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絶対零度付近でボース・アインシュタイン凝縮をした量子流体においてエネルギー輸送の直接測定に初めて成功し、乱流の普遍則を観測

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本研究のポイント

◇ 絶対零度付近まで冷却され、ボース・アインシュタイン凝縮※1を起こした量子流体における運動エネルギー輸送の直接測定に世界で初めて成功
◇ 大きな構造から小さな構造へエネルギーが流れる、エネルギー輸送に伴う乱流の普遍的な法則を実験で初観測

概要

 大阪市立大学大学院理学研究科 坪田 誠 教授、東京大学大学院理学系研究科(当時)藤本 和也 研究員(2019年4月より名古屋大学高等研究院 大学院工学研究科特任助教)、Yale大学 Nir Navon助教、Oxford大学 Robert P. Smith准教授、Cambridge大学 Zoran Hadzibabic教授らの研究グループは、極低温※2状態でボース・アインシュタイン凝縮を起こした量子流体における乱流の運動エネルギー輸送の測定に初めて成功し、乱流の普遍則を実験で観測しました。ボース・アインシュタイン凝縮を初めて観測した研究者は2001年にノーベル物理学賞を受賞しており、今回の研究成果は「乱流」の長年の謎を解き明かす偉業といえます。
 本研究成果は2019年10月4日(金)午前3時(米国東部時間10月3日(木)14時)に『Science』に掲載されました。
※1 ボース・アインシュタイン凝縮…アインシュタインが1925年に理論的に予言した現象。ボース粒子からなる気体で、ある温度以下で大量の粒子が最低エネルギー状態に落ち込む現象
※2 極低温…絶対零度(摂氏マイナス273度)に極めて近い低温

■掲載誌情報
発表雑誌:Science (IF=41.058)
論文名:Synthetic dissipation and cascade fluxes in a turbulent quantum gas
掲載URL:https://science.sciencemag.org/content/early/2019/10/02/science.aau6103
著者:Nir Navon1,2 , Christoph Eigen1 , Jinyi Zhang1 , Raphael Lopes1 , Alexander L.  Gaunt1,3 , Kazuya Fujimoto4,5 , Makoto Tsubota6,7 , Robert P. Smith1,8 and Zoran Hadzibabic1
1) Cambridge大学 2) Yale大学 3) マイクロソフト 4) 東京大学大学院理学系研究科 5) 名古屋大学
 6) 大阪市立大学大学院理学研究科 7) 大阪市立大学 南部陽一郎物理学研究所 8) Oxford大学

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坪田 誠 教授

👉研究者からのコメント
 乱流は単なる乱れた流れではなく、その流れの中に構造を持つことと、大きな構造から小さな構造にエネルギーが輸送されることが乱流を支える重要な機構であることは知られていました。今回、私たちは、そのエネルギー輸送の直接観測に初めて成功しました。これは、ボース・アインシュタイン凝縮体を舞台とし、最先端の光学技術を駆使して、乱流の根幹に迫ることを可能にしたもので、低温物理学、量子光学、流体力学を横断する画期的な研究です。

研究背景

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図1 ダ・ヴィンチが描いた乱流のスケッチ

台風による暴風や増水した河川の流れなど、私たちの身の回りにはさまざまな流れがあります。流れのほとんどは乱れた流れ「乱流」です。約500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは乱流のスケッチを描き(図1)、乱流は単に乱れた流れではなく、大スケールの流れが発達することで小スケールの流れが生まれることが重要だと指摘しました。それ以降、乱流を理解するために、数学・物理分野などの基礎研究から、工学分野などの応用研究まで、さまざまな分野で膨大な研究が行われてきましたが、まだ十分な解明に至っていません。ロシアの数学者Kolmogorovは1941年に、乱流現象を理解するために重要な鍵となっているのが、異なるスケール間における運動エネルギーの輸送であると指摘し、近代における乱流研究の骨子となっています。しかしながら、運動エネルギー輸送の直接観測は非常に難しく、長年の未解決問題となっていました。そこで、坪田教授らの研究グループは、極低温のルビジウム3の原子気体の乱流に照射するレーザー光を巧みに制御することで、大きな構造から小さな構造へ流れる運動エネルギー輸送の直接観測に世界で初めて成功しました。

※3 ルビジウム…非常に反応性の高いアルカリ金属元素の一つで、原子時計などに使用されている

研究内容

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図2 レーザ光で閉じ込めた極低温のボース・
アインシュタイン凝縮体のイメージ。
掲載論文から転載。

 本研究では、極低温状態でボース・アインシュタイン凝縮したルビジウムの原子気体(図2)を用いて、乱流のエネルギー輸送の詳細を実験・理論の両側面から明らかにしました。一般に流れの性質は速度場4の相関関数で特徴づけられ、乱流中ではべき乗則5が現れることが知られています。この法則の背後にある物理の本質が、波数に依存しないエネルギー輸送です。このため、エネルギー輸送は乱流の性質を深く理解する上で非常に重要な位置を占めています。
 坪田 誠 教授、藤本 和也 研究員は、海外の実験グループと協力して、量子流体の乱流にレーザー光を照射することで、エネルギー輸送の直接測定に成功しました。
 根幹となるアイデアは、ルビジウムの原子気体に照射するレーザー光を精密に操作して、特定の波数を持つ粒子を散逸させる技術です(図3参照)。これにより、波数空間6におけるエネルギー輸送を直接測定して、Kolmogorovが1941年に予言した波数に依存しないエネルギー輸送を観測しました。

※4 速度場…空間の任意の点における流体の速度を表すベクトル場
※5 べき乗則… で表される。地震の規模と頻度など、さまざまな自然現象がべき乗則に従っている
※6 波数空間…波の波長の逆数を座標とする空間

今後の展望

 本研究では、長年の課題であったエネルギー輸送の直接測定に成功しました。これを起点に、今後は、極低温冷却原子気体を用いて乱流の深い洞察を探索する道を開拓していきます。

資金情報

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号JP16J01683, JP16H00807, JP17K05548)により実施しました。

本研究の説明図

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①    ボース・アインシュタイン凝縮をおこした多粒子系が箱に閉じ込められている。これらの粒子は、低い波数(長い波長)を持つ。
②    箱を振動させると、乱流が発生する。その結果、低い波数(長い波長)から高い波数(短い波長)へとエネルギーが輸送される。
③    高い波数(短い波長)の粒子はエネルギーが高く、ポテンシャルの壁を超えることができる。この飛び出る粒子の個数を測定することで、エネルギー輸送の測定に成功した。