最新の研究成果

遂に実現!複数の極限環境下での物質のふるまいを測定可能に。-スピンと格子が織りなす多彩な全磁気相をマッピング-

2022年6月9日

  • プレスリリース

研究成果のポイント

 ◇磁場と圧力の複合作用で現れるキラル三角格子反強磁性体※1の多彩な磁気相のマッピングに成功

 ◇パルス強磁場-高圧力下で動作する金属探知機の技術を応用した新しい磁化検出法を開発

 ◇微弱な量子磁性体の磁化を測定可能な磁場-圧力-低温複合極限領域を大幅に拡大

概要

大阪公立大学大学院工学研究科の高阪勇輔助教は、大阪大学大学院理学研究科の大学院生の二本木克旭さん(博士後期課程)、木田孝則助教、萩原政幸教授、東京大学物性研究所の金道浩一教授と上床美也教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の井上克也教授、ネール研究所のJulien Zaccaro博士らと共同でキラル三角格子反強磁性体CsCuCl3の飽和磁場※2を超える磁場範囲で圧力下の磁気相図を作成することに成功しました(図1)。
三角格子反強磁性体では、磁性イオン※3の持つスピンが格子の幾何学的フラストレーション※4の影響を受けるため、特定の方向にスピンが並んだ状態を一意に決めることが困難になることが知られています。この時、スピンの向きを制御する磁場と格子を変形する圧力を三角格子反強磁性体に同時に加えることで、フラストレーションが抑制され、物質の磁気的性質の劇的な変化が期待されます。

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図1-1)強磁場高圧力下磁化測定装置の概略図。パルス強磁場・高圧力発生装置の内部に試料と磁化検出コイルの両方を配置することで強磁場・高圧力下における微弱な磁化検出に成功。

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図1-2)三角格子反強磁性体CsCuCl3の磁場‐圧力相図。飽和磁場は、圧力増加に伴い高磁場側に移動し、最高圧力1.7ギガパスカルで40テスラまで到達。


今回、萩原教授らの研究グループは、最大磁場55テスラの強磁場と最高圧力2ギガパスカルの高圧力を同時に実現した極限環境下の実験装置を開発し、さらにLC5という従来とは全く異なる新しい磁化測定法を組み合わせたことで、三角格子反強磁性体が磁場と圧力によって様々な磁気相を誘起することを実験的に明らかにしました。この研究結果は、極限環境下において三角格子反強磁性体が見せる様々な磁気構造の理解につながります。

本研究成果は、国際学術誌「Physical Review B」に、2022年5月13日(金)に公開されました。


<用語解説>
※1 キラル三角格子反強磁性体
三角格子反強磁性体は磁性イオン※3が三角形の格子に位置して、隣り合う磁性イオンのスピンを反平行にする相互作用(反強磁性的相互作用)を持った磁性体のことを示す。キラルはキラリティ(カイラリティ)の事で、三角格子面のスピン配置が次の面に移る際に少しずつ右回り、あるいは左回りにらせんを描くような掌性(右手左手の関係)を有している事を示す。

※2 飽和磁場
物質中の全てのスピンが磁場方向を向いた時の磁場の大きさ。

※3 磁性イオン
磁性の源である有限のスピンを持つイオン。様々な方向を向いたスピンの総和が磁化に対応している。

※4 幾何学的フラストレーション 
三角格子反強磁性体において、図2のようにどれか二つのスピンを反平行におくと、残りのスピンの方向を決めることができなくなる。このような状態を引き起こす要因を幾何学的フラストレーションと呼ぶ。

※5 LC法
金属探知機やFMラジオの基礎となっている技術で、試料を内包した コイルとコンデンサからなるインダクタンス-キャパシタンス(LC)共振回路において、磁場中の試料の磁化の変化を共振周波数の変化から読み取る手法である。この手法では、微小なコイルを利用できるため、非常に狭い圧力発生空間との相性が良い。
 

特記事項

本研究成果は、2022年5月13日(金)に国際学術誌「Physical Review B」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: “Magnetic field and pressure phase diagrams of the triangular-lattice antiferromagnet CsCuCl3 explored via magnetic susceptibility measurements with a proximity-detector oscillator”
著     者: Katsuki Nihongi, Takanori Kida, Yasuo Narumi, Julien Zaccaro, Yusuke Kousaka, Katsuya, Koichi Kindo, Yoshiya Uwatoko and Masayuki Hagiwara
DOI:  https://doi.org/10.1103/PhysRevB.105.184416 

なお、本研究は、JSPS科学研究費助成事業研究(no. JP17H06137, JP17K18758, JP21H01035, JP19H00648, 25220803)及びJSPSの先端研究拠点事業の一環として行われました。また、本研究は大阪大学フェローシップ創設事業「超階層マテリアルサイエンスプログラム」及び日本科学協会の笹川科学研究助成の助成を受けたものです。


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本件に関する問い合わせ先

<研究に関して>
大阪大学 大学院理学研究科 教授 萩原 政幸(はぎわら まさゆき)
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