公立大学法人大阪市立大学
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研究・産学官連携

「渦」の縦糸と「物理」の横糸で紡ぐ非平衡・不安定系の学理の構築

研究成果の概要

6つの班による階層的研究を「渦」を中心的テーマとして、実験・理論の両面から遂行し、着実な成果を挙げた。
2019 年度分:各班で、順調な進展が得られた。第1音波・第2音波および光学観察という3つの技術を複合し,超流動吸込渦のコアおよびコア周辺の量子渦糸密度および液体の回転数の見積もりに成功した(矢野・小原)。ボース凝縮体を用いた実験では、アキシコンレンズを用い、原子を閉じ込める箱型ポテンシャルを作成することに成功した(井上・加藤)。テラヘルツ光渦発生システムおよび時間領域分光システムの整備及びキラルな半導体ナノ粒子の作製を行った(金・菜嶋)。超新星爆発からの重力波を解析するために、観測データを大阪市大へ連続的に転送する仕組みを整備した(神田・伊藤)。磁場を強い渦度を持った流体界面に平行にかけると、初期磁場の大きさに応じて界面の不安定性が抑えられることが確かめられた。バルクに渦が存在すると、それらは界面の不安定性を抑制するように運動することがわかった。(松岡)。量子重力に対するテンソル模型の指標を提案し、決定した(糸山)。2019 年4 月(梅田文化交流センター)、12 月(学術情報センター1 階)に workshop を、2020 年 1 月(学術情報センター10 階)国際研究集会を、このテ ーマに関し開催した。これらを通じて当該分野国内拠点形成を図り、一定の成功を収めた(糸山総括)。
2020 年度分:量子乱流の渦輪放出から乱流構造とその統計則を決定し、また吸込渦の渦度圧縮効果を明らかにした(矢野・小原)。原子を閉じ込める箱型ポテンシャルの作成を更に推し進めた(井上・加藤)。重力波観測実験 LIGO(米国), Virgo(欧州) , KAGRA(日本)の観測データを 10 秒程度の低遅延で大阪市大の計算機で受け取り、そのモニター解析表示を行なった(神田・伊藤)。金属メッシ ュ型マイクロアレイセンシング技術を確立、理学研究科鐘本氏と協力して、マイクロ波励起により発生するスピン流が伝達するエネルギーの変換効率の計測に成功した(金・菜嶋)。流体中に渦が存在する場合、渦の乱流エネルギーは磁気エネルギーに転嫁され、強い磁場増幅が起きることを発見した(松岡)。r階テンソル模型と r+1 テンソル模型に対するoperator/Feynman diagram 対応を提案し、構成した(糸山)。
マクロ流体の普遍則がミクロ凝縮体上でも実現されていることは確認できた。渦に関する工学的応用を進展させることができた。渦に関する自然現象の制御のためには磁場の印加が不可欠であると判明し、現在この方向性を推し進めている。古典及び量子重力に基づく不安定系は、物理学の新たなパラダイムを作ると予見できる。

評価1
渦を撚糸として、非平衡系に関するミクロから宇宙スケールまでの物理学の基礎的かつ先端的課題挑戦に協働する融合研究である。超流動量子渦、ボース凝集体、半導体量子構造の実験を束ねている点はユニークで、それぞれ新しい成果が論文発表されている。吸込量子渦は着眼点が面白く、原子閉じ込めの箱型ポテンシャル作成・テラヘルツ光渦発生には学理・技術両面での水準の高さを感じる。超新星爆発からの重力波検出のための逆問題的手法の開発は将来性を買いたい。テンソル模型では着実な進展がみられ、流体界面と渦・磁場の相互作用解析ではエネルギーの観点で新境地に達している。競争的外部資金の獲得が課題か。

評価2
「渦」は物理学の諸分野を貫通するテーマとして普遍的であると同時に,新しい展開を駆動するキーワードでもある.古典流体,電磁場,その結合体であるプラズマ,量子流体,重力波など,多様な対象,事象に対して俯瞰的な視野を拓こうとする意欲的な研究計画であり,其々のサブテーマについて着実な成果をあげている.また,俯瞰的立場からの国際研究会を主催し,成功をおさめている.今後,同様な問題意識をもつ研究者と,より広いネットワークを構築し,新しい展開を先導する役割を果たすことが期待される.