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高齢者肝切除後に自立生活が困難になるリスク評価の確立―「フレイル」に着目してー

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 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学の田中 肖吾講師、新川 寛二病院講師、久保 正二病院教授らの研究グループ(大阪肝臓外科臨床研究検討会:大阪市立大学、滋賀医科大学、和歌山県立医科大学、大阪医科大学、奈良県立医科大学、近畿大学、関西医科大学、京都府立医科大学、大阪大学)は、自立生活をしている高齢者において、肝切除手術後の自立生活に影響を及ぼす因子が、「フレイル」1・「76歳以上」・「開腹手術」の3つであると特定しました。また、3つの因子について2つ以上該当する場合、肝切除手術後にそのリスクがより高まることを証明しました。
 超高齢社会である日本では、高齢者の肝切除症例も増加しています。しかし、肝切除術後に自立生活が困難になる可能性があるにもかかわらず、高齢者に特化したガイドライン等は整備されておらず、その必要性が高まっています。

 そこで、本研究では肝切除を予定している65歳以上の自立生活を送っている高齢者を対象に、厚生労働省作成の基本チェックリストによるフレイル判定結果および術前・術後の患者データを調査したところ、上記3因子について組み合わせに関係なく、2項目以上該当する場合、術後自立生活が困難になる可能性が高まることを明らかにしました。
 近年、高齢者の加齢に伴う身体的能力の低下については、「サルコペニア」2が注目されていますが、本研究では身体的のみならず、精神的・社会的能力低下を意味する「フレイル」に着目し研究を行いました。「フレイル」に着目してリスクの評価を確立したのは本研究が初めてです。
 本研究の成果は、2019年8月23日(金)「Annals of Surgery」にオンライン掲載されました。

※1「フレイル」…加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の
         慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆
         弱性が出現した状態。
※2「サルコペニア」…転倒・骨折・身体機能低下・死亡などの健康障害の危険が高まっ
           た進行性かつ全身性の骨格筋疾患
※3「侵襲」…病気、怪我だけでなく手術、処置のような生体を傷つけること

【発 表 雑 誌】Annals of Surgery (IF=9.476)
【論 文 名】Preoperative Risk Assessment for Loss of Independence Following
       Hepatic Resection in Elderly Patients: A Prospective Multicenter
       Study
【著 者】Shogo Tanaka, Hiroya Iida, Masaki Ueno, Fumitoshi Hirokawa, Takeo
    Nomi, Takuya Nakai, Masaki Kaibori, Hisashi Ikoma, Hidetoshi Eguchi,
    Hiroji Shinkawa, Hiromitsu Maehira, Shinya Hayami, Shoji Kubo
【掲載URL】https://insights.ovid.com/pubmed?pmid=31460876

研究の背景

  手術手技や周術期管理の向上により、肝切除手術後の合併症や在院死の頻度は大きく減少しましたが、高齢の患者さんの中には術前は自立生活を送っていたにも関わらず、術後に身体能力の低下により療養目的の転院や退院したものの介護が必要になることがあります。しかし、肝切除手術後に自立生活が困難になることを、術前に評価できる指標はありませんでした。

 そこで、我々の研究グループでは、その指標として「フレイル」に着目しました。「フレイル」とはストレスや侵襲※3が加わることで介護が必要となる前段階で、「みかけ自立」と言われています。厚生労働省は、25個の質問に「はい」もしくは「いいえ」で回答する基本チェックリストを作成し、近い将来介護が必要となる高齢者(フレイル)を早期発見し介入を行い、健康寿命の延伸を目指す介護支援事業を行っています。我々は先行研究で、基本チェックリストにより「フレイル」と判定された高齢の患者さんは、「フレイル」でなかった高齢の患者さんに比べ、呼吸器・循環器系合併症やせん妄4などの合併症が多いのみならず、療養目的の転院や退院後介護申請を行った頻度が高いことを証明しました(Tanaka S, et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci 2018; 25: 377-387)。これを踏まえ、さらに症例の蓄積を行い、「フレイル」を含めた肝切除手術後の非自立生活に対する術前リスク評価を作成することにしました。

4「せん妄」…外界からの刺激に対する反応が鈍り、錯覚・妄想・麻痺などを起こす意
        識障害。

研究の内容

 2016年5月から2018年5月の期間、研究に同意を得た肝切除手術予定の自立生活を送っている65歳以上の高齢者347例に対し、手術前1週間以内に基本チェックリストによるフレイル判定を行いました(前向き多施設共同研究)。2016年5月から2017年8月までの232例を研究コホート、2017年9月から2018年5月までの115例を検証コホートに分けました。非自立は、「療養目的転院」、「退院後介護申請」、「退院後30日以内に身体機能低下での再入院」および「術後90日以内の癌死を除く死亡」と定義しました。研究コホートで非自立に対するリスク評価を行い、その妥当性を検証コホートで確認しました(図1)。

図1
図1

 

 

 

 

 

 

 その結果、研究コホート32例(13.8%)および検証コホート16例(13.9%)が非自立と判定されました。研究コホートでの単変量および多変量解析の結果、「フレイル」「年齢(76歳以上)」および「開腹手術」が肝切除手術後の非自立生活に対する独立危険因子と同定されました。

 この3つの因子の該当個数での非自立の頻度は、該当なし3.0%、1項目該当8.1%、2項目該当25.5%、3項目全て該当56.3%でした(Cochran–Armitage trend test P <0.001、Holm法で、2項目以上該当は該当なしもしくは1項目該当に比べ有意に高頻度、図2)。これを検証コホートで検証した結果、非自立の頻度は、該当なし0%、1項目該当12.5%、2項目該当25.0%、3項目全て該当50.0%でした(Cochran–Armitage trend test P <0.001、Holm法で、2項目以上該当は該当なしに比べ有意に高頻度)。

図2
図2

 

 

 

 

 

 

 そして、この3項目の該当個数でのリスク評価の予測能を調べるために、受信者動作特性曲線下面積 (Receiver Operating Characteristic curve- area under the curve: ROC-AUC)※5を測定したところ、研究コホート0.777および検証コホート0.783という高い予測能でした(図3)。

※5「受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)」…連続変数である独立変数(本研究で
  は該当項目数)と二分変数であるアウトカム(本研究では非自立)との関係の強さ
  を評価する方法で0.70以上で精度が高いとされています。

図3
図3

 

 

 

 

 

 

期待される効果

 高齢の患者さんに肝切除手術を予定する際、「フレイル」「年齢(76歳以上)」および「開腹手術」のうち2項目以上が該当する場合、高い頻度で術後に非自立に陥る可能性があることを術前に患者さんおよびその家族に説明し、理解いただくことで、退院後の生活に対する準備ができると考えられます。そして、「フレイル」を有する高齢の患者さんに、術前より栄養療法・運動療法などを導入することで、術後の非自立のリスクを軽減させる可能性が期待されます。また手術手技の向上により、これまでは開腹手術で行っていた手術を腹腔鏡手術でできるようになれば、その低侵襲性により術後の非自立のリスクを軽減させる可能性も期待されます。

研究資金

 本研究は、厚生労働行政推進調査事業費(H30-肝政-指定-003)の対象研究です。