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重い合併症がある早期胃がん患者は、内視鏡で治療しても予後が悪い傾向があると判明

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本研究のポイント

◇早期胃がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)注1)を受けた患者のうち、重い合併症がある患者は、重い合併症がない患者と比べて予後が悪いことが明らかに。
◇年齢や性別などの背景をそろえた信頼性の高いデータを解析。

概要

 大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学 後期研究医の田上光治郎医師、福永周生病院講師、永見康明講師らの研究グループは、早期胃がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)注1)を実施した重い合併症がある患者と重い合併症がない患者の予後を比較して、重い合併症がある患者は予後が悪いことを証明しました。また、本研究では重い合併症が予後を悪くする要因であることも証明しました。本研究成果は、2018年10月31日付で『Gastric Cancer』にオンライン掲載(校正前)されました。
注1) ESD…高周波ナイフ(電気メス)を用いてがんの周りの粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して切除する方法

■掲載誌情報
発表雑誌:Gastric Cancer(IF=5.045)
論文名:Long-term outcome of endoscopic submucosal dissection for early gastric cancer in patients with severe comorbidities: A comparative propensity score analysis
著者:Kojiro Tanoue1, Shusei Fukunaga1, Yasuaki Nagami1, Taishi Sakai1, Hirotsugu Maruyama1, Masaki Ominami1, Koji Otani1, Shuhei Hosomi1, Fumio Tanaka1, Koichi Taira1, Noriko Kamata1, Hirokazu Yamagami1, Tetsuya Tanigawa1, Masatsugu Shiba1,2, Toshio Watanabe1, Yasuhiro Fujiwara1
1)大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学、2)同 医療統計学
掲載URL:http://link.springer.com/article/10.1007/s10120-018-0889-8

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田上 光治郎医師

👉研究者からのひとこと
 早期胃がんのESDは外科手術より負担が少ないとされていますが、重い合併症がある患者さんでもESDを受けることで長生きできるかどうかについては良くわかっていませんでした。本研究により、重い合併症がある患者さんの予後が明らかになり、ESDを行う場合でも慎重に適応を検討する必要があることが示されました。

研究の背景

 近年、内視鏡治療の一つである内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)(図1)は、早期胃がんに対する治療として広く受け入れられています。ESDは外科手術より負担の少ない治療であるため、重い合併症がある早期胃がん患者に対しても行われています。

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図1 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

NPO法人キャンサーネットジャパン「もっと知ってほしい胃がんのこと」から引用
(http://www.cancernet.jp/upload/w_igan20161019.pdf) 

 外科手術前の全身状態を評価する基準として、米国麻酔学会術前状態分類(ASA-PS分類)(図2)があります。過去の報告では、ASA-PSのclassが高いほど、外科手術の合併症のみならず術後の死亡が増加することが報告されており、ASA-PS 3に相当する患者では外科手術の長期予後が悪いことが明らかにされています。

分類定義具体例
class 1 健康な患者 健康、非喫煙、少量のアルコール摂取、他
class 2 軽度な全身疾患がある患者 コントロール良好な高血圧症、糖尿病、他
class 3 高度な全身疾患がある患者 脳梗塞後、狭心症後、肝硬変、維持透析、他
class 4 生命を脅かす重篤な全身疾患がある患者 最近の脳梗塞・心筋梗塞、重症心不全、敗血症、他
class 5 手術なしでは生存不可能な瀕死の患者 胸腹部大動脈破裂、重症外傷、多臓器不全、他
class 6 脳死状態の患者

図2 米国麻酔学会術前状態分類 (ASA-PS分類)
American Society of Anesthesiologists. ASA physical status classification systemから引用

(https://www.asahq.org/standards-and-guidelines/asa-physical-status-classification-system)

 早期胃がんのESDにおいては、ASA-PS3に相当する患者とASA-PS 1または2に相当する患者では、短期の治療成績に差がなかったという報告がでています。しかし長期予後においては、はっきりした結論が出ておらず、85歳以上のASA-PS 2と3の患者で長期予後に差がなかったという報告と、年齢に関係なくASA-PS3に相当する患者は予後が悪かったという報告のみです。さらに、これらの報告は無作為化されていない後向き研究注2)で、患者の背景が調整されていませんでした。
 そこで田上医師らの研究グループは、患者の背景を調整する目的で傾向スコアマッチ法と、inverse probability of treatment weighting(IPTW)法という2つの統計学的方法を用いて、ASA-PS 3群とASA-PS 1・2群の長期予後を比較検討し、ASA-PS 3群の予後が有意に悪いという仮説を検証しました。さらに死亡に関係する要因の検討も行いました。
注2) 後向き研究…過去に起こった現象をさかのぼって調査する研究のこと。一方で、研究を開始してから生じる現象を収集、調査する研究を前向き研究という。

研究内容

 2004年2月から2013年6月の間に本学医学部附属病院でESDを受けた1081人のうち、胃がん治療ガイドライン2014年版における内視鏡治療適応および適応拡大病変に相当する早期胃がん患者を対象にしました。一定の基準を満たすASA-PS 3群とASA-PS 1・2群はそれぞれ113人、375人でした。傾向スコアマッチ法にて患者の背景を調整して89人ずつ二つのグループを作成し、統計解析しました。両群ともに胃がんが原因で死亡した患者はおらず、胃がん以外の原因で死亡した患者が、それぞれASA-PS 3群で29人、ASA-PS 1・2群で15人でした。5年生存率はASA-PS 3群が79.1%、ASA-PS 1・2群が87.7%であり、ASA-PS 3群の予後は有意に悪い結果でした(図3)。さらにASA-PS 3が有意に予後を悪化させる要因であることが判明し、IPTW法でも同様の結果となりました(図4, 5)。

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図3 全生存率

 

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図4 死亡に対する危険因子

 

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図5 死亡に対するASA-PS 3の危険度

期待される効果

 本研究は重い合併症がある患者と重い合併症がない患者を、擬似的に無作為化する方法を用いて背景を調整し、その長期予後を比較しているため、過去の報告より信頼性の高い結果といえます。近年早期胃がんに対するESDは外科手術よりも負担が少ないことで注目されていますが、重い合併症がある場合は、慎重にその適応を検討する必要があることが示されました。一方、田上医師らの研究グループは、先行研究にて、ESDは外科手術よりも長期予後が良いことを報告しており1)、過去に報告された無治療のまま経過観察を行った患者の予後の報告2)より良好と思われることから、重い合併症がある患者でもESDは選択肢の一つとなる可能性があると考えられました。

1) Fukunaga S, Nagami Y, Shiba M, Ominami M, Tanigawa T, Yamagami H, et al. Long-term prognosis of expanded-indication differentiated-type early gastric cancer treated with endoscopic submucosal dissection or surgery using propensity score analysis. Gastrointest Endosc. 2017;85:143-52.
2) Tsukuma H, Oshima A, Narahara H, Morii T. Natural history of early gastric cancer: a non-concurrent, long term, follow up study. Gut. 2000;47:618-21.

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