「緊急事態宣言下」での個々人の行動変化を明らかに~郊外都市でのコロナ禍の人流変化を解明~
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本研究のポイント
◇緊急事態宣言下において、郊外都市に住む人々の生活圏がおよそ半減したことを、2020年4月の緊急事態宣言(1回目)時のデータから解明。
◇緊急事態宣言前後では、人々の移動行動(時間帯、場所、手段)が大きく変化したことを明らかに。
◇ウォーカブルな都市を実現に向けて、人々の行動変容促進の可能性を示唆。
1.概要
大阪市立大学大学院 生活科学研究科 居住環境学講座の加登 遼(かとう はるか)助教らの研究グループは、郊外都市における新型コロナウイルス感染症の流行に伴う個人の移動行動の変化を調査し、個々人の生活圏が都心部から都市内での移動へと変化しており、およそ半分、距離にして約9.7km減少していることを明らかにしました。また、朝夕の時間、駅舎に多く見れていた人流は昼間の公園へと変化がみられ、移動手段は、自動車から自転車や徒歩に変化していたことも明らかにしました。
新型コロナウイルス感染症の流行は、我々の生活に大きな影響を与えています。その感染者数の増加に影響を与える要因として、大阪駅などの主要なエリアにおける人流データは重要な指標の一つとして政策立案の場に活用されてきました。しかし、個々人の生活変容を促すためには、個々人の生活行動の変化を把握する必要があります。
本研究では、大阪府茨木市を事例に、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月と、その1年前の2019年4月における個々人の移動行動の変化をスマートフォンの位置情報履歴ビッグデータ(Agoop社ポイント型流動人口データ)を用いて調査しました。
調査の結果、緊急事態宣言の外出自粛要請により、郊外都市では、個々人が徒歩や自転車を中心とした生活行動に変化していたことが明らかになりました。短期的には、緊急事態宣言の発令などにより、人々の生活行動を抑制する方策が求められるものの、中期的には、徒歩や自転車を中心とした「新しい生活様式」を支えるウォーカブルな都市の実現に向けた制度を充実させることで、人々の生活行動に即した行動変容を促すことが可能になります。そして、コロナ禍を経てウォーカブルな都市を実現することで、長期的に迎える高齢化を伴う人口減少にあっても、人々の健康な暮らしを支えることができると期待されます。
研究者からのコメント
加登 遼 助教
市民に生活変容を促す上で、都市空間をデザインすることは、有効な方法の一つです。近い将来、少子高齢化と人口減少が予測される郊外都市は、コロナ禍を通して、ウォーカブルで歩きやすい都市計画が求められます。
2.研究の内容
一連の論文(「5.掲載誌情報」ご参照)は、大阪府茨木市を事例とした研究です。大阪駅周辺などの主要な都心部エリアの人流は既に調査されており、政策立案の場に活用されてきました。しかし、人々の生活行動の中心として、コロナ禍による広域な移動の自粛の影響を受ける郊外都市は、未解明な部分が多くありました。そこで、スマートフォンの位置情報履歴ビッグデータ(Agoop社のポイント型流動人口データ)を用いて、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月と、その1年前の2019年4月における個々人の移動行動の変化を分析しました。そのデータは、1日あたり、人口約4~5%の人々の約160万ログを用いて、日々の移動行動を分析したことになります。図1は、研究の全体像を整理したものです。
図1 分析の全体像
その結果、個々人の生活圏が、2020年4月に、都心部から都市内での移動へと変化しており、およそ半分、距離にして約9.7km減少していることを明らかにしました(図2)。
図2 2020年4月と2019年4月の生活圏の変化
また、朝夕の時間、駅舎に多く見られていた人流は、2020年4月の緊急事態宣言下では、昼間の公園へと変化していたことがみられ、移動手段は、自動車から自転車や徒歩に変化していたことも明らかにしました(図3)。
図3 高密度な時空間が形成されている様子
3.今後の展開について
新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する現在、いかにして市民の生活変容を促すことができるでしょうか? 新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する現在、感染者の急速な増加を抑制するためには、短期的には、緊急事態宣言の発令などで人々の生活行動を抑制する方策が求められます。しかし、中期的には、徒歩や自転車を中心とした「新しい生活様式」を支えるウォーカブルな都市の実現に向けた制度を充実させ、人々の生活行動の変化に即した行動変容を促すことが必要であると考えられます。そのために加登助教らの研究グループは、調査期間や対象地域を増やしながら、人々の生活行動の変化に即した行動変容を促す方策について、都市空間のデザインの観点から、今後も研究を行っていきます。
4.資金情報
本研究は、科研費(21K14318,ポイント型流動人口によるウォーカブル近隣環境の時空間研究:新しい生活様式に向けて)の対象研究です。
5.掲載誌情報
論文[1] 2021年7月16日掲載
【発表雑誌】S. C. M. Geertman, Christopher Pettit, Robert Goodspeed and Aija Staffans (ed), Urban informatics for future cities, Springer Nature Switzerland AG, pp.51-67.
【論 文 名】 Development of a Spatio-temporal Analysis Method to Support the Prevention of COVID-19 Infection: Space-Time Kernel Density Estimation Using GPS Location History Data
【著 者】Haruka Kato
【掲載URL】https://doi.org/10.1007/978-3-030-76059-5_4
論文[2] 2021年7月2日掲載
【発表雑誌】Sustainability, Vol.13, Issue13. No.7442. (IF=3.251)
【論 文 名】 Changes in Walkable Streets during the COVID-19 Pandemic in a Suburban City in the Osaka Metropolitan Area.
【著 者】Haruka Kato, Daisuke Matsushita
【掲載URL】https://doi.org/10.3390/su13137442
論文[3] 2021年8月11日掲載
【発表雑誌】Sustainability, Vol.13 Issue16, No.8974. (IF=3.251)
【論 文 名】 Impact of COVID-19 Pandemic on Home Range in a Suburban City in the Osaka Metropolitan Area.
【著 者】Haruka Kato, Atsushi Takizawa, Daisuke Matsushita
【掲載URL】https://doi.org/10.3390/su13168974