公立大学法人大阪市立大学
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老化物質が発する蛍光を簡便に検出!~最終糖化産物から考えるアンチエイジング~

                         プレスリリースはこちらから
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆7/22  Yahoo!ニュース  
◆7/26  朝日新聞(夕)

本研究のポイント

◇体内から発せられる特定の蛍光が加齢に伴い増大することおよびその蛍光が
   老化の指標となる
最終糖化産物に由来することを、モデル生物『線虫』を用いて実証
◇生体に負担を与えることなく、体内の蛍光物質をモニタリングできる方法を開発
◇本蛍光測定法を用いて抗糖化作用を有する素材を、探索・評価するシンプルな実験系を開拓

概要

 大阪市立大学大学院生活科学研究科(研究当時)の西川 禎一(にしかわ よしかず)名誉教授(現:帝塚山学院大学 特任教授)、奈良女子大学研究院 生活環境科学系(研究当時)の小村 智美(こむら ともみ)助教(本学客員研究員も兼務、現:兵庫県立大学 環境人間学部助教)、東海大学農学部の山中 幹宏(やまなか みきひろ)准教授、島根大学生物資源科学部の西村 浩二(にしむら こうじ)准教授、エア・ウォーター株式会社の原 圭太(はら けいた)博士は、老化研究のモデル動物としてよく用いられる『線虫』を用いて、生体内で特定の蛍光を発する物質が加齢に伴い増加することを見出しました。その蛍光は最終糖化産物(advanced glycation end products: AGEs)に由来するもので、線虫の余命とも相関していることがわかりました。本モデルの測定技術は、今後、抗糖化素材の探索・評価への活用が期待されます。
 本研究成果は2021年 6月 7日(月)18時(日本時間)に国際学術誌「npj Aging and Mechanisms of Disease」へ掲載されました。

          図1:線虫

研究の背景

  グローバルな高齢化を迎え、認知症や癌など加齢性疾患に対する予防対策がますます重要になる中、生体内の『糖化』が老化や生活習慣病の重要な危険因子として注目されつつあります。糖化とは、生体内で糖の分子がタンパク質・脂質・核酸と非酵素的に結合し、最終糖化産物(AGEs)を形成する反応のことで、体内のAGEs量は、老化や糖尿病・動脈硬化など加齢性疾患に伴い増加することが知られており、生体内のAGEs量を測定すれば老化や加齢性疾患を予測する指標になると期待されています。しかし、ヒトや哺乳動物を用いた自然老化の実験には数年の期間を要し、AGEsの検出法も侵襲的(生体に直接的な負担を与える手法)な血液検査などが主流で、ELISA※1などの、抗体を用いる高コストかつ特殊な実験操作が必要となります。そのため、生体内の糖化と老化の関連性は未だ不明な点も多く、簡便に評価できる方法も確立されていないのが現状です。
 本研究グループは、AGEsの中には「蛍光性」を有するものがあるため、これを測定することで間接的にAGEsを査定できるのではないか、との仮説を立て、モデル生物『線虫(Caenorhabditis elegans2』を用いて生体内のAGEsと蛍光の関係性を明らかにし、ハイスループット3な評価法を開発することに成功しました。

※1 ELISA:抗体を使った免疫学的測定法のひとつ。
                 抗原抗体反応を利用して試料中の微量な生体物質を定量する方法。
※2 線虫(C. elegans、図1):体長は約1 mm、細胞数は約1,000個と小型であるものの、
                                           生殖系、消化系、神経系、筋肉系などの多様な組織をもつ。
                                           ヒトの遺伝子の約70%は線虫にも存在するため、線虫を用いて
                                           生物学的な仕組みを理解することはヒトについて理解することに繋がるとされ、
                様々な研究分野で利用されている。
※3 ハイスループット:膨大な数の試料から有用なものを迅速・高効率・低コストで見つけ出す手法。

研究の内容

 本研究では、まず若齢線虫と老齢線虫のタンパク抽出物を用いて、蛍光スペクトル解析を行い、老齢線虫のタンパク抽出物に特定の蛍光が増強されることを見出しました(図2)。そして、その蛍光を生体においても検出できる手法を開発し、同一個体を経日的に追跡観察したところ、加齢に伴い蛍光値の上昇が見られました。加えて、長寿命の線虫変異体や、抗糖化作用を有し線虫の寿命を延長させるリファンピシンを投与した線虫において蛍光が低下すること、逆に糖化作用の強いリボースを投与した線虫では蛍光が上昇することも確認しました。さらに、蛍光を発しない若齢線虫のタンパク抽出物を人工的に糖化させたところ、老齢線虫と同一波長の蛍光を発したことから、本蛍光とAGEsと老化の関連が強く示唆されました。そこで、老若線虫に発現する全タンパク質解析による比較や蛍光顕微鏡観察を行った結果、本蛍光がAGEs化されたビデロジェニン4に由来することがわかりました(図3)。
 以上のことから、線虫体内から発せられる特定波長の蛍光はAGEsを反映しており、これを測定することで体内のAGEs量を推定し、老化の指標にできる可能性が示唆されたといえます。

※4 ビテロジェニン:卵黄タンパク前駆物質であり、卵黄の形成に関わる。

図2. 若齢線虫と老齢線虫の蛍光強度               図3.若齢線虫と老齢線虫の蛍光顕微鏡画像(蛍光部:青色)
  (赤いほど蛍光強度が高いことを示す)

掲載誌情報

【雑誌名】npj Aging and Mechanisms of Disease
【論文名】Autofluorescence as a non-invasive biomarker of senescence
     and advanced glycation end products in Caenorhabditis elegans
【著 者】Tomomi Komura, Mikihiro Yamanaka, Kohji Nishimura,
     Keita Hara, and Yoshikazu Nishikawa
【論文URL】https://www.nature.com/articles/s41514-021-00061-y

今後の展開

 本研究は、モデル生物である「線虫」を用いて、老化指標となる蛍光物質を生体に負担を与えることなく測定することで、個体の老化速度や生体内のAGEs量のハイスループットな評価を可能にしました。線虫の体は透明であるため、生きたまま体内の蛍光強度を観察することができ、また寿命が約3週間と短いため、今後、本手法を用いることで、抗糖化や抗老化に関わる食品素材の探索にも活用できるものと期待されます。

共同研究・資金等

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(19K15788)、双葉電子記念財団、三島海雲記念財団の支援を受けて実施されました。