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年齢・握力・ふくらはぎの太さから 腎臓病患者の心臓血管病リスクを推測 ―筋肉量の減少を予測する「サルコペニアスコア」を腎臓病患者に応用―

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概要

 熊本大学医学部附属病院 循環器内科 辻田賢一 教授、熊本大学医学部附属病院 循環器内科 花谷信介 特任助教(平成30年4月より天草地域医療センター 循環器内科 副部長)、熊本大学医学部附属病院 循環器内科 泉家康宏 講師(平成30年4月より大阪市立大学大学院医学研究科 循環器内科学 准教授)らの研究グループは、筋肉量の減少(サルコペニア)を診断する簡単な検査を応用することで、慢性腎臓病患者の将来の心臓血管病発症リスクを予測できることを明らかにしました。

 骨格筋の量が減少し、同時に筋力が低下する病態であるサルコペニアは、腎臓病患者に多く合併し、腎臓病患者の死亡率を上昇させることが知られています。これまで、サルコペニアの診断にはCTやMRIといった大型の検査機器を用いた正確な骨格筋重量の測定が推奨されていたことから、日常診療でサルコペニアの合併を発見すること(スクリーニング)は困難でした。しかし近年、年齢・握力・下腿(ふくらはぎ)周囲径という簡単に測定可能な3つの指標を用いたサルコペニアスクリーニング法の有用性が報告されています。本研究ではこのスクリーニング法を応用することで、慢性腎臓病患者の心臓血管病発症リスク評価が可能となることを明らかにしました。高齢化社会に伴い腎臓病や心臓血管病の患者数は増加しており、今後このスクリーニング法を用いたリスク評価は、心臓血管病の領域のみならず幅広い分野で普及していくことが期待されます。本研究成果は「International Journal of Cardiology」オンライン版に平成30年4月10日(火)米国東部時間 に掲載されました。

資金情報

 本研究は熊本大学医学部附属病院 循環器内科 花谷信介 特任助教、泉家康宏 講師らが、主に文部科学省科学研究費の支援を受けて行いました。

掲載誌情報

【タイトル】Non-invasive Testing for Sarcopenia Predicts Future Cardiovascular Events in Patients with Chronic Kidney Disease
【著者名】 Shinsuke Hanatani, Yasuhiro Izumiya*, Yoshiro Onoue, Tomoko Tanaka, Masahiro Yamamoto, Toshifumi Ishida, Satoru Yamamura, Yuichi Kimura, Satoshi Araki, Yuichiro Arima, Taishi Nakamura, Koichiro Fujisue, Seiji Takashio, Daisuke Sueta, Kenji Sakamoto, Eiichiro Yamamoto, Sunao Kojima, Koichi Kaikita, Kenichi Tsujita *責任著者

【掲載雑誌】International Journal of Cardiology
【DOI】10.1016/j.ijcard.2018.03.064
【掲載URL】http://www.internationaljournalofcardiology.com/article/S0167-5273(17)36483-5/fulltext

【掲載雑誌】Journal of the American College of Cardiology
【DOI】10.1016/S0735-1097(18)32412-4
【掲載URL】http://www.onlinejacc.org/content/71/11_Supplement/A1871

概要説明

・  サルコペニアとは筋肉量の減少と筋力の低下を起こす状態であり、心臓疾患や腎疾患、およびがんの患者の病気の経過が悪くなってしまう事が知られています。私たちの研究グループはこれまで、骨格筋の重量を増やすことによって心筋梗塞※1や腎臓病の影響を減少させるような効果がある事を報告しています。

・  サルコペニアの正確な診断にはCTやMRI検査による筋肉量測定が必要であり、日常診療での評価は困難でした。しかし近年、年齢・握力・ふくらはぎの周囲径から算出されるサルコペニアスコアを用いたサルコペニアスクリーニング法が報告されました。以前、私たちの研究グループは、心不全※2の患者を対象とした臨床研究で、サルコペニアスコアが心不全の重症度と相関することや、サルコペニアスコアの高い心不全患者は心不全での再入院や心不全による死亡が多いことを報告しています。

・  今回、私たちは慢性腎臓病の患者においてもサルコペニアスコアが心不全の重症度を反映する様々な指標と有意に相関することや、さらにサルコペニアスコアが高いと死亡率や心不全や心筋梗塞が発症する確立が高くなることを明らかにしました。

・  今回の結果は、サルコペニアスクリーニング法が心臓血管病を起こす可能性の高い慢性腎臓病患者のリスク層別化※3に有効であることを示すものであり、また今回用いたサルコペニアスクリーニング法は計算が簡便であることから日常診療にも活用できることが期待されます。

