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従来の認識を覆す発見!!自発的対称性の破れによって生じた謎の物体を解明

                         プレスリリースはこちらから

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。

◆5/27 マイナビニュース

本研究のポイント

◆南部陽一郎氏のノーベル物理学賞受賞で話題になった自発的対称性の破れに関して、
   最近実験で観測された謎の物体(位相欠陥※1)を理論的に解明。
◆飛行機の翼の揚力計算に用いられるジューコフスキー変換を応用することで
   量子楕円渦と呼ばれる新たな位相欠陥の存在を予言。

※1位相欠陥…自発的対称性の破れを記述する場が相転移の過程で空間的に非一様に
                  成長することで取り残さる局所的なエネルギーの集中領域。
                  このような場の例として素粒子論ではヒッグス場が知られている。

概要

 大阪市立大学大学院 理学研究科および南部陽一郎物理学研究所の竹内 宏光(たけうち ひろみつ)講師は、最近実験で発見された自発的対称性の破れ(Spontaneous Symmetry Breaking、以下SSB)の非平衡時間発展によって生み出される謎の位相欠陥の正体を理論的に突き止めました。この系で実現するSSBは古くからよく知られる等方的超伝導体や超流動4Heで起こるSSBと同様であるため、量子渦と呼ばれる流体中の渦のような性質を持つ位相欠陥が生じると予想されます。ところが、その実験で観測された位相欠陥はそれとは似ても似つかない構造をもっており、その物理的性質は謎に包まれていました。本研究では飛行機の翼の揚力計算に用いられるジューコフスキー変換を量子渦に適用するという考えを初めて導入し、解析の結果、この謎の位相欠陥の最も安定な状態が量子楕円渦という新たな位相欠陥であることを明らかにしました。本研究成果は、物理学分野で最も権威のある米国物理学会が発行する学術雑誌『Physical Review』の速報としてオンライン掲載されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Physical Review Letters(IF=8.4)
【論 文 名 】 Quantum Elliptic Vortex in a Nematic-Spin Bose-Einstein Condensate
【著    者  】 Hiromitsu Takeuchi
【掲載URL】 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.126.195302

研究内容

  SSBが起こった物理系の性質を記述する際には「場」と呼ばれる時間と空間に依存した関数が共通して用いられます。この場の運動を計算することができれば、その系の挙動を予測できるわけですが、場の自由度は無限大であるためその計算は一般に困難です。
 場の複雑な運動を記述する上で有効な方法として、位相欠陥と呼ばれる場の中を漂う物体にその自由度を代表させるというやり方があります。位相欠陥の「芯」付近の場はある決まった構造をとります。そのため、芯の中心を質点の運動のように記述することで場の運動も近似的に予測できます。
 この状況はちょうど台風の目の進路を見れば今後の風向きの変化をある程度予測できることに似ています。超伝導体と超流体といったSSBが起こる典型的な物質では、この「風」は抵抗なしの電流と摩擦なしの流れに対応します。対称性の破れ方に応じて芯の周りの場の構造は予測できるので、対称性の破れ方を大局的に把握していれば位相欠陥の挙動、すなわち場の挙動もよく理解できると考えられてきました。

  210524-1.jpg

図1:ホットケーキ型の2次元的な“電磁容器”に閉じ込められた23Na超流体中の複合欠陥。色が黒いほど流体密度が濃い領域を表す。位相欠陥の芯は写真中央の白い領域に相当する。写真はPhys. Rev. Lett. 122, 095301 (2019)より。

 

 

 このような考えを否定する現象がソウル国立大学のShin教授の実験グループによって最近観測されました[Phys. Rev. Lett. 122, 095301 (2019)]。この実験系の対称性の破れ方は良く知られる通常の超伝導体・超流体と同様であるため、そこで現れる量子渦と呼ばれる位相欠陥の芯の形状は2次元断面では台風の目のように丸くなると予測されます。
 ところが、実際に観測された位相欠陥の断面の構造はまったく異なるものだったのです。図1は相転移を急に引き起こすことで生じた位相欠陥の断面に相当する構造を実験で撮影した写真です。当時この位相欠陥は既知の2種類の位相欠陥が複合したもの(複合欠陥)とされ、臨界点近傍の相転移過程で一時的に起こる過渡的な状態だと解釈されました。

 本研究では実験で観測された複合欠陥の物理的性質を解明するために、飛行機の翼の揚力計算に用いられるジューコフスキー変換を量子渦に適用するという考えを初めて導入しました。この考えに基づくと実験で観測された位相欠陥は量子楕円渦(Quantum elliptic vortex)と呼ばれる新たな位相欠陥として最終的に安定化することになります。通常の量子渦は竜巻の様に、その断面で回転対称な流れを伴います(図2左)。ところが、新たに提案された量子楕円渦の断面は、自発的に回転対称性を破って楕円に沿った流れを形成しています。位相欠陥の外形はその物理系の大局的なSSBの起こり方に基づいて決まると従来考えられていましたが、この結果はその認識をはっきり覆すものでした。
 このような不思議な構造は、相転移の臨界点近傍で起こり、その安定性には位相欠陥の芯内部での局所的なSSBが深く関わっていることが理論的に分かっています。

期待される波及効果

 SSBの研究は古くから行われていますが、芯内部の局所的なSSBがどのように起こるのか、またそれが位相欠陥の物理的性質にどのように影響するのかについて、一般的な理解は得られていません。位相欠陥は超伝導体のような特殊な物質中だけでなく結晶や液晶といった比較的身近な物質からスピントロニクスといった最先端の科学技術に至る様々な物性系で顔を出し、はたまた初期宇宙の相転移や高速回転する中性子星の内部運動でも重要な役割を果たすと考えられています。今後も上記発見のようなSSBに関する新たな展開が実験技術の向上とそれに応じた理論の進展によりもたらされ、物理分野全体に波及することを期待しています。

210524-2.jpg図2:通常の回転対称な量子渦(左)と量子楕円渦(右)まわりの流れ(数値計算)。矢印は流れの向きを表しており、色が白いほど流れが強い。芯の外形を破線で概略的に示した。背景色は超流体の場に相当する巨視的波動関数(複素関数)の位相θを表している。

資金情報

 本研究はJSPS科研費 JP17K05549,JP18KK0391,JP20H01842の助成を受けたものです。
 本研究の一部は「大阪市のふるさと寄付金(市立大学振興)」を財源とした
「グローカル人材育成事業(研究支援)」による支援を受けて行われたものです。