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世界初!フラックスコンパクト化された理論におけるスカラー場の質量生成に成功

                         プレスリリースはこちらから
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆7/8  マイナビニュース

本研究のポイント

ファインマン図による摂動計算と有効ポテンシャルの計算により、世界で初めてスカラー場の
 有限質量が生成されることを示すことに成功。
◆標準模型を超える新物理の模型構築に新たな可能性を開拓。

概要

 大阪市立大学大学院 理学研究科 丸 信人(まる のぶひと)准教授と同研究科後期博士課程2年生 廣瀬 拓哉(ひろせ たくや)大学院生は、磁場が入った余剰空間にコンパクト化された高次元理論において、高次元ゲージ場の一部であるスカラー場1の質量に対する質量補正を与える運動量積分の発散構造を解析し、スカラー場の有限質量を生成する相互作用を分類しました。その中で一番簡単な相互作用を導入した6次元スカラー量子電磁力学において、ファインマン図2による摂動計算と有効ポテンシャルの計算により、スカラー場の有限質量が生成されることを世界で初めて示すことに成功しました。
 本研究成果は、2021年 6 月 28 日(月)、「Journal of High Energy Physics」に掲載されました。

1スカラー場…場の物理量がスカラー(大きさ)だけで表現できる場のこと。
2ファインマン図…場の量子論で、時空における素粒子の相互作用を直感的に表した図。

研究の背景

 素粒子論は、分割不可能な基本粒子(素粒子)の存在とその素粒子が受ける力(相互作用)について明らかにする研究です。現在までのところ、クォーク・レプトンと呼ばれる物質粒子と強い力、弱い力、電磁気力の3つの力を媒介する粒子と素粒子に質量を与えるヒッグス粒子が素粒子として知られています。それらの素粒子と3つの相互作用は、標準模型で記述されており、実験データをよく説明しています。しかし、標準模型では、ヒッグス粒子の質量を予言できず、その量子補正が実験値に比べ非常に大きくなり、パラメターの間に不自然な微調整が必要になります。この問題(階層性問題という)を解決するためには、標準模型を超える新物理への拡張が不可欠であり、様々な理論が提唱されています。標準模型を超える新物理においてヒッグス粒子の質量は、新物理のエネルギースケールで決まりますが、現在まで新物理の兆候が発見されていないため、新物理のエネルギースケールとヒッグス粒子の実験値の乖離が広がっており、微調整問題が再燃します。

研究の内容

 本研究では、磁場が入った余剰次元空間を小さく丸めた(コンパクト化された)高次元理論におけるゲージ場の一部であるスカラー場の質量が生成されることを世界で初めて示しました。このスカラー場は、余剰空間の並進対称性が自発的に破れることにより生ずる南部・ゴールドストン粒子(NG粒子)であり、質量が生成されないことが知られています。自然界には質量のないスカラー粒子が存在しないために、このスカラー場が実在するためには質量を生成する必要があります。一方、余剰空間の並進対称性が相互作用によりあからさまに破れるとNG粒子であるスカラー場の質量が生成されることが知られています。
 そこで私たちの研究では、スカラー場の質量に対する量子効果を与える運動量積分の発散構造を詳細に解析し、その積分が有限になる条件を導出しました。さらに、その条件を満たす相互作用の形を分類し、その中で一番簡単な相互作用を導入した6次元スカラー量子電磁力学理論において、ファインマン図による摂動計算と有効ポテンシャルの計算により、スカラー場の有限質量が生成することを世界で初めて示しました。

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 スカラー場の質量に寄与する最低次の量子効果のファインマン図
左図はスカラー場の4次の相互作用1個による寄与で、右図はスカラー場の3次の相互作用2個による質量への寄与。
ループの部分がスカラー場による量子効果を表す。

期待される効果

 上記の研究成果によって、高次元ゲージ場由来のスカラー場を素粒子標準模型のヒッグス粒子と同一視する可能性がすぐに思いつきます。スカラー場の質量を得るために導入した相互作用が何らかの機構によって、余剰次元がコンパクト化される新物理のエネルギースケールとは別のテラ電子ボルトスケール付近に生成されると、パラメターの不自然な微調整なしにヒッグス粒子の質量を予言できます。ヒッグス粒子の質量だけでなく、標準模型では予言できないヒッグス粒子のポテンシャルも予言され、電弱対称性の破れの起源の解明に迫ることができます。フラックスコンパクト化された理論に基づく標準模型を超える新物理の模型構築に新たな可能性が拓かれることが期待されます。

今後の展開について

 本研究で明らかにした高次元ゲージ場由来のスカラー場の質量及びポテンシャル生成機構は、ヒッグス粒子のみならず、初期宇宙に生じたと考えられるインフレーションにおけるインフラトン場やその存在が確実視されている暗黒物質に代表される他のスカラー場にも適用でき、素粒子論的宇宙論においても新たな可能性を生み出します。また、本研究で考察しているフラックスコンパクト化された理論は、究極の理論と期待されている超弦理論の低エネルギー有効理論としてしばしば登場し、超弦理論に基づいた素粒子模型構築に対しても、新しいアプローチを提供し絶大な波及効果が期待されます。

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of High Energy Physics06 (2021) 159(IF=5.9)
【論 文 名】Nonvanishing Finite Scalar Mass in Flux Compactification
【著    者】廣瀬 拓哉、丸 信人
【掲載URL】https://link.springer.com/article/10.1007/JHEP06(2021)159

資金・特許等について

 日本学術振興会 科学研究費 基盤研究C JSPS KAKENHI Grant Number 17K05420