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骨粗鬆症患者への骨吸収抑制薬投与が、骨からのリン放出を軽減し、腎機能を改善させることを明らかに

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 大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学の稲葉雅章教授らの研究グループは、腎機能が正常な骨粗鬆症患者に骨吸収抑制薬であるデノスマブを投与した場合、骨からのリン放出を低下させることで加齢に伴う腎機能低下を防止させるだけでなく、さらに改善させる効果があることを明らかにしました。
 また、慢性腎臓病合併骨粗鬆症患者では腎臓からのリン排泄が低下しており、骨からのリン放出による腎臓への悪影響が顕著となることが想定されます。高齢者の骨粗鬆症では慢性腎臓病合併が多く、70歳代では2人に1人に合併がみられます。これら高齢患者に骨吸収抑制薬を投与することによる腎保護効果がさらに強くなることが想定され、現在、当教室で臨床研究が進行中です。慢性腎臓病は、単一疾患として糖尿病を超える心血管障害リスクであり、骨粗鬆症が頻発する閉経後女性に対して、骨吸収抑制薬の早期投与が骨折の防止のみでなく、健康障害全般の予防に効果があることが期待されます。
 本研究成果は、アメリカ骨ミネラル研究雑誌『JBMR』に2019年7月5日午前0時1分(米国東部時間)に掲載されました。

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記者レクチャーの様子1

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記者レクチャーの様子2

本研究の内容

 骨はひびの入った古い骨を吸収して、その欠損部に新しい骨を形成して置き換えるリモデリングという作業により骨強度を保っています。骨粗鬆症は女性ホルモン欠乏や身体活動性低下などの原因により、骨吸収の亢進が顕著となり骨の量が減ることで骨がもろくなり骨折を引き起こす病気です。骨吸収によって骨のカルシウムのみでなく、リンも血液中に放出されます。リンは食品中の添加無機リンの過剰摂取と同じく、体へのリン負荷を増加させ、生体毒として働きます。
 これまでは、骨粗鬆症患者に骨吸収抑制薬を投与すると心血管障害の抑止効果があることが知られていましたが、そのメカニズムについては不明でした。生体内では多くのリンが骨に存在しており、今回の研究で骨粗鬆症に伴う骨吸収亢進によってリンが血液中に放出されることで腎臓を障害すること、また骨吸収抑制薬による骨粗鬆症の治療によって骨からのリン放出が減少することで、腎機能の低下が抑止するのみでなく反転させることが初めて明らかになりました。
 本研究では、73名の骨粗鬆症患者に骨吸収抑制薬であるデノスマブを2年間にわたって半年毎に3回投与しました。投与後2年間で、加齢に伴う概算糸球体濾過率(eGFR)※の低下に逆らって有意に改善することを、血清シスタチンC濃度に基づく、より正確なeGFRを用いて示し、+2.75±1.2 mL/min/1.73 m2、有意に上昇させることを明らかにしました。さらにeGFRの上昇の程度とデノスマブ投与後半年間の血清リンの低下との間に有意な関連を認めたことから、デノスマブによる骨吸収抑制骨からのリン放出を軽減させた結果生じる血清リン濃度低下が、腎機能を改善させるという直接的な証拠を初めて得ることができました。

図1 デノスマブ初回投与後の血清リン濃度の変化
図1 デノスマブ初回投与後の血清リン濃度の変化

 今回の検討から、骨吸収亢進を示す骨粗鬆症患者に対する骨吸収抑制薬による介入は、既報での心血管保護効果のみならず、腎保護の面からも臨床的意義があると考えられます。
女性は閉経前に比べ閉経後は高血圧症罹患率や心血管イベントの発生率の上昇が認められます。この一つの機序として閉経に伴う骨吸収亢進、およびそれに伴う骨からのリン放出の関与が示されたことで、閉経後骨粗鬆症に対して早期から骨吸収抑制薬で介入することにより、閉経後女性における骨粗鬆症のみでなく、腎臓や血管系に関する健康障害全般の改善が期待できる根拠となりました。

※概算糸球体濾過率(eGFR):腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示した値。この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになる。

図2 デノスマブ治療2年間の腎機能の改善
図2 デノスマブ治療2年間の腎機能の改善
図3 デノスマブ初回投与後の半年間の血清リン・Caxリン積低下と2年間の腎機能改善率との相関
図3 デノスマブ初回投与後の半年間の血清リン・Caxリン積低下と2年間の腎機能改善率との相関


本研究の意義

 当研究グループはこれまでの研究で、骨吸収亢進や骨量減少を示す血液透析患者での生命予後が悪いこと(Life Sci 2012;90:212-8; Calcif Tissue Int. 2009;84(3):180-5)、骨粗鬆症患者に対するビスホスホネート投与が、動脈壁肥厚度および硬化度の進展を抑制すること(Life Sci. 2010;8:686-91)、閉経後女性における骨代謝亢進が尿中アルブミン排泄量の有意な独立因子であること(Sci Rep, 2018;8:82)を報告してきており、骨粗鬆症と心血管・腎障害との関連や生命予後悪化との関連を示してきました。
 今回の研究からは、閉経後や、腎機能悪化に伴って骨吸収が亢進した慢性腎臓病患者においても、骨吸収抑制薬による介入で腎機能低下を抑制あるいは改善できることが示唆されることから、重要な意義を持つ新規の臨床研究といえます。

掲載紙情報

発表雑誌:JBMR Journal of Bone and Mineral Research
論文名:Denosumab improves glomerular filtration rate in osteoporotic patients with normal kidney function by lowering serum phosphorus
著者:Daichi Miyaoka, Masaaki Inaba, et al.