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肝がん患者において血管新生阻害剤による治療効果を血液検査で予測できる可能性を明らかに

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本研究のポイント

血管新生阻害剤で治療を行った肝がん患者において、血液検査でがん治療の効果を
 予測
できる可能性を示した。
肝がん患者において、血管新生阻害剤が早期にがん微小環境の免疫状態に影響を
 与えて
いることが明らかに。

概要

 大阪市立大学大学院医学研究科・肝胆膵病態内科学の榎本 大准教授らの研究チームは、ソラフェニブという血管新生阻害剤で治療を受けた肝がん患者の血液で、16種類の免疫チェックポイント分子※1を測定したところ、BTLAという分子が高値の患者では、その後の生存期間が短いことを発見しました。この発見は、肝がん患者のがん治療効果が、血液検査で予測できる可能性を示しています。

 肝がんは、日本で年間3万人近くが亡くなる重要な疾患であり、治療方法についても研究が進められています。その中でも、がん免疫療法である免疫チェックポイント阻害剤※2は様々ながんで使われ、効果をあげています。しかし、肝がんにおいてはその効果は認められておらず、がん細胞が増殖するために必要な血液を遮断する血管新生阻害剤での治療が主となっています。今回の研究成果より、血管新生阻害剤は早期にがん微小環境の免疫状態に影響を与えていることが明らかになり、血管新生阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を併用することによる相乗効果も期待されます。
 ※1免疫チェックポイント分子・・・自己の細胞や組織への不適応な免疫応答や過剰な
                  炎症反応を抑制する分子群。
 ※2免疫チェックポイント阻害剤・・・腫瘍免疫をつかさどるリンパ球の一種であるT細
                 胞の抗腫瘍活性を活発にさせることで、がん細胞
                                                の排除を促す新しいタイプのがん治療薬。

研究背景

 日本人の2人に1人が、がんになる時代と言われますが、がん治療は着実に進歩を遂げています。その一例としてがん免疫療法の進歩があげられます。2018年のノーベル医学生理学賞を授与された京都大学の本庶佑名誉教授と米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授は、免疫の司令塔であるTリンパ球表面にPD-1またはCTLA-4という分子を発見し、これをもとにオプジーボなど免疫チェックポイント阻害剤が開発されました。免疫チェックポイント阻害剤は既に悪性黒色腫、肺がん、腎がん、リンパ腫、胃がんなどの一部に使われ効果をあげています。

 肝がんは日本で年間3万人近くが亡くなる重要な疾患です。ところが肝がんに対するがん治療薬として、免疫チェックポイント阻害剤の効果は確認されておらず、がん細胞が増殖するために必要な血流を遮断する血管新生阻害剤が使われています。将来的には血管新生阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を併用することで相乗効果が得られる可能性があり、臨床試験が進行しています。

研究内容

 大阪市立大学大学院医学研究科・肝胆膵病態内科学の榎本 大准教授らの研究チームは、ソラフェニブという血管新生阻害剤で治療を受けた53名の肝がん患者さんの血液で、PD-1、CTLA-4をはじめ16種類の免疫チェックポイント分子を測定しました。その結果、①BTLAという分子が高値の患者さん(図1)では、その後の生存期間が短いことが分かりました(図2)。このことは肝がん患者さんのがん治療の効果が、血液検査で予測できる可能性を示しています。②血管新生阻害剤で治療を始めて2週間目の血液で、11種類もの免疫チェックポイント分子の濃度が変化していることも分かりました。血管新生阻害剤はがん免疫療法ではありませんが、非常に早期にがん微小環境の免疫状態に影響を与えていることが分かりました(図3)。今後、肝がんに対する血管新生阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の承認に向け、その相乗効果が期待されます。

図1  肝がんの病理組織 
図1 肝がんの病理組織 
図2  BTLAが高い患者さんと低い患者さんの生存曲線
図2 BTLAが高い患者さんと低い患者さんの生存曲線

 

 

 

 

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図3 血管新生阻害剤で治療を受けた肝がん患者さの 血液中免疫チェックポイント
  分子の変化

期待される効果 

 免疫チェックポイント阻害剤は一部の患者さんに著効が得られる反面、その効果が予測しにくいこと、重篤な副作用がみられる場合があること、薬価が高いことなどが問題になっています。本研究ではBTLAのバイオマーカーとしての有用性を示すことが出来ましたが、対象患者数を増やす、あるいは、進行度が初期の患者を対象とするなど、更なる研究が必要です。また、ソラフェニブ以外の様々な血管新生阻害剤で治療を受けた患者さんでも免疫分子の変化を解析し、より有効な薬剤併用の組み合わせの開発に役立てたいと考えています。
 研究チームでは今回の研究成果を足がかりに、より精度が高く治療効果を予測できるバイオマーカーの開発、治療効果予測のための検査法、有効な併用薬の開発に繋がるよう研究を進めてまいります。

資金情報

 本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
科研費『活性化星細胞はサイトグロビンを介して幹細胞のがん化に直接的に関与するか?』
科研費『Cytoglobin overexpression inhibits liver fibrosis and cancer development via anti-oxidant function』
厚生労働科研費『職域等も含めた肝炎ウイルス検査受検率向上と陽性者の効率的なフォローアップシステムの開発・実用化に向けた研究班』

掲載誌情報

発表雑誌: Scientific Reports(IF=4.011)
論文名: Clinical significance of circulating soluble immune checkpoint proteins
     in sorafenib-treated patients with advanced hepatocellular carcinoma
著者: Minh Phuong Dong, Masaru Enomoto, Le Thi Thanh Thuy, Hoang Hai,
          Vu Ngoc Hieu, Dinh Viet Hoang, Ayako Iida-Ueno, Naoshi Odagiri,
          Yuga Amano-Teranishi,Atsushi Hagihara, Hideki Fujii, Sawako Uchida-
          Kobayashi, Akihiro Tamori,Norifumi Kawada
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-60440-5