには、水素製造光触媒システムの開発が重要です。水素製造光触媒システムは、光のエネルギーを吸収する化合物(光増感剤)と、得られたエネルギーから水素を合成する触媒を組み合わせることで得られます。

研究の内容

 大阪市立大学 大学院工学研究科の山田 裕介教授らは、以前に、シリカ-アルミナとよばれる無機物の多孔性材料(分子が入る小さな穴が無数に空いた材料)に光増感剤、そして触媒本体となる金属微粒子を同時に固定することで、水素製造光触媒システムの構築に成功していました(参考文献1)。
 一方、自然界では生物の体の大部分は有機物であるタンパク質によって構成されています。このタンパク質には、さまざまな化合物と選択的に相互作用できる複数種類の官能基※1が含まれています。この選択的な相互作用を利用すれば、無機物を担体※2とする場合よりもより精密に、異なる機能を持つ機能性分子や粒子を反応に適した形で配置することができます。
 今回、鶏卵から安価かつ大量に得られるリゾチームと呼ばれるタンパク質の結晶を利用し、光エネルギーを蓄えることができる分子(光増感剤)と、水素イオン(H+)に電子を与えて水素を作り出す触媒を組み合わせて水素製造光触媒システムを構築しました。リゾチームの結晶は、その内部に無数のナノメートルレベルの大きさの細孔を有する多孔性タンパク質結晶であることが知られています(参考文献2)。
この結晶に、隣り合うタンパク質同士をつなぐ架橋化とよばれる処理を施すと、多孔性結晶としての安定性を向上させることができます。この架橋化処理をしたリゾチーム結晶の内部に、光増感剤である“ローズベンガル”と水素発生触媒である“白金ナノ粒子”を固定して光触媒システムを構築しました。この触媒システムの原子レベルでの構造を単結晶X線構造解析で調べたところ、ローズベンガルと白金ナノ粒子が近接して固定化されていることを示す結果が得られました(図)。
 さらに、電子源を含む水中で、この光触媒システムに可視光を照射したところ、水素が発生することが確認できました。電子源として“NADH”と呼ばれる天然補酵素を用いた場合、水素の収率※3は85%になり、当研究グループが無機物を用いて報告した値(76%)と比較して高い効率で水素を製造できることが分かりました。また、触媒の性能を示す触媒回転頻度(TOF)も、従来の約3倍に向上しました。

官能基※1:有機化合物の性質を決める特定の原子の集まり
担体※2:触媒の微粒子などを固定する土台となる物質
収率※3:化学的手法によって目的の物質を取り出す過程において、理論上得ることが可能なその物質の最大量に対する実際に得られた物質の量の比率。

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多孔性タンパク質結晶を利用した水素製造反応のしくみ。

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単結晶X線構造解析で調べた触媒システムの原子レベルでの構造。

本研究成果の意義

 本研究では、天然に存在するタンパク質を有機多孔性材料として用いて、機能性分子とナノ粒子を同時に集積化し、水素製造光触媒システムを高効率化する技術を開発しました。また、原子レベルでの構造観察の結果から、高効率化した理由も突き止めることができました。
 今後、それぞれの化学反応の素反応過程に適した機能性分子や材料を任意の位置に配置できるタンパク質結晶を担体として利用することで、さまざまな用途に応じた触媒システムを合理的に設計できるようになり、持続発展可能な社会の実現に繋がることが期待されます。

共同研究、資金等

本研究は東京工業大学との共同研究で、下記の資金援助を得て実施されました。
 公益信託ENEOS水素基金「メソ結晶内部の隣接間隙を利用した複合型光水素発生触媒」(研究代表者:山田 裕介)

参考文献

1. “Nanofabrication of a solid-state, mesoporous nanoparticle composite for efficient photocatalytic hydrogen generation”, Y. Yamada, H. Tadokoro, M. Naqshbandi, J. Canning, M. J. Crossley, T. Suenobu, S. Fukuzumi, ChemPlusChem (2016) 81, 521–525.
2. “Porous protein crystals as catalytic vessels for organometallic complexes”, H. Tabe, S. Abe, T. Hikage, S. Kitagawa, T. Ueno, Chem. Asian. J. (2014) 9, 1373.