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魚類で確認された論理的思考能力 ~動物行動における従来の常識を覆す発見~

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本研究は、Frontier誌の「今週の論文」に選ばれました。
                 
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆8/3 NHK「ニュースほっと関西」、毎日放送「VOICE」、時事通信、共同通信
◆8/4 朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞(夕)、産経新聞(夕)
150803.JPG◆8/5 大阪日日新聞
     ウォール・ストリート・ジャーナル
             >>記事はこちら
◆8/10 Japan Times※ >>記事はこちら
◆8/19 関西テレビ「ゆうがたLIVEワンダー」
◆8/22 毎日新聞(夕)
◆16/1/24 朝日新聞
その他、地方紙等多数掲載

概要

 理学研究科の幸田正典(こうだ まさのり)教授らの研究グループは、魚類の一種において、「A>BかつB>C であればA>Cである」という論理的な思考が可能であることを証明しました。
 今回の発見は、魚類を含む“下等”な脊椎動物は、刺激に反応する行動や単純な学習しかできないとするこれまでの常識を覆す成果と言えます。
 本内容は2015年8月3日 午後6時(日本時間)に、スイスの生物学専門誌であるFrontiers in Ecology and Evolution誌のオンライン版に掲載されました。

【雑誌名】
 Frontiers in Ecology and Evolution
【論文名】
 The use of multiple sources of social information in contest behaviour:
 testing the social cognitive abilities of a cichlid fish
【著 者】
 Takashi Hotta, Tomohiro Takeyama, Dik Heg, Satoshi Awata,
 Alexander Jordan, Masanori Kohda
 【掲載URL】
 http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fevo.2015.00085/full

本研究の概略

 「A>BかつB>C であればA>Cである」という論理的思考能力については、動物では哺乳類、特に霊長類で知られています。鳥類に関しては、2004年、Nature誌にマツカケス(カラスの仲間)での検証方法※1が掲載され、その後よく用いられています。しかし、この方法に基づいた魚類の研究例はこれまでありません。
 そこで、我々はカワスズメ科の一種である「ジュリドクロミス(左下写真参照)」を実験対象として、上記Nature誌の鳥類に関する論文で採用されたものと同様の実験方法を用いて実験を行いました。この魚は互いを識別すること、つまり個体識別能力があること、また、力関係の順位があり、弱い個体が強い個体に対し劣位行動を示すことが判明しています※2
150803-1.jpg 本実験では同サイズの雄3 個体を準備し、まず2個体を水槽に入れ、闘わせます。勝った個体をB、負けた個体をCとします。(負けた個体:Cが実験対象個体となります。)この時点でCは、B>Cという事実を把握しています。次にAとBが闘っているところを、水槽越しにCに見せます。この闘いでは、Aが勝ちました。つまり、A>Bという場面を、Cは目撃したことになります。CはAとは直接には闘っていませんが、もしCが“自分より強いBに勝ったAは、自分より強いだろう(すなわちA>C)”と推測できるのなら、CはAに対して闘う前に劣位行動を示すと予想されます。そして、実際に別の水槽でAとCを出会わせると、12個体のCのうち11個体が、統計的に有意にかつ的確に、劣位行動をとりました。劣位行動をとるその他の可能性も全て検討しましたが、いずれも棄却されました。以上の結果は、上記Nature誌で紹介されたマツカケスの場合とよく似ており、魚でもA>BかつB>CならA>Cとの論理的思考ができると結論づけられます。
 以上により、実験対象であるジュリドクロミスのほとんどの個体(11/12個体)が的確にこの論理的思考を行うことを検証し、魚類でのこの能力が霊長類やカラス類にも匹敵することを、本実験において初めて示しました。

注)
※1 "Pinyon jays use transitive inference to predict social dominance"
  Nature 430 (August 12, 2004), pp. 778-781; doi:10.1038/nature02723

※2 “The effect of body size on mating system and parental roles in a biparental cichlid fish (Julidochromis
  transcriptus): a preliminary laboratory experiment” J. Ethology, 24: 125-132. Doi:10.1007/s10164-005-0171-5

 CがBに負ける(B>C)    Cは(A>B)を観察    CはAに劣位行動(A>Cを理解)
 150803-2.jpg

本研究の波及効果

 従来の動物行動学や動物心理学では、大脳が大きく発達した哺乳類(特にヒトはじめ霊長類)が賢くて、洞察、類推や問題解決などの「思考」が可能であるのに対し、脳の小さな爬虫類、両生類、特に魚類にはそのような思考や認識能力はないと考えられてきました。今回、我々は魚類でも哺乳類に勝るとも劣らない論理的な思考ができることを示し、いずれは教科書の書き換えにつながっていく発見であると考えています。

 この成果の波及効果として、1)今後の動物行動学や動物心理学での研究の前提や方向性に大きな影響を与え、更なる展開が生じることが予想されます。例えば、現在我々はテキサス大学との共同研究において、魚が鏡の姿を自分と理解できること(自己鏡像認知)の検証実験を進めています。また、大きな脳でなくても高度な情報処理が可能であり、2)脳神経科学の分野にも影響を与えることが予想されます。一連の研究が、3)「動物の中でヒトだけが賢く、魚類などの下等な脊椎動物は思考能力を持たない」という一般の「常識」を変えること(例えば魚にも心があるなど)に繋がっていくことも期待しています。

本研究について

本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
◆科研費『脊椎動物の社会進化モデルとしてのカワスズメ科魚類の社会構造と行動基盤の解明』
◆科研費『魚類の共感能力と関連認知能力の解明およびそこから見える脊椎動物の共感性の系統発生』
◆科研費『脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から』


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