公立大学法人大阪市立大学
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研究・産学官連携

ユビキチン修飾系を標的とした新規抗炎症・抗癌剤の創出

研究成果の概要

我々は、直鎖状ユビキチン鎖という特異なユビキチン連結鎖を生成するヒトで唯一ユビキチンリガーゼ(LUBAC)を発見し、LUBACが炎症や免疫制御を司るNF-kBシグナルを活性化することや、その機能不全が各種疾患を引き起こすことを見出し、LUBACが重要な創薬標的となることを示してきた。本研究助成で我々は、まずLUBACに対する低分子阻害剤を25万個の化合物ライブラリーから探索し、HOIPIN-1(HOIP inhibitor-1)と命名した新規化合物を同定した(SLAS Discov. 2018に発表)。そこで、HOIPIN-1をリード化合物として7種(HOIPIN-2〜HOIPIN-8)の展開体を作製し、生物活性を評価したところ、HOIPIN-8が顕著な細胞毒性なしにHOIPIN-1に比べて約255倍LUBAC阻害活性が亢進していることを見出した(BBRC 2019に発表)。さらに我々は、HOIPIN-1やHOIPIN-8は、各種炎症性サイトカインや病原体由来分子パターン刺激によって惹起される古典的NF-kBシグナル活性化及びインターフェロン産生経路など自然免疫応答を抑制するが、MAPキナーゼ活性化への阻害効果は示さないこと、NF-kB活性亢進が関与するB細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)を顕著に細胞死に導くとともに、乾癬モデルマウスの治癒効果を示すことから創薬シーズとして有効であることを突き止めた。 

 第三者評価

評価1

直鎖状ユビキチン鎖のNF-kB活性化での役割やその疾患発症での重要性については徳永自身がすでに明らかにしており、その唯一のE3リガーゼであるLUBAC複合体を標的とする創薬はまさに的を射ている。本研究ではLUBAC阻害剤としてHOIPIN-1を同定し、構造展開から高活性のHOIPIN-8を得ている。さらに、それらがB細胞リンパ腫や乾癬の治療に効果があることも示している。また、直鎖状ユビキチン鎖分解酵素OTULINの阻害剤も治療応用を念頭に見出している。これらの一連の成果から十分に目的を達成したと判断できる。

 評価2

研究代表者が見出したLUBAC(直鎖状ユビキチン鎖形成リガーゼ)をNF-κB経路の新規薬剤標的として、有機化学者、皮膚疾患の専門家と共同でLUBAC阻害剤HOIPINを開発し、創薬シーズとすることに成功した。HOIPINのNF-κBシグナル抑制効果を細胞レベル・個体レベルで実証するだけではなく、より強力なHOIPIN誘導体の開発にも成功した。研究成果の公表も良好であり、今後の発展が大きく期待できる。日本のユビキチン創薬を牽引する優れた研究である。