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悪いストレスが実は良い役割を果たす一面も! 小胞体ストレスが腸管炎症保護作用を有する免疫グロブリンを誘導することが明らかに

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆3/1 日刊工業新聞
◆4/19 読売新聞

本研究のポイント

◇ 腸管上皮細胞の小胞体ストレスが免疫グロブリン(IgA)の産生を誘導
◇ 誘導されたIgAは腸管炎症の保護作用を有する
◇ 悪影響ばかり報告されてきた小胞体ストレスが好影響を与えるケースを証明

概要

 大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学の細見 周平(ほそみ しゅうへい)講師らの研究グループは、炎症性腸疾患の腸管上皮細胞の小胞体ストレスが抗体の一つである免疫グロブリンA(IgA)の産生を誘導することを明らかにしました。炎症性腸疾患とは大腸などの消化管に原因不明の炎症が起きることで潰瘍が生じる難病で、主な疾患として潰瘍性大腸炎やクローン病が挙げられます。これまで小胞体ストレスは細胞に悪影響を与え、さまざまな疾患の原因になると報告されていましたが、本研究では腸管炎症の保護的な作用を有するIgAを誘導するという好影響を与える一面があることが明らかになりました。このメカニズムは、腸管小胞体ストレスによる炎症に対する腸管恒常性維持機構として重要な働きであり、炎症性腸疾患の病因解明を紐解く成果と考えられます。本研究成果は国際的影響力が高い学術誌「Science」に掲載されました。

■掲載誌情報
発表雑誌:Science (IF=41.058)
論文名:Epithelial endoplasmic reticulum stress orchestrates a protective IgA response
※著者一覧はこちらをご参照ください。

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細見 周平講師

👉研究者からのひとこと
 これまでの研究では、腸管小胞体ストレスは炎症引き起こす悪いストレス(Distress)としての報告しかなかったのですが、本研究で良い役割(Eustress)を果たす一面が明らかとなりました。この結果は、腸管恒常性維持機構を理解する上で重要な発見の一つです。

研究の背景

 小胞体ストレスとは、変性タンパク質が細胞内の小胞体へ蓄積した状態を指します。腸内細菌や食物抗原にさらされている腸管では、多くの粘液や抗菌ペプチドの産生が必要であることから、常に小胞体ストレス状態にあります。この小胞体ストレスが過剰となると、細胞への悪いストレス(Distress)が生じ、結果、種々の疾患の原因・病態に関与することが知られています。これまでの報告から、炎症性腸疾患と総称される潰瘍性大腸炎やクローン病では、腸管が過剰な小胞体ストレス状態にあることがわかっています。また、小胞体ストレス応答を制御する主要な転写因子であるX-box-binding protein 1 (Xbp1))の機能低下型変異が、炎症性腸疾患発症のリスクとなる遺伝的背景であると同定されています [Kaser A, et al. Cell 2008]。このことを裏付けるように、Xbp1遺伝子を腸管上皮細胞で特異的に欠損させたマウスでは、過剰な小胞体ストレス状態が認められ、その結果としてクローン病に類似した自然発症小腸炎が生じることも証明されています [Adolph TE, et al. Nature. 2013]。しかし、腸管小胞体ストレスの粘膜保護的な作用、つまり腸管への良いストレス(Eustress)を検討した研究はありませんでした。

研究内容

 本研究ではまず、腸管上皮細胞特異的Xbp1欠損マウス(Xbp1欠損マウス)の詳細な解析を行いました。その結果、過剰な腸管小胞体ストレス状態にあるマウスの腸管では、免疫グロブリンA(IgA)の産生が促進されていることが明らかとなりました(下図)。

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 また、IgAは小腸組織中だけでなく、血漿中や小腸の内腔でも濃度が上昇していることがわかりました。腸管粘膜面においては、病原体の感染への防御機能だけでなく、常在菌のバランス維持にもIgA抗体が重要な役割を担っていることが知られています。そこで、Xbp1欠損マウスに生じる自然発症小腸炎におけるIgAの役割を解明するため、IgAやB細胞(抗体産生細胞に分化する細胞)も同時に欠損したXbp1欠損マウスの解析を行ったところ、IgAがXbp1欠損マウスの小腸炎を抑える作用を有することが明らかとなりました。つまり、腸管小胞体ストレスは、腸炎を導こうとするDistressを引き起こすと同時に、腸炎を抑えようとするEustressとしての一面も持っていることがわかりました。
 腸管IgAの産生には、T細胞依存性とT細胞非依存性の2つの誘導経路が知られています。T細胞依存性経路は、主に小腸パイエル板とよばれる二次リンパ器官で抗原特異的にIgAが誘導されます。一方、T細胞非依存性経路については、樹状細胞から産生される分子によって誘導される経路や、B細胞の一種であるB1細胞から誘導される経路などが報告されていますが、未だ解明されていない点が多い経路です。IgA産生誘導のメカニズム解析のために、T細胞やパイエル板も同時に欠損したXbp1欠損マウスを解析したところ、小胞体ストレスで誘導されるIgAはT細胞非依存性に誘導されることが明らかとなりました。また、無菌マウスの検討から、炎症や腸内細菌叢にも依存しないことが明らかとなりました。Xbp1欠損マウスの腹腔内においてはIgA産生B1b細胞(B1細胞の一つ)が増加していることがわかり、腹腔内B1b細胞が腸管小胞体ストレスによるIgA誘導の経路であることが判明しました。
 腸管小胞体ストレスの増加が生じる遺伝子背景を持つヒト(ATG16L1T300A)において、小腸粘膜IgAが増加していたことから、人間でも同様に生じていることが明らかとなりました。

期待される効果

 本研究では、腸管小胞体ストレスがT細胞非依存性にIgA産生を誘導し、腸管の炎症を抑える作用をもつことがわかりました。この発見は、腸管の恒常性維持機構を理解する上で重要であると考えられます。また、この経路の破綻が炎症性腸疾患の病態に関わっている可能性があることから、炎症性腸疾患の病因解明のために重要な研究テーマであると考えます。

資金情報

 本研究は、科学研究費補助金(課題番号 26893231)、学術研究助成基金助成金(課題番号 16K19162)、全身性炎症疾患の病因・病態の解明に関する研究助成の資金援助を得て実施しました。