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94人の患者を対象に検証 心不全患者一人一人に適切な運動量の決定に光

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本研究のポイント

◇心不全患者が負荷を自覚するほどの運動を行った際、酸化ストレスが増加した患者は予後不良になるということが明らかに
◇この成果から、運動時の酸化ストレスの変化を評価することにより、心不全患者一人一人の適切な運動量を決定できる可能性を示唆

概要

 大阪市立大学大学院 医学研究科 循環器内科学の柴田 敦(しばた あつし)病院講師、泉家 康宏(いずみや やすひろ)准教授らの研究グループは、運動を行った際に酸化ストレスが増加する心不全患者が、予後不良となることを明らかにしました。
 慢性心不全患者は超高齢化社会において、急激に増加しており、現在は「心不全パンデミック」とも呼ばれています。しかし、治療は対症療法が中心で、病気の進展を防ぐことができないため、高い再入院率・死亡率が社会的に問題となっています。これまで心不全患者の予後改善には有酸素運動が有効とされていましたが、適切な運動量や運動方法はまだ定められていません。
 本研究では、2013年7月から2015年3月に大阪市立大学医学部附属病院に入院した94人の心不全患者を対象に、運動に伴う酸化ストレスの増減が心不全の予後に与える影響を検討しました。その結果、心肺運動負荷実験で、酸化ストレスが上昇した心不全患者の予後は不良であることが明らかになりました。この結果から、心不全患者の適切な運動量は、運動時の酸化ストレスの変化を評価することで決定できる可能性があることを示唆します。
 本研究の成果は、「European Heart Journal : ESC heart failure」(IF=4.411)オンライン版に2021年7月29日に掲載されました。

【発表雑誌】European Heart Journal : ESC heart failure
【論文名】Increased oxidative stress during exercise predicts poor prognosis in patients with acute decompensated heart failure
【著者】Atsushi Shibata, MD, PhD1,Yasuhiro Izumiya,MD,PhD1,Yumi Yamaguchi,MD1,Ryoko Kitada,MD,PhD1,Shinichi Iwata,MD,PhD1,Shoichi Ehara,MD,PhD1,Yasukatsu Izumi,MD,PhD2,Akihisa Hanatani,MD,PhD1 and Minoru Yoshiyama,MD,PhD1
【論文URL】http://doi.org/10.1002/ehf2.13538

研究者からのコメント

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柴田 敦 病院講師

心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだんと生命を縮める病気です。本研究成果によって、心不全治療の中でも運動療法におけるテーラーメード医療を提供できることにつながるのではないかと考えています。

 

背景

 慢性心不全患者は超高齢化社会において、人口減少に反して急激に増加しています。治療方法は、薬物療法・デバイス治療に加え、心臓リハビリテーションが導入され、予後を大きく改善させつつありますが、治療の多くは対症療法が中心のため、病気の進展を防ぐことが出来ないことも多く、高い再入院率・死亡率が社会的にも問題となっています。そこで重要になるのが再入院・予後を予測する指標です。低心機能の心不全患者においては、以前より左室駆出率で評価した心機能よりも運動耐容能が予後に関連することが示されています。心不全における運動療法は運動耐容能を改善させることで、心不全患者の予後改善に寄与すると考えられています。運動療法による運動耐容能改善効果は骨格筋や末梢血管などの末梢機序を介するものと考えられてきましたが、未だに全ての機序の証明はなされていません。心不全患者に対しては以前より、有酸素運動が行われてきましたが、至適な運動様式は定まっていないのが現状です。
 近年、一過性かつ軽度の酸化ストレスはエネルギー代謝やタンパク質合成のシグナル因子として働き、適度な運動によってもたらされる生理機能の適応には酸化ストレスシグナルが一部寄与していることが示されています。しかしながら、安静時から酸化ストレスにさらされている心不全患者にとって、運動による酸化ストレスの変動が生理機能や病態形成に与える影響は明らかになっていません。
 そこで本研究では、運動に伴う酸化ストレスの増減が心不全の予後に与える影響を検討しました。

研究内容

 2013年7月から2015年3月に心不全増悪で大阪市立大学医学部附属病院に入院となり、心臓リハビリテーションプログラムに参加した94名を対象にしました。退院前に負荷を自覚するほどの運動量で心肺運動負荷試験を施行し、試験前後の血液採取からわかる酸化ストレスマーカーの一つであるd-ROM値を測定しました。運動負荷試験前後でのd-ROM値の変化をΔd-ROMとし予後との関係を検討しました。
 運動により酸化ストレスが増加する群(Δd-ROM-positive group)と酸化ストレスが低下する群(Δd-ROM-negative group)へ分類したところ、生存時間分析で全死因死亡はΔd-ROM-negative groupよりもΔd-ROM-positive groupで有意に多いことが分かりました(図A)。また、心不全による再入院もΔd-ROM-positive groupで有意に多いことが分かりました(図B)。

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 また、Δd-ROM値の上昇は、死亡リスクの増加と関連することがわかり、Δd-ROM値は体格や運動耐容能に関わらず、予後規定因子であることがわかりました。

今後の展開について

 本研究から、心不全患者では運動に伴い、抗酸化能が増強し酸化ストレスが軽減する場合、運動は有益なものとなりますが、運動に伴い酸化ストレスが更に増強する場合、運動が不利益になりうる可能性が示されました。本結果により、運動に伴う酸化ストレスの増減を見極めることで、患者にとって適切な運動様式・運動量を決定できる可能性があると考えられます。
 心不全患者に対する運動療法におけるテーラーメード医療提供のためには、従来の運動療法に比べて今後酸化ストレスの変動から導き出した運動様式・運動量が、効果が高いことを示していく必要があります。また、心不全患者における運動による酸化ストレスの増加が予後に悪影響を及ぼすメカニズムの解明も重要になってくると考えます。

資金情報

 本研究は、科研費(C-19K08493:研究代表 泉家康宏、C-24591066:研究代表 葭山稔)の対象研究です。