公立大学法人大阪市立大学
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世界最高レベルの吸着力を誇る生物吸着材料を開発 ~パン酵母×食品添加物~

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆1/22 化学工業日報
◆1/24 日刊工業新聞
◆1/27 読売新聞
◆2/28   朝日新聞

本研究のポイント

◇都市鉱山からレアアースをはじめとする高価な金属を選んで取り出すことが可能に
◇吸着率は生物吸着材の中では世界トップレベル
◇安全で安価に入手できるパン酵母と食品添加物に使用されるリン酸基を利用
◇銅や亜鉛をはじめとする多くの金属で吸着力を検証

概要

 大阪市立大学大学院工学研究科 化学生物系専攻 尾島 由紘(おじま よしひろ)講師、東 雅之(あずま まさゆき)教授らの研究グループは、都市鉱山からのレアアース回収や水中に含まれる有害重金属の除去に関わる新たな技術を開発しました。同研究グループでは、これまでにもパン酵母やトルラ酵母などを用いた生物吸着材料の検討を行っておりましたが、本研究では、パン酵母をリン酸化した結果、レアアースなどの高価な金属を選択して吸着でき、かつ世界最高レベルの吸着力を持つ生物吸着材料を開発することに成功しました。本研究で開発した吸着剤は、都市鉱山や環境中からの金属回収への応用につながると期待されます。本研究成果は、2019年1月18日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

■掲載誌情報
掲載雑誌:Scientific Reports(IF=4.122)
論文名:Recovering metals from aqueous solutions by biosorption onto phosphorylated dry baker’s yeast
著 者:Yoshihiro Ojima, Shogo Kosako, Maya Kihara, Norikazu Miyoshi, Koichi Igarashi, Masayuki Azuma
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-36306-2

(左から)東教授、尾島講師
(左から)東教授、尾島講師

 

👉研究者からのひとこと
 日常私たちが食しているパン酵母と食品添加物の組み合わせから、高い金属吸着能を持つ安価で安全な材料が生まれました。さらに、現場で役立つ技術に仕上げて、パン酵母が資源回収や環境浄化に役立つ姿を見てみたいですね。

研究の背景

 日本には多くの都市鉱山資源が蓄積されていますが、効率的な資源利用社会を実現するためには、環境に負担をかけずに低コストで都市鉱山に眠る金属の回収を可能とする技術が求められます。これまでも発酵生産過程で発生する余剰酵母などが、環境への負荷が少ない生物吸着材料として用いられてきましたが、イオン交換樹脂などの無機材料と比べると吸着効率が低いという課題がありました。そこで本研究では、パン酵母にリン酸基を修飾した金属吸着剤を独自に開発しました。

研究内容

 パン酵母を、食品添加物としても使用されるトリメタリン酸ナトリウムで処理することによりリン酸基修飾酵母を作製しました。この酵母は、強い負電荷を持つようになり、水中で正電荷を持つさまざまな金属イオンを強力に吸着します(図1)。その吸着容量は、乾燥重量1 g当たり約1.0 mmolに達し、これまでに報告された生物吸着材料の中では最高レベルとなりました。吸着された金属イオンは、0.1 mol/L の塩酸で処理することで、容易に脱離し、回収することができました。さらに、レアアースと呼ばれる希少価値の高い3価の金属のイオンは、2価の金属イオンに比べ、より強くリン酸基修飾酵母に吸着され、さまざまな金属イオンが混ざった溶液から、ネオジム(Nd3+)などのレアアースイオンを選択的に回収できることを実証しました(図2)。

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図1 パン酵母のリン酸化による金属吸着

図2 レアアースイオンの選択回収

 

                                                                             図2 レアアースイオンの選択回収

期待される効果

 銅や鉄等のベースメタルや半導体や超伝導等に使われるレアアースは、産業的に重要な資源であり、これらの資源確保は国家戦略的にも優先される課題となっています。本研究で開発した金属吸着酵母は、環境に負荷をかけない環境水中からの金属回収技術としての応用が期待されます。

資金情報

 本研究は、A-STEP フィージビリティスタディ【FS】ステージ探索タイプ(JST)ならびに鉄鋼環境基金・環境研究助成の対象研究です。