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魚類もヒトのように顔を見ている? ~魚類で見られた顔認識の「倒立効果」〜

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆1/8 NHK「ニュースほっと関西」
◆1/9 産経新聞 夕刊

概要

 ヒトやチンパンジー、そしてサルの仲間は相手の顔を見て誰なのかを認識しています。その際、顔の素早い認識に特化した「顔神経」が働くことが知られています。顔神経を持つ動物では、顔を上下逆さに提示すると顔を見分ける能力が低下する心理学的現象「顔認識の倒立効果」が起こります。
 大阪市立大学大学院理学研究科の幸田正典教授の研究グループは、顔で個体認識する魚類にもこの「倒立効果」があることを世界で初めて確認しました。今回の発見は、魚類にも顔神経があること、あるいは顔神経が脊椎動物の進化の初期段階から発達していた可能性を示唆しています。
 本内容は、2019年1月2日に米国の動物認知の専門雑誌『Animal Cognition』のオンライン版に掲載されました。

雑誌名:Animal Cognition
論文名:Does a cichlid fish process face holistically? Evidence of the face inversion effect.
著 者: Kawasaka Kento, HottaTakasi, Kohda Masanori
掲載URL:https://doi.org/10.1007/s10071-018-01231-4

 

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幸田正典教授

 

★研究者からの一言★
 社会性の高い魚類プルチャーも、顔の模様で相手を識別します。本研究は本種が顔認識する際、どうやら「顔神経」を使っている可能性を示唆しています。これにより0.4秒という素早さでの判定ができているのかもしれません。ヒトで発達している「顔神経」の基本型は、4億年前の魚類の段階ですでに進化していたのかもしれません。

本研究の概略

 

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図1 トップのモデルのチンパンジーは、
中段の正立の場合は他個体との識別は
簡単だが、下段の倒立になると
他個体との識別がしにくくなる

 

 出会った相手が誰かをすぐに識別することは、ヒトだけでなく社会生活をおくる動物にとっても重要です。相手個体が誰かを顔模様で認識する小型のカワスズメ科魚類プルチャーは社会性が発達しており、相手をなんと0.4秒という素早さで識別できます。ヒトの場合も相手の顔に基づいて0.45秒という早さで識別でき、魚とヒトの顔の識別能力は意外と似ています。
 ヒトでは、素早く顔認識ができるように顔の認識だけに特化した「顔神経」と呼ばれる神経回路が発達しています。このおかげで顔の素早い認識が可能となり、もしこの顔神経が使えなくなると顔の認識は遅くなります。例えば、ヒトでは知り合いの顔写真を見せるとすぐに誰かがわかりますが、これを逆さに提示するとわかるまでに時間がかかります。しかし、顔以外のものを逆さにしても認識の遅れはさほどありません。つまり顔認識の場合だけ時間がかかっており、この効果は「顔認識の倒立効果」と呼ばれています。
 これまでの脳神経研究から、アカゲザル、チンパンジー、ヒツジなどの顔認識の倒立効果が知られる動物で、顔神経の存在が知られています。実際に我々でも、チンパンジーの写真もひっくり返すと違いを認識するのに時間がかかります(図1)。
 我々は、プルチャーが素早く顔認識できることについて、「顔神経が関与しているからではないか?それなら魚にも顔認識の倒立効果があるのではないか」との仮説を立て、この効果の検証実験を行いました。

実験の方法

 プルチャーは親しい個体と知らない個体を顔の違いからすぐに見分けます(図2a)。一方、知らない個体に対しては胴体や尾部ではなく顔を頻繁に見ます(図2b)。
まず初めに、実験対象個体に個体Aの顔を見せて親しい顔にします。第2段階では「親しい個体Aの顔」を「知らない個体Bの顔」と同時に見せ、実験区に入ってきた実験魚がAかBのどちらを先に、そして頻繁に見るのかを調べます。さらに、それを倒立させた場合も見せ、注視する頻度を調べます(図3)。
 続いて、顔以外の「もの」(本実験では水槽内の見慣れたものでプルチャーの顔を模造)を見せて、実験魚が注視する頻度を比較します。ここでも知らないものを頻繁に見る習性があります。同じ写真を何度も見せて写真に慣れさせた後、やや異なるものと同時に見せ、どちらをよく見たかを調べます(図3)。次に、逆さにしたものも見せます。もし仮説通りであれば、顔を倒立させたときには区別が付けにくくなり、両方の顔を同じように注視するはずですが、ものではそのようなことは起こらないと予想されます。
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実験の結果

 実験の結果(図4)、正立では知らない顔を頻繁に見ますが、倒立で顔を見せた場合には「親しい顔」と「知らない顔」も同じくらいの頻度で見ています。これに対して、水槽内のもので構成した「もの」は正立でも倒立でも、「慣れたもの」と「知らないもの」の注視頻度に違いが見られません。「もの」はプルチャーの顔の構成要素と大きな差がないように作られていますが、少なくとも我々には顔には見えません。①顔写真の場合、倒立させたときには正立のときと比べ、既知と未知の顔の区別が付けにくくなると思われること、②「もの」の場合には注視の頻度の違いに有意差がないことから、プルチャーにも顔認識の倒立効果があることがわかります。
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今後の展望

 今回明らかになった「プルチャーの顔認識には倒立効果が働くこと」に加えて「素早い本種の顔の認識」を考慮すると、本種にも顔神経が存在する可能性が考えられます。顔認識は、ディスカス、カワスズメ科のジュリドクロミス、スズメダイ類など複数の魚類で検証されています。また、社会性魚類が視覚で個体識別する場合、多くの種類で相手個体の顔の模様を使っていることが確認されています。これらの種類でもプルチャーのように顔認識には素早く反応している可能性は十分にあります。我々とは検証方法が異なりますが、メダカでも倒立効果の存在が示唆されています。ヒトや霊長類、ヒツジで確認された顔神経、あるいはそれに類似する神経回路は魚類にもあるだろうと我々は考えています。今後の脳神経科学での研究の展開が大いに期待されます。

資金援助

 本研究は下記の資金援助を得て実施されました。 科研費『魚類の共感能力と関連認知能力の解明およびそこから見える脊椎動物の共感性の系統発生』 科研費『脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から』