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世界初! 2種類の超流動※1体の界面模様の形成機構を解明 量子流体力学※2の発展につながる研究成果

                                                                         プレスリリースはこちらから

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆8/20  毎日新聞Web
◆8/20  SankeiBiz

概要

 近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)理学科物理学コース准教授 笠松健一、大学院総合理工学研究科博士前期課程2年 小久保治哉、大阪市立大学大学院理学研究科(大阪府大阪市)数物系専攻および南部陽一郎物理学研究所 講師 竹内宏光らの研究グループは、流体の粘性が消失した超流動体を想定して、流体力学において基本的な不安定現象である「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」※3の解析を行い、流体の速度と界面の厚さに依存して様々な界面模様が形成されることを世界で初めて明らかにしました。また、その模様が、「ウェーバー数」※4と呼ばれる普遍的な定数によって分類できることを明らかにしました。この研究成果は、近年注目を集める「量子流体力学」の発展につながることが期待されます。
 本件に関する論文が、令和3年(2021年)8月14日(土)に、アメリカ物理学会が発行する学術雑誌“Physical Review A”に掲載されました。

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 (a)フィンガー模様                 (b)ジッパー模様                  (c)シールスキン模様
赤い流体は右向きに、青い流体は左向きに流れている
図1 2種類の超流動体(赤と青の領域)の界面(黄緑)が形成する様々な模様

1.本件のポイント

● 2種類の超流動体の界面において、ケルビン・ヘルムホルツ不安定性によって形成される界面模様の種類とその形成機構を世界で初めて解明
● 界面模様は「ウェーバー数」と呼ばれる普遍的な定数によって分類されることを解明
● ミクロなスケールにおける流体界面の不安定現象の解明により、量子流体力学の更なる発展につながることに期待

2.本件の内容

 密度などが違う2種類の流体が接していて、お互いの流れる速度が異なる場合、その境界面には波が発生することが知られています。この現象は「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」と呼ばれ、空に浮かぶ波状雲や木星の渦巻き模様が発生する仕組みとして理解されています。このような現象を流体の粘性が消失した超流動体を用いて研究することによって、流体力学の基本的な理解をミクロの物理法則である量子力学の領域にまで拡張させることができます。
 本研究では、超流動体のケルビン・ヘルムホルツ不安定性に関して系統的な数値シミュレーション解析を実施し、不安定性によって生じる界面模様の挙動が、古典流体力学で知られる模様から、古典流体では見られない量子流体力学特有の模様に変化する様子を明らかにしました。また、その変化が「ウェーバー数」と呼ばれる普遍定数によって特徴付けられることを理論的に示しました。

3.論文掲載

掲載誌:Physical Review A(インパクトファクター:3.140@2020)
    アメリカ物理学会刊行のオンラインマガジン“Physics Magazine” に、
    ニュースとして取り上げられる
論文名:Pattern formation of quantum Kelvin-Helmholtz instability in binary
            superfluids
          (2成分超流体における量子ケルビン・ヘルムホルツ不安定性のパターン形成)
著  者:小久保治哉1,笠松健一2,竹内宏光3
所  属:1 近畿大学理工学部理学科物理学コース(当時、現在は近畿大学大学院
             総合理工学研究科)、2 近畿大学理工学部理学科物理学コース、
             3 大阪市立大学大学院理学研究科数物系専攻および南部陽一郎物理学研究所

4.研究詳細

 粘性をもたない超流動体について、ケルビン・ヘルムホルツ不安定性のシミュレーションを行うために、超流動を示す物質として知られる冷たい原子気体5のボース・アインシュタイン凝縮体6を想定しました。2種類の原子気体を用いると、2種類の超流動体が容器の中に共存している状況が実現し、その2種類の流体の速度や相互作用の大きさを実験的に変化させることが可能です。研究では、流体の相対的な速度と2つの流体の原子間の反発の強さに応じて、界面模様の様々な挙動を観測しました。反発の強さは、流体の混ざりやすさ、つまり2つの流体が混ざり合う界面領域の厚さを決定します。
 流体間の反発力が非常に強く、相対速度が遅い場合、界面は人の指のような形に伸びるような変形をおこし、風になびく草のように振る舞います(図1(a))。この挙動は古典流体力学の結果と類似しているものです。一方、界面が揺らぐ波長が界面の厚さと同じぐらいになってくると、模様に量子力学的な挙動が現れます。この量子力学的な挙動は、以下の2つの状況で生じ得ます。1つ目は、相対速度が上昇したときに、成長した指がある長さで折れて横にスライドし、再び隣の指と合流することにより、ジッパーのような模様が生じます(図1(b))。2つ目は、流体の反発力を弱めて界面が厚くなったときに生じ、一方の流体の流れが他方に食い込むように縞模様を形成します(図1(c))。この構造は、ノルディックスキーヤーが斜面を登るとき、後ろに滑らないようにスキーの底面に取り付けられるアザラシの毛皮(シールスキン)になぞらえられます。
 流体力学では流れの状態を様々な無次元量によって特徴づけますが、上記で見られた模様の特徴は超流動体の界面に対して拡張されたウェーバー数と呼ばれる無次元量によって特徴づけられ、ウェーバー数が小さい場合は古典流体的な振る舞いとなり、逆にウェーバー数が大きいときは量子流体的になることを示しました。

5.研究支援

  本研究は、JSPS科研費 18K03472,JP20H01842,JP20H01843,18KK0391の助成を受けたものです。また、本研究の一部は、「大阪市のふるさと寄付金(市立大学振興)」を財源とした「グローカル人材育成事業(研究支援)」による支援を受けて行われたものです。

6.用語解説

 ※1 超流動:流体の粘性が消失した状態を指す。絶対零度近傍の液体ヘリウムや
        冷却原子気体等がこの性質を示すことが知られている。

※2 量子流体力学:超流動現象は量子力学的効果によって生じる現象であり、
       超流動体が示す流体力学を量子流体力学と呼ぶ。

※3 ケルビン・ヘルムホルツ不安定性:流体力学上の概念で、層を成しており各層
       ごとに密度の異なる流体が、お互いに異なる速度で水平運動するときに発生
      する。大気中でみられる波状雲や木星で観測される大赤斑(渦巻き模様)などが
      この不安定性により形成すると考えられている。

※4 ウェーバー数:流れの慣性力と表面張力の比を表す無次元量。

※5 冷たい原子気体:原子光学技術により、絶対温度で10-9K(ナノケルビン)程度
       の温度にまで冷却された中性原子の気体のこと。

※6 ボース・アインシュタイン凝縮:ある温度以下で巨視的な数のボース粒子がある
       1つの量子力学的状態に落ち込む相転移現象。量子力学的なボース粒子の満たす
       統計性であるボース=アインシュタイン統計の性質から導かれる。

7.本資料の配布先

 大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、東大阪市政記者クラブ

問い合わせ先

近畿大学広報室 担当:坂本
TEL:06-4307-3007 FAX:06-6727-5288
E-mail:koho@kindai.ac.jp

大阪市立大学広報課 担当:國田
TEL:06-6605-3411 FAX: 06-6605-3572
E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp