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常識を覆す大発見!新種のスキルミオンを発見

                                                                          プレスリリースはこちらから
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆2/10  マイナビニュース、オプトロニクスオンライン

本研究のポイント

◇磁性量子流体の強磁性相で半整数のトポロジカル量子数※1をもつ孤立したスキルミオン※2を発見
◇この系では磁壁※3にスピン流※4を作用させることでスキルミオンが生成される
◇新種のスキルミオンはスピン特異点をその内部に有することで位相幾何学的に矛盾のない構造をとり、特異点には局所的に液晶のような状態が現れる

 ※1トポロジカル量子数…スキルミオンを特徴づける位相幾何学(トポロジー)に関する離散的な量。
※2スキルミオン…ベクトル場中を粒子の様に振舞う位相幾何学的に安定な孤立波。
※3磁壁…離散的対称性の破れに起因した最も単純な位相欠陥であるドメイン壁の一形態。上向きの磁区(スピンが均一に上を向いた空間領域)と下向きの磁区を隔てる境界領域
※4スピン流…上向きスピンをもつ粒子と下向きスピンをもつ粒子の対向流によって実現するスピンの流れ

概要

  大阪市立大学大学院 理学研究科および南部陽一郎物理学研究所の竹内 宏光(たけうち ひろみつ)講師は、磁性量子流体におけるスピン流と磁壁の相互作用によって引き起こされる量子ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の結果、新種の磁気スキルミオンが生じることを発見しました。通常、孤立したスキルミオンのトポロジカル量子数は整数ですが、今回発見された新種のスキルミオンはその内部にスピン特異点を自発的に形成することで半整数の量子数をもつ非対称な織目構造を保持していることがわかりました。特異点の形成は一般にその系のエネルギーを上昇させるため好まれませんが、新種のスキルミオンではスピン特異点に局所的に液晶のような状態が現れることでエネルギーの上昇が抑制されています。このような構造を持つスキルミオンは他の系ではほとんど知られておらず、今後、幅広い分野への波及効果が期待されます。
 本研究成果は、米国物理学会誌『Physical Review A』に2022年1月31日に掲載されました。

研究者からのコメント

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竹内 宏光講師

最近の別の研究成果から、この系で未知の位相欠陥が現れることはあらかじめ予想できていました。ところが、本研究でそれが新種のスキルミオンであると具体的に判明したときには本当に驚きました。

研究の背景

 スキルミオンは自発的対称性の破れを伴った相転移後に現れる位相欠陥※5の一種です。相転移により生じた位相欠陥は物性に大きく影響を及ぼし、その系を理論的に記述する基本要素と見なすことができます。磁性体中に生じることで知られる磁気スキルミオンは、その秩序状態を記述するベクトル場に渦状の模様(織目構造)(図1左)を形成し、その模様を保持しながら並進運動することで2次元空間中の荷電粒子のように振る舞います。スキルミオンは素粒子物理の分野に由来する概念ですが、物性物理の分野にも幅広く適用されています。古くは1970年代に発見された超流動3He中の織目構造に応用され、最近では新たな科学技術として注目を集めるスピントロニクス分野でも関心が高まっています。

 ※5位相欠陥…自発的対称性の破れを記述する場が相転移の過程で空間的に非一様に成長することで取り残さる局所的なエネルギーの集中領域。トポロジカルソリトンとも呼ばれる。

