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理・緒方 一介准教授が理論解析を担った研究論文がNatureに掲載されました

 大学院理学研究科 緒方 一介准教授(大阪大学 核物理研究センターとのクロスアポイントメント)が所属する国際共同研究グループが発表した「ニッケル78原子核(78Ni)の二重魔法性」に関する研究成果が国際科学雑誌「Nature」(IF:41.577)に掲載されました。
 
論文名:78Ni revealed as a doubly magic stronghold against nuclear deformation
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41586-019-1155-x

本研究について

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 緒方准教授らの研究グループは、長年未解明だったニッケル78原子核(78Ni)の二重魔法性が保持されているという証拠を発見しました。
 原子核は、陽子あるいは中性子が決まった数(2, 8, 20, 28, 50, 82, 126)のとき、まるで魔法のように際立って安定化します。そのため、これらの数は魔法数と呼ばれています。陽子数と中性子数の両方が魔法数と一致する原子核はさらに安定で、二重魔法性を持つ特別な原子核とされます(魔法数の説明を与えた研究は1963年にノーベル物理学賞を受賞)。長年、魔法数は普遍的定数であると考えられていましたが、陽子と中性子の数がアンバランスな原子核では魔法数の変化が示唆されており、その全容は未だによくわかっていません。
 陽子と比べて中性子が過剰な原子核は天然には存在しませんが、地球上の金やプラチナ、ウランなどの重元素は、中性子過剰な原子核を経由して生成されたと考えられています。どういった魔法数が中性子過剰な世界で発現しているかで、その合成の仕方は大きく変わります。今回の研究対象となったニッケル78は、陽子数が28、中性子数が50ですので、二重魔法性をもつ可能性があります。一方、中性子が陽子の2倍近くあるため、一般には極めて不安定な原子核と考えられます。
 緒方准教授らの研究グループは、理化学研究所の加速器施設を用いた原子核反応により、ニッケル78のガンマ線分光に世界で初めて成功しました。実験で魔法性を示す証拠となるガンマ線を確認し、さらに理論計算によりニッケル78において二重魔法性が保持されていることを示しました。この成果は、宇宙進化の過程で重元素が合成される仕組みの解明に画期的な進展をもたらす可能性があります。 緒方准教授の専門は原子核反応の理論研究です。原子核のさまざまな性質や、宇宙進化とともに原子核がどのように作られたかを、反応(衝突)を利用して解き明かすべく、研究を行っています。緒方准教授は、原子核反応理論の分野を牽引する研究者として世界的にも知られおり、国内外の多くの共同研究に従事しています。

緒方准教授のコメント

 190524-2.png学生時代、教科書に載っている「魔法数」という言葉に、とても魅力を感じたことをよく覚えています。しかし驚くべきことに、教科書で勉強した7つの魔法数は、実は全ての原子核に当てはまる数字ではなかったのです。教科書の内容が、最先端の研究の進展と共に書き換えられていく様子を端から見ていて、研究の世界の凄さを見せつけられたものです。
 それから時が経ち、今回、原子核物理学にとって象徴的な中性子過剰核であったニッケル78の二重魔法性を立証する仕事に携わることができました。この仕事を実現させたのは、理化学研究所にあるRIBFという実験施設であり、測定に携わった多くの人たち(加速器を動かしている人たちを含みます)であることは間違いありません。しかし測定データの物理的な意味を解読するには、必ず理論が必要です。特に、散乱実験で得られたデータからミクロの世界の性質を解き明かす反応理論は重要です。今回の記念碑的な仕事において、反応理論計算を担当できたことを、とても嬉しく、また誇りに思っています。

ご参考

2019年5月2日発表 理化学研究所「魔法数研究に金字塔」
http://www.riken.jp/pr/press/2019/20190502_1/