公立大学法人大阪市立大学
Facebook Twitter Instagram YouTube
パーソナルツール
新着情報

レーザー照射だけで蛍光性ポリマーの発光色を完全にコントロール

                                                                          プレスリリースはこちらから

本研究のポイント

◇ブラックシリコン上に形成したポリマー集合体を使い、その蛍光色をフルカラーRGB に近いバリエーションで可逆的にリモート制御することに初めて成功
◇独自開発したブラックシリコン光ピンセットを用いた「光の圧力」の全く新しい応用方法

概要

  大阪市立大学大学院 理学研究科の坪井 泰之(つぼい やすゆき)教授らのグループは、神奈川大学 理学部化学科の東海林 竜也(しょうじ たつや)准教授、スウィンバーン工科大学、ロイヤルメルボルン工科大学と共同で、蛍光性ポリマーの蛍光の色をレーザー光の強度だけで青、緑、黄緑、黄色、オレンジ色に完全リモートかつ可逆的に自在にコントロールできる方法を開発しました。これは、坪井教授が独自開発したブラックシリコン光ピンセットを用いてはじめて可能になる技術で、純粋な電磁気学的な力である「光の圧力」の全く新しい応用です。本研究で初めて、材料を変えたり添加剤を用いることもなく、発光体に手を触れることなく、レーザー照射だけという簡便な方法でRGBフルカラーチューンに近い発光色の制御に成功しました。
 この研究成果はドイツの国際誌 Angewandte Chemie Int. Ed の電子版に2022年1月13日に掲載されました。

研究者からのコメント

220228-1.png
坪井 泰之教授

光マニピュレーション(光ピンセット)は二度のノーベル賞に輝いています。私たちはその化学への応用に取り組んでいます。私たちの開発したブラックシリコン光ピンセットは分子の捕捉と操作ができる可能性があります。この成果は、今までなかった、「ミクロな空間を照らすチューナブルな光源」の開発につながります。

研究の背景

 光科学、光テクノロジー、フォトニクスにおいて、発光の色(発光の波長)の制御は重要な問題です。通常、発光の色は発光体に固有の量子化された電子のエネルギー準位で決まってしまうため、いったん発光体の化学構造が固定されてしまうと、その発光の色を変化させるのは困難でした。従って、通常は発光体の化学構造を微妙に変化させるか、ナノ粒子の場合はそのサイズを変化させるか、溶液系の場合では溶媒を変化させたり(ソルバトクロミズム)、添加剤を加えたりするなどの方法で、発光の色を変化させてきました。これらはいずれも発光体や溶媒を取り換えるなど、発光体に手を触れることが必要で、応用に大きな制限がかかります。例えば、迅速な発光色の変化ができない、ミクロな空間(細胞の中など)を照らす光源になりえない、交換が不可能な閉じた系に応用できない、などは従来法では不可能でした。従って、「発光体を(周囲環境を含めて)一つに固定して、発光体に手を触れることなく、発光の色を変化させる方法」が望まれてきましたが、それは不可能なチャレンジのように思われていました。

研究の内容

  坪井教授らの研究チームは、ナノ・マイクロメートルサイズの物質・物体をレーザービームで捕捉し、操ることのできる「光ピンセット」の研究を展開してきました。今回、ペリレンと呼ばれる蛍光性色素で化学修飾したポリマーを、水中で光ピンセットを用いて捕捉しました。この時、特殊なナノ構造を表面に有するシリコン結晶(ブラックシリコン)を試料溶液中に沈めておくと、シリコンナノ構造の光電場増強効果により、ペリレン修飾ポリマーが捕捉され、局所的な濃度が上昇し、ポリマーの集合体を形成することを、発見しました。ペリレンは濃度が高くなるとエキシマ―と呼ばれる二量体の励起錯体を形成します。この励起錯体は蛍光を発しますが、濃度によってその蛍光色は可視域において変化します。坪井教授らは、この点に着目しました。捕捉用のレーザーの光強度を強くすると、光の圧力も強くなり、ブラックシリコン上に捕捉される集合体のポリマー濃度が濃くなります。逆に、レーザー光強度を弱くすると、その濃度は薄くなります。これに応じて、ポリマー集合体が放つ蛍光の色は変化することがわかりました。つまり、この「ブラックシリコン光ピンセット」の技術を水溶液中のペリレン修飾ポリマーに適用すれば、ブラックシリコン上にポリマー集合体を形成でき、その蛍光の色を「試料に全く手を触れずに」、レーザー光強度の変化だけで、青、緑、黄緑、黄色、オレンジ色とフルカラーRGB に近いバリエーションで可逆的にリモート制御することに成功しました(下図)。

220228-2.png

 

今後の展開について

 本研究はまだまだ萌芽的ではありますが、大いに発展を期待できる可能性を秘めています。濃度に依存して発光の色が変化する機構は、励起錯体、励起エネルギー移動に応用ができますから、本技術は可視域だけでなく、紫外域や近赤外域における発光色の制御にも適用できます。マイクロカプセルの中にナノ構造シリコンとペリレン修飾ポリマー水溶液を封入すれば、波長可変型の、マイクロ光源となりえます。これは、マイクロマシンの部品や細胞内バイオイメージングへの応用などが考えられます。現在、このような方向でさらなる発展を見込んだ研究を推進中です。

掲載誌情報

【雑誌名】 Angewandte Chemie Int. Ed
【論文名】Fluorescence Colour Control in Perylene-Labeled Polymer Chains Trapped by Nanotextured Silicon
【著 者】Ryota Takao, Kenta Ushiro, Hazuki Kusano, Ken-ichi Yuyama, Tatsuya Shoji, Denver P. Linklater, Elena Ivanova, Saulius Juodkazis, and Yasuyuki Tsuboi,
【U R L】https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202117227

資金情報

科研費 新学術領域研究(16H06507)
科研費 基盤研究B(20H02550)
キヤノン財団 研究助成
住友電工グループ社会貢献基金 学術・研究助成