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研究の内容

  磁性をもつ冷却原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体(Bose-Einstein condensate、以下BEC)のような磁性量子流体では、本質的な理解の妨げとなる不純物や熱揺らぎ等の影響が近似的に無視できるため、織目構造やスピン流が本来もつ固有の性質を調べる系としてとても優れています。本研究は、この磁性量子流体の強磁性相における磁壁にスピン流を作用させることで、特殊な織目構造を持つスキルミオンが生成されることを明らかにしました。
 この系ではスピン流の強さに応じて内部(芯)構造の異なる2種類の磁壁(AF芯磁壁とBA芯磁壁)が実現し、新種のスキルミオンは後者の不安定性によって生じることが数値実験で示されました(図2)。この不安定性はスピン上向きと下向きの領域を2つの流体と見なすと、流体力学で知られるケルビン・ヘルムホルツ不安定性(KHI)の磁性量子流体版といえる現象です。KHIの機構により磁壁が波打った後、磁気スキルミオンが磁壁から放出されます。放出された磁気スキルミオンは渦スキルミオンとも呼ばれ、超伝導や超流動で現れる量子化された渦(量子渦)の性質も備えています。このスキルミオンは磁壁に囲われた構造をとり、囲いの外側と内側ではスピンの向きは上下反対を向いています。このとき、スキルミオンの織目構造は位相幾何学によって量子化されるため、通常そのトポロジカル量子数NSは整数となります。これはちょうど、通常の荷電粒子は素電荷の整数倍の電荷量しかもたないことに類似しています。ところが、この系では半整数の量子数をもつ異常な織目構造が発見されたのです。
 この異常性を説明するために、図1に整数と半整数の織目構造を並べて表示しました。左の図をよく見ると、スピンの3次元方向がすべて1回ずつ(立体角4π)現れていることがわかります。ちょうどこの回数が量子数NS=1に対応します。一方、右の構造ではその半分の方向(立体角2π)しか出現しておらず、NS=1/2に相当します。この織目構造はスピン方向が不連続に変化する特異点を有することで実現されています。この事実は量子渦の循環量子数※6 NVとNSの間に成り立つ位相幾何学的な関係式NS=NV/2によって以下の様に裏打ちされます。数値実験の4枚目の写真の最右に位置するスキルミオンの循環量子数は量子位相のプロットからNV=1であることが読み取れます。すなはち、NS=NV/2=1/2となり、スキルミオンのトポロジカル量子数が半整数であることが算出されるのです。


※6循環量子数…量子渦を特徴づける位相幾何学(トポロジー)に関する離散的な量。渦の強さを表している。

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今後の展開と期待される波及効果

 本研究は磁性量子流体として実在する7Liの冷却原子気体BECを想定しており、近い将来その理論的予言が実験で検証されることが期待されます。上でも述べたように、スキルミオンは対称性が自発的に破れた系の物性を支配する基本要素になり得ます。それは、例えば、電流が素電荷をもつ粒である電子の流れとして解釈されることと類似しています。これまで孤立したスキルミオンのトポロジカル量子数の最小単位NS=1 が「素電荷」と認識されてきたわけですが、実はその半分になり得るということを本研究は示唆しており、この発見は長い歴史を持つスキルミオンの研究に大きな変革をもたらすかもしれません。果たして上記のようなスピン特異点をもつ織目構造はエネルギー的に安定な存在なのでしょうか。数値実験によると、この構造は長時間安定に存在するようですが、この疑問に対する正確な答えはまだわかっていません。興味深いことに、特異点の構造をよく観察するとそのヒントが浮かび上がってきます。スピン特異点は磁壁上に存在しており、そこではBA芯壁がAF芯壁に置き換わっており、そこではネマティック液晶のような秩序(ネマティック秩序)が局所的に現れています。この局所的な秩序形成は特異点が存在することによるエネルギー上昇を抑制する役割を担っています。また、特異点は中心から離れた位置に存在しており、非対称な構造をとっています。このように磁性とネマティック秩序が共存して対称性を自発的に破った位相欠陥は、量子楕円渦と呼ばれる構造としても最近報告されています。この両者に対して統一的な解釈を与えることで、今回発見された新種のスキルミオンが素粒子物理やスピントロニクスなどの他の幅広い分野でも実現するための一般的な条件が見つかるかもしれません。

掲載誌情報

【雑誌名】 Physical Review A
【論文名】Spin-Current Instability at a Magnetic Domain Wall in a Ferromagnetic Superfluid: a Generation Mechanism of Eccentric Fractional Skyrmions
【著 者】Hiromitsu Takeuchi
【U R L】https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevA.105.013328

資金情報

本研究はJSPS科研費 No. JP18KK0391、 No. JP20H01842、 No. 20H01843の助成を受けたものです。本研究の一部は「大阪市のふるさと寄付金(市立大学振興)」を財源とした「グローカル人材育成事業(研究支援)」による支援を受けて行われたものです。