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検査の有無で治療法の選択肢が変わる?表面型大腸腫瘍の術前生検は内視鏡治療に悪影響

本研究のポイント

・表面型大腸腫瘍患者が診断目的の術前生検を受けると、粘膜下層に内視鏡的粘膜切除術(EMR)を困難にする高度線維化が生じやすくなることが初めて証明されました。
・生検を受けた病変の治療には、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が有効で、ESDは生検の影響を受けないことがわかりました。

概要

181031-2-1.png 大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学 福永 周生(ふくなが しゅうせい)病院講師、永見康明(ながみ やすあき)講師らの研究グループは、表面型大腸腫瘍に診断目的の術前生検を行うことによって粘膜下層に高度の線維化が起きやすくなることを初めて証明しました。
 表面型大腸腫瘍の内視鏡治療には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類がありますが、生検後はEMRが困難になるため、診断目的の術前生検を避けて治療方針を決定することが望まれます。
 一方で、生検が行われてもESDによる治療には悪影響がないことも明らかになりました。
本研究成果は、9月8日に、国際学術誌Gastrointestinal Endoscopyにオンライン掲載されました。

【雑誌名】Gastrointestinal Endoscopy(IF7.204)
【論文名】Impact of preoperative biopsy on severe submucosal fibrosis on endoscopic submucosal dissection for colorectal laterally spreading tumors: a propensity score analysis (大腸側方発育型腫瘍の内視鏡的粘膜下層剥離術における粘膜下層高度線維化に対する術前生検の効果:傾向スコア分析を用いて)
【著者】Shusei Fukunaga, Yasuaki Nagami, Masatsugu Shiba, Taishi Sakai, Hirotsugu Maruyama, Masaki Ominami, Koji Otani, Shuhei Hosomi, Fumio Tanaka, Koichi Taira, Tetsuya Tanigawa, Hirokazu Yamagami, Toshio Watanabe, Yasuhiro Fujiwara
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.gie.2018.08.051

研究の背景

 大腸がんは我が国のがん死亡数において女性の第1位で、罹患数においても男女計の1位を占めており、大腸がんの克服はまさに国民的課題といえます。大腸がんはそのほとんどが腺腫などのポリープから発生しますが、ポリープを摘除することで大腸がんによる死亡を減らせることが判明しています。
 腺腫や早期がん(あわせて大腸腫瘍といいます)の多くは、金属のスネアという輪をかけて縛って切り取る内視鏡的ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術(EMR)で摘除できます(図1)。ただし、平たい形をした表面型大腸腫瘍で一括切除が必要と判断され、かつEMRでは対応不可能な場合は、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で対応します。ESDは高周波ナイフという電気メスを用いた治療法で、理論上大きさに関わらず一括切除が可能である優れた方法(図2)ですが、EMRと比べて医療費が高く、高度な技術が必要とされること、穿孔のリスクが比較的高いことから対応可能な病院が限られています。よってEMRで対応可能な病変はEMRを行う必要があります。
【図1】内視鏡的粘膜切除術(EMR)
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【図2】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
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NPO法人キャンサーネットジャパン「もっと知ってほしい大腸がんのこと」から引用
(http://www.cancernet.jp/upload/w_daicyou170222.pdf)

 しかし、表面型大腸腫瘍では、初回の下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)で発見された際に診断目的の生検を行うと、EMR時の局注で病変が持ち上がらなくなり(これをnon-lifting signといいう)、EMRが困難となります。よって、日本消化器内視鏡学会の大腸ESD/EMRガイドラインでは、診断目的の生検はしないことが望ましいとされています。Non-lifting signは、腫瘍直下の粘膜下層の線維化が原因と言われていますが、その詳細についてはわかっていませんでした。
 本研究では、表面型大腸腫瘍の代表である側方発育型腫瘍(LST)を対象とし、生検を受けた患者は受けていない患者より粘膜下層の高度な線維化が多いのではないかという仮説を立て、生検群と未生検群とで粘膜下層の高度線維化の有無を比較検討しました(図3)。
 また、生検がESDに与える影響がこれまで明らかでなかったため、生検の有無がESDの治療成績にどの程度影響するか検証することも本研究の目的としました。
【図3】ESD中に視認される粘膜下層の高度線維化
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研究内容

 2005年から2015 年の間に本学医学部附属病院でESDを受けたLSTのうち、術前生検を受けた患者136人と受けていない患者259人を対象とし、粘膜下層の高度線維化率や治療成績の比較を行いました。ESD中に確認できた粘膜下層の高度線維化率は、生検群が20.6%、未生検群が13.9%であり、統計学的な有意差を認めませんでした。しかし、患者背景を揃えて解析する方法を用いると、高度線維化率は生検群が20.6%、未生検群が11.0%となり、生検群の高度線維化率が有意に高い結果でした。(図4)
 さらに、生検は高度線維化に対する有意な危険因子であることがわかり、患者背景を揃えた別の解析方法においても同様の結果を得ました。(図5)
 一方、両群の実際の治療成績(治療時間、一括切除率、合併症など)においては差を認めませんでした(図6)。


【図4】傾向スコアマッチング法前後の生検群と未生検群の高度線維化率
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※傾向スコアマッチング法
 2群間の割り当てに影響する種々の交絡因子を多変量解析して算出した、割り当ての確率となる傾向スコアを用いる方法のひとつ。2群間で傾向スコアの点数が近い患者同士をマッチングすることで、背景因子を類似させて2群を比較する方法(疑似ランダム化)のこと。

【図5】高度線維化に対する生検の危険度
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※IPTW法
傾向スコアの逆数の値を用いて患者の予後に与える影響度に重み付けし、症例数を減らさずに解析を行う方法のこと。

【図6】生検群と未生検群の治療成績181031-2-7.jpg

期待される効果

 表面型大腸腫瘍に対する生検は高度線維化の原因となり得ることが判明し、大腸ESD/EMRガイドラインのコメントを支持する根拠が得られました。さらに、生検群と未生検群でESDの治療成績に差がなかったことから、なんらかの理由でやむを得ず生検を受けた患者においては、ESDが第一選択となる根拠の一つになると思われます。よって、生検を受けた場合は、ESDが可能な施設で治療を受けることが推奨されます。

今後の展開について

 EMRの可能な表面型大腸腫瘍には生検を控えるべきであり、生検を受けた病変はESDが第一選択となりうるため、今後の治療ガイドライン改定に寄与しうると考えています。