※1: 心筋梗塞:心臓に栄養を送る血管(冠動脈)が閉塞する病気。心臓の筋肉(心筋)に栄養を送っている冠動脈が閉塞するため、心筋細胞が時間とともに壊死していきます。
※2: 心不全:心臓は全身の血液を循環させるポンプ機能の役割を持っています。何らかの原因で心臓の働きが悪くなると、様々な臓器で血行不良、酸素不足が発生し、息切れや足のむくみなどの症状が現れます。そういった状態を心不全といいます。
※3: リスク層別化:同じ病気であっても、その程度は人によって様々です。状態によっては近い将来に入院が必要になったり、特別な治療を要する事があります。同じ病気の患者さんの中でのこのような状態が起こる危険性の違いを分類することを、リスク層別化といいます。

説明

 人間は年齢と共に筋肉量が減少して、筋力が弱っていきますが、この減少の程度には個人差があります。この筋肉量と筋力の減少が特に大きい状態を“サルコペニア”と呼びます。がんや心臓病、腎臓病などの患者にサルコペニアが合併すると病気の経過が悪くなる事が知られており、近年非常に注目されている病態です。なぜサルコペニアが体に悪いのか、その理由の全ては解明されてはいませんが、骨格筋には運動器官としての役割以外に、心臓などの臓器へ良い働きをもたらす物質を分泌する内分泌器官としての役割がある事が一つの理由と考えられます。実際、私たちの研究グループは実験動物を用いた研究で、骨格筋の重量を増やすことで心筋梗塞や腎臓病による臓器のダメージを減少させるような保護効果がある事を報告しています (Izumiya et al. Cell Metab. 2008、Araki et al. Circ Heart Fail. 2012、Hanatani et al. J Am Soc Nephrol. 2014.) 。

 このようにサルコペニアは、高齢の患者では特に注意すべき病態なのですが、これまでサルコペニアの精密な診断にはCTスキャンやMRI検査などによる筋肉量の測定が必要でした。これらの機器は全ての医療機関に設置されているわけではありませんし、筋肉量を測るためだけにCTスキャンやMRI検査などを測定していくのも検査の煩雑さやコストの面から現実的ではないため、サルコペニアを日常診療の中で評価していく事の難しさがありました。

 しかしながら、近年、新たなサルコペニアスクリーニング法が東京大学の石井らによって報告されました(Ishii et al. Geriatr Gerontol Int. 2014)。これは年齢と握力、ふくらはぎの周囲径からサルコペニアスコアという数値を算出する方法で、このスコアが高ければ高いほどサルコペニアの可能性が高くなります。この方法であれば、特別な機械も必要ありませんし、測定に時間もかかりませんので、日常診療の中でも活用できます。以前私たちは心臓病の患者にもこのスクリーニング法を応用することで、心不全の重症度や将来の心不全悪化の危険性を簡単に評価出来ることを明らかにし、その結果を報告しています(Onoue et al. Int J Cardiol. 2016)。

 心不全を含む心臓血管病は腎臓病患者にも多く合併し、特に慢性の維持透析患者では心不全が死亡原因の第一位となっており、腎臓病患者における心臓血管病の発症リスクを評価することも非常に重要と考えられます。そこで私たちは、心不全患者と同様にこのサルコペニアスクリーニング法を慢性腎臓病患者にも応用することを考えました。

 熊本大学医学部附属病院循環器内科に心臓血管病の評価や治療のために入院された慢性腎臓病の患者265名を対象として研究を行いました。退院前に測定した握力やふくらはぎの周囲径のデータをもとにサルコペニアスコアを算出し、個々の患者のサルコペニアスコアと、血液検査・心臓超音波検査などの検査結果やその後の病気の経過などとの関連性を、約650日間にわたって調べました。その結果、サルコペニアスコアが高ければ高いほど、血液検査でのBNPという心臓の疲れ具合を表す値が高く、またクレアチニンという腎臓のダメージを表す数値も高い事が分かりました。さらに、それぞれの患者の病気の経過を調べてみると、驚くべきことにその後の死亡率や心筋梗塞、心不全、脳卒中などの心臓血管病の発症率が、サルコペニアスコアが高い患者達において明らかに高い事が分かりました。前述のBNPという検査は将来の死亡率や心不全悪化の危険性評価に有効であることが分かっていますが、今回の研究ではこのBNPにサルコペニアスコアを組み合わせることで更に予測能力が向上する事も明らかになり、サルコペニアスクリーニング法の有効性が証明されました。

 本研究により得られた結果から、サルコペニアスクリーニング法は慢性腎臓病患者のリスク層別化において有用な評価法と考えられます。特にこのサルコペニアスクリーニング法は非常に簡単な測定方法であるので、どのような医療機関でも日常診療の中で有効活用される事が期待されます。

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